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第103章『所属』
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第103章『所属』
出会いとその直後の埋葬、その時にしか見た事の無いタカコの装いを見て、成る程、所属の違いを明確に主張して来たか、と、高根は得心した。兵器の開発を共同で行って来たとは言え大和とワシントン、夫々の属する国家が違うのだからいつ迄も馴れ合っている事は双方に良い結果を生まないとでも判断したのだろう、彼女のその判断の素早さにやはり良い素質を持っていると薄く笑う。
今迄が不自然だったのだ、形式上捕虜として扱い、個人としても近しい付き合いをして来たが、本来であれば違う陣営に属し違う国益を見据えて動く、別の国と力学の間柄なのだ。
眼差しと振る舞いも明らかに変わっている、今迄は強い物言いをする事も有ったがそれでもそこには親しみを感じさせ、個人としての彼女が前面に押し出されていたが今はそれも鳴りを潜め、意識的か無意識か、どちらにせよ自分達大和陣営とは距離を置こうとしている事が感じ取れた。
この佇まい、纏う空気、自分はこれをよく知っている。これは、指揮官として人の上に立つ者が持つ空気だ、自分や、そして黒川の様に。
黒川も同じ様に感じているのだろう、彼の方を見てみれば視線がぶつかり合い、お互いに言葉も無く頷き合う。
これが吉と出るのか凶と出るのか、それはまだ分からない、タカコ自身を詰問したとしても言いはしないだろう。それでもこの明確な意思表示には意味が有る、それは確かだ。そんな事を考えつつ前方の的へと視線を移せば、そこには自分達大和とタカコの属するワシントン、その技術力と戦略の差が明確な形となって自分達へと突きつけられていた。
用意された的はその全てが胸元の正中線を撃ち抜かれ、無様な残骸となってその姿を晒している、これが量産されて制式配備され運用されているワシントン軍、その彼等と正面からぶつかり合う事が無くて良かったと言わざるを得ないだろう、もしそんな事になれば一方的に蹂躙され制圧されるであろう事は子供でも分かる。
やはりタカコを掌中に収めていて良かった、そう思うと同時に、彼女のこの変化は不安要素でもある、もしタカコが掌を返す事が有ったとして、制圧を決断するとなればその尖兵となるのは敦賀以外には有り得ない。今迄彼女をこの国に縛り付けておく為に散々彼を焚き付けて来た事が裏目に出なければ良いのだが、そんな事を考えた。
敦賀がタカコに惹かれているのと同じ様に、彼女もまた敦賀に惹かれている部分は有るのだろうということは感じてはいるものの、黒川に対しても同じ程度には彼女の気持ちが向けられているのだという事も感じている。その程度に弱いものでは任務や立場を捨てさせ自分達と共にこの先を生きて行く決断をさせるには決定打に欠けるだろう、現状のまま彼女に何か決定的な転換が齎されれば、彼女がとるのは恐らくは国と任務、そして本来の立場だろう。
彼女の口から彼女の本来の立場を聞いた事は無い、正規軍の特殊部隊指揮官というのは自分と黒川の見立てでしかない、今となってはその見立てが大きく外れ彼女が単なる民間企業の中間管理職である事を祈りたくもなるが、こういう事に関して自分は、そして黒川も見立てを外した事が無いのが恨めしい。
こうなれば仮初とは言え同盟を組んだ事を盾にするしか無いのだろうが、単なる口約束が何処迄有効なのか甚だ疑問が残る、彼女に軍人としての矜持が僅かでも有る事を祈るしか無いなと内心で嘆息した。
軍人としての有能さは公明正大である事に比例しないのは自分が一番良く分かっている、特に特殊部隊の指揮官ともなれば汚れ仕事も数多く経験しているだろう。それこそ、昨日迄朋友として付き合っていた相手を眉一つ動かさずに消し去る事も経験しているかも知れない。味方にすればこれ以上心強い存在も無いが、敵に回るとなれば最悪の相手に早変わりだ。
その不確かな存在に自分は大和人二千五百万の命と未来を託す決断をした、自分達大和軍人が死に絶えるだけで済めばまだ良いが、全大和人の未来を託した以上、目論見が外れる事等、絶対に有ってはならないのだ。
危険な賭けである事は最初から分かっていた、確実に勝てる賭けではない事も。それでも彼女からの申し出に乗ったのは、このまま従来の戦法を採り続けても、将来的にジリ貧になり滅亡するであろう事が分かりきっていたから。
賭けに乗った以上は勝たなければならない、これは司令官としての絶対的な責務だ。いつか死んであの世とやらに逝った時、先にそちらへと逝っていた部下達に何の慰めも朗報も無いままに終わる事等、有ってはならない。その為に多くを切り捨てて来た、多くを死なせて来た、今更この賭けから下りる事は出来ないししたくもない。
彼女がここで敢えて所属の違いを明確に表して来た理由は分からない、それでも自分の気を引き締める役には立ったなと、そんな事を考えつつ高根は前方で弾を込め換えるタカコの背中を見詰めていた。
彼女の持つ技術力や知識に関しては信用している、現状提供された銃器や弾薬に関して大きく隠匿されているという感触も無い。恐らく大和国内での銃器の製造とその配備に関してはこのまま問題無く進み、遠からず制式配備となるだろう。
それでも未だ残る違和感と懸念、高根はそれを振り払う様に、タカコの挙動を見詰める人の壁から後ろに下がり、ポケットから取り出した煙草を咥えそれに火を点けた。
