時の宝珠~どうしても死んだ娘に会いたい~

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23、暗黒の国スペロ 3

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俺(シュウ)と姫さんは、妖しい森の中へ入っていった。

何が妖しいかって、全部だよ。

葉っぱが茂ってて、空は見えないし、日中だというのに、薄暗い、

しかも、葉っぱの色は緑じゃなくて、灰色だぜ。

10分は歩いたかと思うと、いきなり景色が逆転した。

今までグレイだった景色が、鮮やかなカラーに染まっていた。

大きく開けた広場がそこに在り、真ん中には、水が湧き出ている噴水があった。

まるで楽園のような景色。

木々は青々とし、暖かな木漏れ日が指していた。

木のベンチがあちこちにあり、そこには、人が座っていた。

そう、人達だ・・ 昨日、見たゾンビではない。

普通の人たちだった。彼らは薄汚れておらず、みんな身ぎれいな姿をしていた。

俺と姫さんは、呆然としていたが、

「姫さん、これはどういうことかな? 夢でも見ているのかな?」

「シュウさん・・わかりませんけど、夢ではないようですね」

「とにかく、話しかけてみようか?」
「危険な感じはしないな」

俺がそう言うと、姫さんはうなずいた。

一番近くのベンチに座っている、冒険者風の男女のところへ近づき、

俺は話かけた。

「ちょっといいかい?」

俺が話掛けると、座っていたカップルは、俺たちの方へ顔を向けたが、

その瞳は精気を失っており、まるで死んだ魚の様な目をしていた。

そう、生きている人間の目ではない。

よく見てみると、彼らは息をしていない。

そう、彼らは死んでいるんだと、俺は直感した。

そう思うと、他の人たちからも精気を一切感じない。

死んでしまうと、こうなって終うんだな、香織はどうしてるのかな・・

俺は、ふと、そう思った。顔に出ていたのか、

姫さんが、心配そうに
「シュウさん、大丈夫ですか」
と声をかけてきた。

「なんでもない、この人たち、もう死んでいるんだね」
俺がそう呟くと、

「そうですね、昨日の夜、浜辺に来ていた人たちですね」
「夜になれば浜辺に行き、ディスフィッシュに魂を食べられ、暗黒の世界を
 彷徨うのでしょうか」
姫さんはそう言うと、悲しそうな顔をした。

「ああ、何とか助けてやりたいが、どうしたもんかね」

「私を倒せば、その願い、叶うかもな」

その言葉に、俺たちが振り返ると、
そこには、30代らしき青い目をした青年が立っていた。
だが、その風貌に見覚えがある、その服装にも、そして、その杖にも、

「お前は、もしかしてマルーンか?」
俺がそう尋ねると、

「異界の者よ、シュウといったかな」
「そう、確かに我はマルーンだよ」

そう言ったマルーンを、寂しそうに微笑んだように、俺には思えた。

「マルーン、その風貌は、いつもと大分違うようだが、この場所が関係しているのかい」

「そうだな、私がテネブリス神と契約した時の姿だね、そして、ここでは、私は、私でいられるのだよ」
「この世界の外へ出た私は、人が変わり、テネブリス神の僕(シモベ)となる」
「ここへ戻れば、自分がして来たことを、嫌でも思い出す」
「私は、ただ、私の愛した家族と一緒にいたかった、ただ、それだけなんだよ」
「シュウ、お願いがある。私を倒してくれないか」
「どちらにしても、私を倒さないと、テネブリス神には会えないし、貴方たちの望みも叶えられない」

俺は、
「わかった」
そう一言だけ、応えた。

「シュウよ、今から、戦う場に行くが、そこに行けば、私はいつもの私に戻るであろう。」
「そして、私を倒せば、テネブリス神に会えるだろう」
「一つだけ、テネブリス神の眼には気をつけよ」
「これ以上は、話すことは出来ない、準備はいいか」

「ああ、いいぜ。お前を開放してやる」

微笑みながら、マルーンは、その杖を右手で掲げた。

すると、眩い光が辺りを包んだ。
眩しくて目を閉じていたが、光が収まり、目を開けると、
辺りは、月の明かりがさす、薄暗い場所であり、
地面はごつごつとした岩肌であり、
目の前には、マルーンがいた。
そう、いつもの、あのマルーンだ。
俺は、刀を現下し、両手で正眼に構えた。

「マルーン」
俺が呟くと、

マルーンの眼は、黒く輝き、一言、
「異界人よ、我が世界へようこそ、ここが、お前の墓場となるであろう」
そういいながら、杖を構えた。

ここに、シュウとマルーンの最後の戦いが始まろうとしていた。
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