大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第142章『交わり』

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第142章『交わり』

 腕の中で喘ぎ、求め、果て、そして今寝息を立てる小さな身体、敦賀はそれを抱き締めながら、かれこれ一時間程考え込んでいた。
 目の当たりにしたタカコの残忍さ、そしてその向こうに在る怒りと悲しみ、それが一体何に起因する事なのか、答えは出ないと分かっていても考えずにはいられず、こうして彼女の寝顔を見ながら一人徒に思案を続けている。
 自らの命を危険に晒してでも筋を通したタカコ、その彼女が自分の憎しみ、殺意を優先させ北見を焼き殺した程の事とは一体何なのか、過去に何が有ったのか。話して欲しい、そう思うが彼女が話してくれるかは分からない、寧ろ話さない可能性の方が高いだろう。どんな事を打ち明けられても受け止め、そして受け入れるだけの覚悟は出来ているが、それと彼女が話してくれるかどうかは全く別の話だ。
 少しずつでも近づいているようでいて遠い距離、こうして腕の中に収め何度抱いても心の距離だけは縮まらない、それが何とももどかしい。
 タカコが自分達にしていた最大の隠し事は明らかにされた筈なのに、胸の内には変わらずに何かを抱えたまま。それを話せと無理強いする気は無いが、それでももう少しだけでも打ち解けてはくれないものか、そう思ってしまう。
 恐らく任務に関わる事ではない、個人的な事だろう、誰とどんな因縁を抱えているのか、自分も一緒に向き合ってやから早く話せ、そう思いながら抱き締める腕に力を込めれば、その感触で目を覚ましたのかタカコの双眸が薄らと開かれ、焦点の定まらない視線が敦賀へと向けられる。
「……敦賀」
「意識飛ばしてたぞ……少しは落ち着いたか」
「……うん、ごめん」
「謝るな……お前が悪いわけじゃねぇ」
 額へと口付ければ身体を摺り寄せられ、その熱と柔らかさを感じながら覆い被さり、顎を掬い上げて今度は唇へと口付けを落とす。躊躇いがちに、それでも素直に応える舌、背中へと回される腕、少しずつ熱と硬さの蘇り始めた自らの雄を彼女の身体へと擦りつければ、その感触に腕の中の身体はふるりと震え、喉の奥で小さく啼いた。
 身体中に口付けを落とし喘ぎを引き出し、再度貫いた後は直ぐに抽挿には移らず、打ち込まれた熱の感覚に小さく震え喘ぎを漏らすタカコの顔を覗き込む。
「……なぁ、俺が前に言った事、覚えてるか?」
「……え?な、に」
「背負ってるもん抱えてるもんが重いのなら俺に渡せ、一緒に持ってやる……そう言ったろ?」
 潤んだ眼差しが揺れる、敦賀はそれを見て僅かに目を細め頬へと口付け、そっと額を突き合わせて言葉を続けた。
「お前が何を抱えてるんでも良い、それがどんな重い事でも汚い事でも構わねぇ、そんな稼業でその歳迄生きてりゃ色々有るだろうよ、それで今更どう思ったりもしねぇよ。それでも、お前が一人でしんどそうなツラしてるのは気に入らねぇ。良い子ぶるんじゃねぇ、俺に当たり散らせ、それがどれだけ激しくても続いても、最後迄付き合ってやるから……だから、俺を頼れ、俺を見ろ、俺を……必要としろ」
 タカコの身体が強張るのが分かる、腰を進めてその感触に気を取られた隙に深く抱き締め、首筋を緩く吸い上げた。
「身体だけの付き合いでも何でも……それでも俺はお前がしんどそうなツラしてるのは見たくねぇんだよ、俺がそれを見てるだけで何もしてやれねぇのも。お前がどう思ってるのかなんざ関係無ぇ、俺が嫌なんだよ、だからもっと近くに来い。俺がいつでもお前に手を貸してやれる様に、離れようとするんじゃねぇよ、この馬鹿女」
 耳朶に唇を寄せてそう言ってから顔を覗き込めば、潤んでいた双眸からは涙が溢れ出て眦を伝いこめかみを濡らしていて、敦賀はタカコのその泣き顔に胸が痛むのを感じながら、濡れた眦へと口付け涙を吸い上げる。
「……泣くな、俺は小器用じゃねぇから、こういう時どうしたら良いかなんて分かんねぇんだよ、だから、泣くな」
 いつもいつも強気なタカコ、その彼女の涙を見るとどうしたら良いのか本当に分からなくなる、それでも何とかしようと再度眦へと口付ければ、背中に回されたタカコの腕に力が込められ、彼女の両足が腰へと絡められ密着度が増す。そして、
「……だったら、抱いて、何も考えずに済む位……今は、それだけで良いから」
 その言葉に続けて口付けられ、歯列を割って入って来る舌の感触に背筋を何かが走り抜ける。舌に緩く歯を立ててきつく抱き締め、再度腰を進めれば、絡みつく足にも更に力が込められた。
 そして始まった激しい抽挿、タカコの身体がそれに突き上げられ、眦に浮かんだ涙が勢いに負けて時折弾ける。間断無く彼女の口から溢れる喘ぎに、ああ、これは泣き声なのだと敦賀は理解した。
 結局何も言わないまま、それでもタカコの方から自分を求めて来た、縋ってくれた、今はそれで一旦は引いておこう。問い詰めればきっと逃げてしまうだろうから、それだけは絶対に避けたいから。
「……っ!」
 急激に大きくなる腰周りのざわつき、それに眉根を寄せて動きを早めれば、やがて訪れた吐精と腰から背中へと駆け抜ける快感、低く呻きながら奥へ奥へと更に腰を進め、中へと全てを吐き出した。
 荒い息、浮いた汗、そのままどさりとタカコへと覆い被さればまた彼女の方から口付けられ、お互いの荒い息すらも飲み込む様に深く貪り合う。そしてそれが離れた時、タカコの唇がまた言葉を紡ぎ、敦賀はそれに小さく歯を軋らせた。
「……もっと……頂戴?」
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