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9、侵入

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ここは人族の国 チャオの首都マグナ王宮の地下、
宰相・マルーンの実験室
そこには、先ほど殺害された者(エルフ)たちが、無造作に並べられていた。

「妖精との混合によって作られたエルフたちであれば、妖精よりももっと強い
ものが出来るであろうよ」
マルーンは、一人呟(ツブヤ)くと、右手から黒い光が現れ、1本の50cm程の葉っぱが金色の枝が現れ、それは真っ黒な黒い杖へと変わった。
マルーンは、その杖を死んだエルフ達に向けると、杖の一番上に付いている黒い六角形の石が淡く光った。
「うむ、これは光と土、これは水と水、これは風と土・・」
ぶつぶつと独り言を言いながら、死んでいるエルフ達に次々とかざしていった。
そして、一番奥に、無造作に置かれている者に杖をかざした。
「さて、一番の魔法使いと言われたアミシャスは、どの様なものか」
「ほお~、これは、光と風と・・闇か」
「これは良いの、あの方も喜ぶだろうて」
「それでは、作業に入るとするか」

マルーンの実験室には、何人たりとも入ることは許されていなかった。

次の日、マルーンより、新しい魔術のスクロール99枚が、魔術師たちに渡された


西の砦、1番隊の騎兵100名は、首都マグナにこの異変を知らせるために、
馬を走らせていた、途中の街に知らせるために、20名は別行動になった。
その中にリーンも含まれていた。

リーンは、考えていた。
ユンの事だけを・・
「ロクエイは死んだ、ここで、俺まで死ねば、ユンはどうなる」

その時、20名を預かる、タッカーから、指示がでる。
「リーン、ショクエイ、この先のハクアの街に異変を知らせろ、避難するように伝えるのだ、そのまま残り、街の守備兵と合流すること」
リーン、ショクエイの2人は、手を上げ、了解の旨を伝え、
騎馬軍団から離脱し、東にあるハクアの街へと向かった。

リーンは迷う、
このままハクア街で、避難だと、また、守備兵と合流だと・・
あの獣人たちが来れば、敵うはずがない。
ハクア街は、確か、1,000人位の規模だ、しかも守備兵は20人もいないはず

ユンの街は、ここからマグナに向かう手前にある。
ここで俺が死ねば、俺とユンの村も・・

スピードの落ちたリーンに、ショクエイが、
「リーン、どうした 馬の調子が悪いのか」

「ショクエイ、済まない 俺はハクアには行かない」

「何を言っている、命令拒否は極刑だぞ」

「見逃してくれ、俺はどうしても行かなければならない処がある」

「リーン、ふざけた事を言うな、それが許されると思うのか」

「ショクエイ、頼む、お前だけで行ってくれ」

「リーン、逃げるつもりだな」

そう言うと、ショクエイは剣を抜いた。
「行かせるわけにはいかん、諦めろ」
「お前の剣の腕では、俺には敵わないのは知っているだろう」
「まだ、ふざけた事を言うなら、ここで、切り捨てるぞ」

「分かった、従う」

「よし、時間を取った、急ぐぞ」

ショクエイが、馬の踵を返して、走らせようとした時、
リーンは、剣を抜き、後ろからショクエイの身体を貫いた。

ガホッ、ショクエイは血を吐き、

「リーン・・何を・・」

ショクエイは、そのまま馬から地面に落ち、絶命した。

「俺は悪くないぞ、お前が俺の言うことを聞いてくれれば・・」
「俺が居なければ、ユンは・・ユンは・・」

リーンの目は黒く光り、ショクエイの血の付いた剣を振るい、血を払ったあと、
馬をユンの居る村に向けて走らせた。
「俺が・・俺が・・ユンは俺のものだ」

連絡が届かなかった、ハクアの街は、獣人たちの進撃に気付いた時には、
何の準備もすることが出来ず、蹂躙され、一人残らず居なくなった。


俺(シュウ)たち一行は、マグナの直ぐ側の森まで来ていた、
さすがに昼間はまずいので、ここで夜待ちだ。
門は、東西南北に4つある、常時開いているのは、南北の門だけ。
東西の門は閉じられていて、必要があるときだけ開かれる。
部隊が出る時とかだそうだ。
周りを囲んでいる塀は、約4m位かな、まあ、俺なら飛びつけるかな。
まず、俺が塀の上に上がって、塀内に降り、木戸を開けるのが一番良いかな。
その後が問題なんだよな。
姫さんの話だと、多分、クペランテ王は王宮に投獄されていそうだというけどな、どうやって入るかが問題だ。
まあ、でたとこ勝負ということで。

