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第二章
第十八話 黒い怨霊師
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「あなたは油断しすぎましたねえ」
悪党紳士は、俺の怒りの表情に眉一つも動かさないでそう言った。
「……」
俺は無言で、怒りの表情は崩さないでそのままにらみ付けている。
だが、なんとなくこいつの言いたい事が見えてきた。
エマがこうなったのは、俺のせい……。
「私の住む世界では、証拠はいらないのですよ。裁判も無い。こいつがやったのが間違いない、そう判断できれば良いのです」
「何が言いたい」
「貴方は、九人殺しましたね。ひひひっ」
悪党紳士は、表情は変えず声だけで笑った。
視線は、俺の顔に向けられている。
俺の表情を少しも漏らさず観察しようとしている様だ。
「知らないな」
「ふふふ、あなたはポーカーフェイスを憶えた方がいいですね。一瞬ですが何でわかった? という表情をしましたよ」
「ふふっ」
俺は、少しも表情は変えていないという意味で、あきれたように笑った。
「もし私が、殺した者と同じ組織の者なら、貴方はもう死んでいますよ」
「ははははははっ! 俺がその気なら、お前ら全員とっくに死んでいるぞ」
「なっ!?」
もちろん嘘だ。
俺が出来るのは、怨霊が憑いている後ろの男達四人だけだ。
だが、その瞬間悪党紳士が驚きの表情を見せた。
どうやら、俺がどうやっているのかまでは、つかんでいないようだ。
ポーカーフェイスを言っていた本人が、それを忘れちゃあいけないぜ。
「ふふふ、知っていますか。今の日本は、本当の悪に蝕まれています。政治家の中に、反日の国の人がとても多い。こういう人が行う政治は、日本人が滅ぶような政治です。外国人に、とても手厚い政策を行い日本人が生きていけない国になりつつあります」
「俺は、政治に興味はねえ」
「そうですか。では、簡単に。今この国の首都には、外国のマフィアが、日本人を苦しめています。それだけではありません、半グレ集団も滅茶苦茶暴れています。そこには法も秩序もありません。多くの何の罪も無い人が殺されています。助けたいと思いませんか」
「ひゃはは! 人助けだと、エマをあんなにぐちゃぐちゃにしておいて、よく言えたもんだな!」
「瞬君、ごめん!? 聞いてあげて」
「エマ!!」
「ふふふ、エマさんには理解をしてもらっています」
「……言ってみろ」
「貴方が殺した九人は、龍温羅会という昔風に言うならチーマー系の半グレの幹部です。逆らう者は皆殺にしてしまう人殺し集団です。ですが現在は逮捕者も出ず野放しです」
「あんたらは、一体何者なんだ?」
「これは、失礼しました。私は北関東大倭連合。ふふっ、暴走族系の半グレ集団です。現在は総長の名から源一家を名のっています。逆らう者は皆殺しにしている集団です」
「か、変わらねーじゃねーか!!」
「ふふふ、変わりませんよ。私達は白を正義とするなら真っ黒です。でも、良いじゃ無いですか。黒が黒を退治しても。白が退治しなけりゃあならない事も無いでしょう。トータルで黒が一個減るのですから。違いますか?」
「黒が黒を退治する……」
「あの子、エマさんって言うのですか。すごい子ですよね。男でも一日で音を上げる拷問を、三日も耐えたのですよ。このままでは、死んでしまうので違う方法にしようと性的な拷問に切替えたら、服に手を掛けただけで落ちました。好きな人がいるから純潔が守りたいそうですよ。そこからは私の言う事を良く理解してくれました」
「ふふふ、だいたい白なんて、こんな社会にあるのかって話か」
「私達は、麻薬を扱う集団や、人身売買などを行う凶悪な犯罪組織を皆殺しにしています。文字通り皆殺しです。マフィアや、半グレ何でもです。悪い事をする奴は許しません。そのおかげで、敵が多い多い。総長の首は何十億円もの賞金がかかっています」
「で?」
「貴方は、組織の力の中にいた方がいい。このままでは、あなたはあと数ヶ月で殺されますよ。断言できます」
「あんた、名前は」
