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第165章『父親』
しおりを挟むその後、結婚の話はとんとん拍子に進んでいった。
ちょいちょい、私たちの結婚を押した倉森の曾祖父が口を挟んでくるが、苦笑いで流す。
一度、お見舞いに行ったが、ベッドの上で寝たきりになっていた。
まあ、百歳を過ぎればそうなってもおかしくない。
「宣利さんと結婚する、羽島花琳です。
よろしくお願いします」
「……ふん」
曾祖父は挨拶をした私を一瞥だけして、すぐにそっぽを向いてしまった。
……いや、あなたに望まれたから結婚するんですが?
笑顔が引き攣らないか気を遣う。
「……あの人はいつもああなんだ。
気にするな」
こっそり宣利さんが耳打ちしてくれたが、それでも少し、傷ついた。
結婚式は贅を尽くした絢爛豪華なものだったが、酷く素っ気なかった。
周囲は私たちが政略結婚だと知っているので、仕方ない。
それでもうちの両親はもちろん、倉森のご両親も私を気遣ってくれて嬉しかった。
――ただ。
「……お金目当て」
宣利さんの姉、典子さんに睨まれたのは怖かった。
披露宴で隣に座る宣利さんをちらり。
結婚式でもそうだったが、にこりとも笑わない。
おかげで誓いのキスはマネキンとでもしているようで、乗り切れた。
この結婚が彼にとっても不本意なものなのはもう承知しているが、一応結婚式なんだから少しくらい笑ったっていいんじゃない?
……などと形ばかりの祝辞を聞きながら心の中で愚痴ってみる。
「なにか?」
スピーチが終わり、拍手が途絶えたタイミングで宣利さんが視線に気づいたのかこちらを見た。
「い、いえ!」
瞬間、目を逸らしてビシッと姿勢を正していた。
かけている銀縁眼鏡と相まって彼の冷たい視線は凍えるようだ。
そうか、これからはこれに付き合っていかなきゃいけないのか……。
いまさらながら、結婚を後悔した。
でも、まあ、そんなに長い期間ではないと言っていたし、我慢しよう。
披露宴のあとはそれらしく、そのまま会場だったホテルに泊まった。
ちなみに、新婚旅行は省略だ。
行ったところでこんな宣利さんとふたりっきりなんて耐えられないので、よかったと思う。
ベッドに座り、隣のベッドを睨む。
……〝夜〟はどうするんだろう?
形だけの結婚だから、初夜とかない気がする。
いやしかし、相手は仮にも男なんだし、くだんの曾祖父からは跡取りを早くと望まれていた。
もう処女でもないし、義務だと思えば割り切れる……かな?
しかしそんな私の気持ちを知らず、あとからやってきた宣利さんはさっさとベッドに入って眼鏡を置き、布団に潜って目を閉じた。
「あ、えと」
しないのかと聞くのもあれだし、聞くと催促しているようで言い出しにくい。
「なんだ?」
不満そうに彼の目が開く。
「その」
私が言いたいことをなかなか言わないからか、彼は若干苛ついているように見えた。
「ああ」
それでもすぐに察してくれたらしい。
「僕は君を抱かない。
どうせすぐに離婚するんだからな。
じゃあ、僕は寝る。
邪魔をしないでくれ」
再び彼は体勢を整え、目を閉じた。
「あ、はい。
おやすみな、さい」
気が抜けてすぐに寝息を立てだした宣利さんを見ていた。
……しないんだ。
しないのならしないほうがいい。
私だって好きでもない人間に抱かれるなんて嫌だし。
それでももしかして私は女として魅力がないんじゃないかと少し、落ち込んだ。
ちょいちょい、私たちの結婚を押した倉森の曾祖父が口を挟んでくるが、苦笑いで流す。
一度、お見舞いに行ったが、ベッドの上で寝たきりになっていた。
まあ、百歳を過ぎればそうなってもおかしくない。
「宣利さんと結婚する、羽島花琳です。
よろしくお願いします」
「……ふん」
曾祖父は挨拶をした私を一瞥だけして、すぐにそっぽを向いてしまった。
……いや、あなたに望まれたから結婚するんですが?
笑顔が引き攣らないか気を遣う。
「……あの人はいつもああなんだ。
気にするな」
こっそり宣利さんが耳打ちしてくれたが、それでも少し、傷ついた。
結婚式は贅を尽くした絢爛豪華なものだったが、酷く素っ気なかった。
周囲は私たちが政略結婚だと知っているので、仕方ない。
それでもうちの両親はもちろん、倉森のご両親も私を気遣ってくれて嬉しかった。
――ただ。
「……お金目当て」
宣利さんの姉、典子さんに睨まれたのは怖かった。
披露宴で隣に座る宣利さんをちらり。
結婚式でもそうだったが、にこりとも笑わない。
おかげで誓いのキスはマネキンとでもしているようで、乗り切れた。
この結婚が彼にとっても不本意なものなのはもう承知しているが、一応結婚式なんだから少しくらい笑ったっていいんじゃない?
……などと形ばかりの祝辞を聞きながら心の中で愚痴ってみる。
「なにか?」
スピーチが終わり、拍手が途絶えたタイミングで宣利さんが視線に気づいたのかこちらを見た。
「い、いえ!」
瞬間、目を逸らしてビシッと姿勢を正していた。
かけている銀縁眼鏡と相まって彼の冷たい視線は凍えるようだ。
そうか、これからはこれに付き合っていかなきゃいけないのか……。
いまさらながら、結婚を後悔した。
でも、まあ、そんなに長い期間ではないと言っていたし、我慢しよう。
披露宴のあとはそれらしく、そのまま会場だったホテルに泊まった。
ちなみに、新婚旅行は省略だ。
行ったところでこんな宣利さんとふたりっきりなんて耐えられないので、よかったと思う。
ベッドに座り、隣のベッドを睨む。
……〝夜〟はどうするんだろう?
形だけの結婚だから、初夜とかない気がする。
いやしかし、相手は仮にも男なんだし、くだんの曾祖父からは跡取りを早くと望まれていた。
もう処女でもないし、義務だと思えば割り切れる……かな?
しかしそんな私の気持ちを知らず、あとからやってきた宣利さんはさっさとベッドに入って眼鏡を置き、布団に潜って目を閉じた。
「あ、えと」
しないのかと聞くのもあれだし、聞くと催促しているようで言い出しにくい。
「なんだ?」
不満そうに彼の目が開く。
「その」
私が言いたいことをなかなか言わないからか、彼は若干苛ついているように見えた。
「ああ」
それでもすぐに察してくれたらしい。
「僕は君を抱かない。
どうせすぐに離婚するんだからな。
じゃあ、僕は寝る。
邪魔をしないでくれ」
再び彼は体勢を整え、目を閉じた。
「あ、はい。
おやすみな、さい」
気が抜けてすぐに寝息を立てだした宣利さんを見ていた。
……しないんだ。
しないのならしないほうがいい。
私だって好きでもない人間に抱かれるなんて嫌だし。
それでももしかして私は女として魅力がないんじゃないかと少し、落ち込んだ。
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