出会いとその直後の埋葬、その時にしか見た事の無いタカコの装いを見て、成る程、所属の違いを明確に主張して来たか、と、高根は得心した。兵器の開発を共同で行って来たとは言え大和とワシントン、夫々の属する国家が違うのだからいつ迄も馴れ合っている事は双方に良い結果を生まないとでも判断したのだろう、彼女のその判断の素早さにやはり良い素質を持っていると薄く笑う。
今迄が不自然だったのだ、形式上捕虜として扱い、個人としても近しい付き合いをして来たが、本来であれば違う陣営に属し違う国益を見据えて動く、別の国と力学の間柄なのだ。
眼差しと振る舞いも明らかに変わっている、今迄は強い物言いをする事も有ったがそれでもそこには親しみを感じさせ、個人としての彼女が前面に押し出されていたが今はそれも鳴りを潜め、意識的か無意識か、どちらにせよ自分達大和陣営とは距離を置こうとしている事が感じ取れた。
この佇まい、纏う空気、自分はこれをよく知っている。これは、指揮官として人の上に立つ者が持つ空気だ、自分や、そして黒川の様に。
黒川も同じ様に感じているのだろう、彼の方を見てみれば視線がぶつかり合い、お互いに言葉も無く頷き合う。
これが吉と出るのか凶と出るのか、それはまだ分からない、タカコ自身を詰問したとしても言いはしないだろう。それでもこの明確な意思表示には意味が有る、それは確かだ。そんな事を考えつつ前方の的へと視線を移せば、そこには自分達大和とタカコの属するワシントン、その技術力と戦略の差が明確な形となって自分達へと突きつけられていた。
用意された的はその全てが胸元の正中線を撃ち抜かれ、無様な残骸となってその姿を晒している、これが量産されて制式配備され運用されているワシントン軍、その彼等と正面からぶつかり合う事が無くて良かったと言わざるを得ないだろう、もしそんな事になれば一方的に蹂躙され制圧されるであろう事は子供でも分かる。
やはりタカコを掌中に収めていて良かった、そう思うと同時に、彼女のこの変化は不安要素でもある、もしタカコが掌を返す事が有ったとして、制圧を決断するとなればその尖兵となるのは敦賀以外には有り得ない。今迄彼女をこの国に縛り付けておく為に散々彼を焚き付けて来た事が裏目に出なければ良いのだが、そんな事を考えた。
敦賀がタカコに惹かれているのと同じ様に、彼女もまた敦賀に惹かれている部分は有るのだろうということは感じてはいるものの、黒川に対しても同じ程度には彼女の気持ちが向けられているのだという事も感じている。その程度に弱いものでは任務や立場を捨てさせ自分達と共にこの先を生きて行く決断をさせるには決定打に欠けるだろう、現状のまま彼女に何か決定的な転換が齎されれば、彼女がとるのは恐らくは国と任務、そして本来の立場だろう。
彼女の口から彼女の本来の立場を聞いた事は無い、正規軍の特殊部隊指揮官というのは自分と黒川の見立てでしかない、今となってはその見立てが大きく外れ彼女が単なる民間企業の中間管理職である事を祈りたくもなるが、こういう事に関して自分は、そして黒川も見立てを外した事が無いのが恨めしい。
こうなれば仮初とは言え同盟を組んだ事を盾にするしか無いのだろうが、単なる口約束が何処迄有効なのか甚だ疑問が残る、彼女に軍人としての矜持が僅かでも有る事を祈るしか無いなと内心で嘆息した。
軍人としての有能さは公明正大である事に比例しないのは自分が一番良く分かっている、特に特殊部隊の指揮官ともなれば汚れ仕事も数多く経験しているだろう。それこそ、昨日迄朋友として付き合っていた相手を眉一つ動かさずに消し去る事も経験しているかも知れない。味方にすればこれ以上心強い存在も無いが、敵に回るとなれば最悪の相手に早変わりだ。
その不確かな存在に自分は大和人二千五百万の命と未来を託す決断をした、自分達大和軍人が死に絶えるだけで済めばまだ良いが、全大和人の未来を託した以上、目論見が外れる事等、絶対に有ってはならないのだ。
危険な賭けである事は最初から分かっていた、確実に勝てる賭けではない事も。それでも彼女からの申し出に乗ったのは、このまま従来の戦法を採り続けても、将来的にジリ貧になり滅亡するであろう事が分かりきっていたから。
賭けに乗った以上は勝たなければならない、これは司令官としての絶対的な責務だ。いつか死んであの世とやらに逝った時、先にそちらへと逝っていた部下達に何の慰めも朗報も無いままに終わる事等、有ってはならない。その為に多くを切り捨てて来た、多くを死なせて来た、今更この賭けから下りる事は出来ないししたくもない。
彼女がここで敢えて所属の違いを明確に表して来た理由は分からない、それでも自分の気を引き締める役には立ったなと、そんな事を考えつつ高根は前方で弾を込め換えるタカコの背中を見詰めていた。
彼女の持つ技術力や知識に関しては信用している、現状提供された銃器や弾薬に関して大きく隠匿されているという感触も無い。恐らく大和国内での銃器の製造とその配備に関してはこのまま問題無く進み、遠からず制式配備となるだろう。
それでも未だ残る違和感と懸念、高根はそれを振り払う様に、タカコの挙動を見詰める人の壁から後ろに下がり、ポケットから取り出した煙草を咥えそれに火を点けた。
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