「私は、柳川です。このあたり一体の地主です。このビルも私の持ち物です」
「なっ!? じゃあそれで俺の事がわかったのか」
「違いますよ。毎年犠牲者の出る新歓コンパ、ここにスパイを潜り込ませています。後輩を助けたいと種をまいて、それに引っかかった者をスカウトしているのです。まさか貴方ほどの大物が引っかかるとは思いませんでしたがね」
「ふふ、それが油断か」
「そうです。貴方は信用する友人から相談を受けて、自分なら助けられると思ったのじゃ無いですか? 罠だとも知らずにね。軽率でしたね」
「……」
「これからは、我らが味方になります。その代わり我らにも力を貸して下さい」
「ふふふ、だが条件がある。俺が相手にするのは、人殺しをした事がある者。そしてその者が、再び罪を犯すその時にのみ、力を使うという条件だ」
「なるほど、人殺しをしていても、現在真面目に暮らしている者までは殺したくない。そういうことですか。それとも……そういう相手しか殺せない……」
柳川と言うのは、深読みしすぎで勝手に勘違いをしてくれた。
わざわざ訂正する事も無いだろう。
「おい、もうミサはいいだろう。放してやってくれ」
「おい!!」
柳川が後ろの男に声をかけた。
「きゃっ!!」
エマは一人で立てないほど衰弱している様だ。
男が手を離したら、声を出してその場に崩れ落ちた。
「エマ、大丈夫か?」
俺はエマに駆け寄って、優しく体を支えた。
「ごめんね。貴方の事を知られないように頑張ったのだけど……。だから、貴方にもしもの事があったときには、私も死ぬつもりでした。許して下さい。うっうう……」
エマは弱々しい声で、俺の耳元でささやいた。
こんなになるまで頑張らなくてもいいのに……。
俺の事などすぐにばらして、楽になればいいのに。
「エマ、俺なんかの為によく頑張ってくれた。だが、俺は人の命を奪っている。いつでも、報いをうける覚悟はできている。いつ死んでもいいのさ。だから俺の事は守らなくていい。なにかあったら自分を守ってくれ、頼む」
「うっ、うううう……」
エマはしばらく泣き止まなかった。
こうして俺は、黒い者を退治する黒いものになった。
悪党紳士は、俺の怒りの表情に眉一つも動かさないでそう言った。
「……」
俺は無言で、怒りの表情は崩さないでそのままにらみ付けている。
だが、なんとなくこいつの言いたい事が見えてきた。
エマがこうなったのは、俺のせい……。
「私の住む世界では、証拠はいらないのですよ。裁判も無い。こいつがやったのが間違いない、そう判断できれば良いのです」
「何が言いたい」
「貴方は、九人殺しましたね。ひひひっ」
悪党紳士は、表情は変えず声だけで笑った。
視線は、俺の顔に向けられている。
俺の表情を少しも漏らさず観察しようとしている様だ。
「知らないな」
「ふふふ、あなたはポーカーフェイスを憶えた方がいいですね。一瞬ですが何でわかった? という表情をしましたよ」
「ふふっ」
俺は、少しも表情は変えていないという意味で、あきれたように笑った。
「もし私が、殺した者と同じ組織の者なら、貴方はもう死んでいますよ」
「ははははははっ! 俺がその気なら、お前ら全員とっくに死んでいるぞ」
「なっ!?」
もちろん嘘だ。
俺が出来るのは、怨霊が憑いている後ろの男達四人だけだ。
だが、その瞬間悪党紳士が驚きの表情を見せた。
どうやら、俺がどうやっているのかまでは、つかんでいないようだ。
ポーカーフェイスを言っていた本人が、それを忘れちゃあいけないぜ。
「ふふふ、知っていますか。今の日本は、本当の悪に蝕まれています。政治家の中に、反日の国の人がとても多い。こういう人が行う政治は、日本人が滅ぶような政治です。外国人に、とても手厚い政策を行い日本人が生きていけない国になりつつあります」
「俺は、政治に興味はねえ」
「そうですか。では、簡単に。今この国の首都には、外国のマフィアが、日本人を苦しめています。それだけではありません、半グレ集団も滅茶苦茶暴れています。そこには法も秩序もありません。多くの何の罪も無い人が殺されています。助けたいと思いませんか」