その時、西の門が開いた(・・・)。

開いた門から、騎馬隊、歩兵隊の部隊が大量に出てくる。

「姫さん、何かあったのかな?」
俺が尋ねると、

バルチャーム姫は、
「分かりませんが、最初に出てきた、あの赤い色は、赤い稲妻と呼ばれている部隊です、総力15,000人、でもあの数はその倍はいますね、フォルティ、何かわかる」

「姫のおっしゃる通り、最初の軍勢は、マグナの第1部隊と思われます。
その後に続くのは、おそらく予備兵でしょう。チャオは、予備兵を抱えていますから
 多分、総数でいうなら、3~4万人はいそうですね。
しかし、これだけの軍勢がでるとなると、何か大きな戦いがありますね」

俺は、いつも無口なフォルティが、結構喋るのを聞いて、
なんだ、こいつ、結構話すのかと、どうでもいいことを考えていた。

更に、フォルティは、
「これだけの軍勢が、ここから居なくなってくれれば、中は手薄になるでしょう。
こちらにとっては好機です。ただ、あれがエルフ国への侵攻でなければよいのですが」

俺は、フォルティに、
「フォルティさん、多分違うんじゃないかな。エルフ5,000人にあれだけの人数はいらないと思うし、出るなら東門じゃないかな」
「それに、エルフの王を捕えているのであれば、急ぐ必要はないし」
「西の方角って、確か、魔物の国だっけ」

姫が、
「はい、魔物の国ルピティス、別名“獣人の国”と呼ばれています」

「獣人の国って、どんな獣人がいるの」

「色々ですね、豹人、狼人、熊人、虎人、兎人..多種多様な獣人がいます」
「獣人たちは、REX(レックス)という冠を得るために、お互いに争いあって、国からは出てこないはずですけど」

フォルティが、
「もしかすると、どの種族か、REXを手に入れたのかもしれません」

「REXってなんだい」
俺が尋ねると、

フォルティは、
「REXは、茨の冠のことです。これを得ることができれば、獣人の王になることが出来ると言われていますが、詳しいことはわかりません」
「獣人たちは、魔法は使えませんが、その身体能力は高く。
人族3人でやっと対等に戦えると言われています」
「種族の種類や、数など、詳しいことは分かっていないのです」

「それは、どうしてだい」

「なぜ、魔物の国と呼ばれるかというと、あの国は、時間によって、森林だったり、水場だったり、平地だったりとその種族の住む環境に変わります」
「そして、1年に1度だけ、祭壇のある場所が開かれ、そこにREXが現れると言われています」
「推測ですが、どの種族かが、REXを得たのかもしれません。更に、人族は、獣人たちを奴隷として使っていますから、恨まれているでしょう」

俺は、
「今の状況だけで、判断ができないな。
とにかく、夜を待って、中に入って見て、
それからだ、姫さんもフォルティもいいな」

フォルティとバルチャーム姫は、2人とも頷いた。

「マルーン宰相殿、西の砦より伝令が来ております」
若い衛兵が、報告をマルーン宰相に伝えた。

「ここに通せ」

執務室に伝令が通された。

「宰相、魔物の国より、数万の獣人の軍勢が、マグナに向けて侵攻は始めました
 西の砦は、多分、もう落ちたと思われます」

魔物の国の軍勢だと・・
そうか、REXをどの種族か、手に入れたということか。

マルーンは、側にいる衛兵に
「バニタスを呼べ、それと予備兵を招集」

「は、わかりました」
衛兵は、慌てた様子で、執務室を出て行った。

これは、これは面白いことになってきたものだ。
今、この手に、エルフ国王があり、REXが入れば・・

「ルブラム」
マルーンが一言つぶやくと、

黒い靄が現れ、そこに、黒いフード姿の男が現れた。

「転移魔術を使い、獣人の誰が、REXを手に入れたのか調べよ」

「御意」

そういうと、その男は、黒い靄となって、消え去った。

その夜、俺(シュウ)たちは、首都マグナ城内に忍び込んだ。
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