「ひゃはは! 人助けだと、エマをあんなにぐちゃぐちゃにしておいて、よく言えたもんだな!」
「瞬君、ごめん!? 聞いてあげて」
「エマ!!」
「ふふふ、エマさんには理解をしてもらっています」
「……言ってみろ」
「貴方が殺した九人は、龍温羅会という昔風に言うならチーマー系の半グレの幹部です。逆らう者は皆殺にしてしまう人殺し集団です。ですが現在は逮捕者も出ず野放しです」
「あんたらは、一体何者なんだ?」
「これは、失礼しました。私は北関東大倭連合。ふふっ、暴走族系の半グレ集団です。現在は総長の名から源一家を名のっています。逆らう者は皆殺しにしている集団です」
「か、変わらねーじゃねーか!!」
「ふふふ、変わりませんよ。私達は白を正義とするなら真っ黒です。でも、良いじゃ無いですか。黒が黒を退治しても。白が退治しなけりゃあならない事も無いでしょう。トータルで黒が一個減るのですから。違いますか?」
「黒が黒を退治する……」
「あの子、エマさんって言うのですか。すごい子ですよね。男でも一日で音を上げる拷問を、三日も耐えたのですよ。このままでは、死んでしまうので違う方法にしようと性的な拷問に切替えたら、服に手を掛けただけで落ちました。好きな人がいるから純潔が守りたいそうですよ。そこからは私の言う事を良く理解してくれました」
「ふふふ、だいたい白なんて、こんな社会にあるのかって話か」
「私達は、麻薬を扱う集団や、人身売買などを行う凶悪な犯罪組織を皆殺しにしています。文字通り皆殺しです。マフィアや、半グレ何でもです。悪い事をする奴は許しません。そのおかげで、敵が多い多い。総長の首は何十億円もの賞金がかかっています」
「で?」
「貴方は、組織の力の中にいた方がいい。このままでは、あなたはあと数ヶ月で殺されますよ。断言できます」
「あんた、名前は」
「私は、柳川です。このあたり一体の地主です。このビルも私の持ち物です」
「なっ!? じゃあそれで俺の事がわかったのか」
「違いますよ。毎年犠牲者の出る新歓コンパ、ここにスパイを潜り込ませています。後輩を助けたいと種をまいて、それに引っかかった者をスカウトしているのです。まさか貴方ほどの大物が引っかかるとは思いませんでしたがね」
「ふふ、それが油断か」
「そうです。貴方は信用する友人から相談を受けて、自分なら助けられると思ったのじゃ無いですか? 罠だとも知らずにね。軽率でしたね」
「……」
「これからは、我らが味方になります。その代わり我らにも力を貸して下さい」
「ふふふ、だが条件がある。俺が相手にするのは、人殺しをした事がある者。そしてその者が、再び罪を犯すその時にのみ、力を使うという条件だ」
「なるほど、人殺しをしていても、現在真面目に暮らしている者までは殺したくない。そういうことですか。それとも……そういう相手しか殺せない……」
柳川と言うのは、深読みしすぎで勝手に勘違いをしてくれた。
わざわざ訂正する事も無いだろう。
「おい、もうミサはいいだろう。放してやってくれ」
「おい!!」
柳川が後ろの男に声をかけた。
「きゃっ!!」
エマは一人で立てないほど衰弱している様だ。
男が手を離したら、声を出してその場に崩れ落ちた。
「エマ、大丈夫か?」
俺はエマに駆け寄って、優しく体を支えた。
「ごめんね。貴方の事を知られないように頑張ったのだけど……。だから、貴方にもしもの事があったときには、私も死ぬつもりでした。許して下さい。うっうう……」
エマは弱々しい声で、俺の耳元でささやいた。
こんなになるまで頑張らなくてもいいのに……。
俺の事などすぐにばらして、楽になればいいのに。
「エマ、俺なんかの為によく頑張ってくれた。だが、俺は人の命を奪っている。いつでも、報いをうける覚悟はできている。いつ死んでもいいのさ。だから俺の事は守らなくていい。なにかあったら自分を守ってくれ、頼む」
「うっ、うううう……」
エマはしばらく泣き止まなかった。
こうして俺は、黒い者を退治する黒いものになった。
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