怨霊師

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第一章

第三話 怨念

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「懐かしい?」

「あら、言ってなかったかしら。私、その文芸部だったのよ」

「聞いていない。けど聞いていても憶えてねえや。関心無いからな」

「でしょうね。あんたって、そういう人だもの」

 姉はそう言うと、部屋に入って着替えを始めた。
 俺は念の為、部誌に姉の名前が無いか探して見た。
 姉が文章を書くなんて聞いた事が無い、部誌にも案の定姉の名前は無かった。

 食事が終ってから、俺はその部誌を読んでみた。
 テーマは家族だったが、仲の良さそうな微笑ましい内容のものだけで、特に呪物になりそうな内容の文章はなかった。

「何が原因で呪物になっているんだ?」

 現時点ではこれ以上は、わからなかった。



 翌日の放課後、気は進まなかったが借りた物は返さないといけない。
 文芸部に顔を出した。

「はい、入部届!」

「はっ??」

 ヒマリがいい笑顔で俺の顔に近づき、紙を渡してきた。
 おい、顔が近いって。わかっているのかこの女。
 お前は無駄に美人だから、ドキドキしてしまうんだよ。

「はっ、じゃ無いでしょ」

 相変わらず、エマは意地の悪い言い方をする。
 目が吊り上がっているから、そんな言い方をすると、まるで意地の悪い継母だぞ、わかっているのかこの女。

「いやいや、俺は入る気は無いよ」

「こんな、美人が二人で頼んでいるのにー?」

 おいおい、自分達で美人って言っているよ。
 まあ、それは認めるけど、文芸部ってガラじゃねえんだよな。

「なあ、なんであんた達は俺に関わろうとするんだ?」

「命を助けられたから。じゃあ駄目ですか」

 ヒマリが言った。

「ふふふ、黒いモヤがこの部誌から出ているなんて言われたら」

 エマが言った。
 ひょっとして、こいつオカルトマニアか。

「エマ、お前はオカルトマニアなのか?」

「違うわ。じゃなくて、先輩を呼び捨てにするんじゃない。私はあんたの彼女か!」

「ああ、済みません。エマさん。で、どうなんですか」

「そうね。全く信じていなかったけど、ヒマリの話を聞いて、部誌を見た時の貴方の反応を見たら……」

「みたら?」

「興味を持ちました。しょうが無いでしょ! 不思議すぎるのだからー」

「ふーーーっ」

 俺は大きなため息が出た。
 正直、こんな話をしても信じてくれる人はいないだろう。
 だがこの二人は違うようだ。

「……」

 二人は、頬を赤くして、俺の顔をのぞき込ん出来る。
 少し鼻息も荒い、興奮しているのか。

「あのさあ、俺はこの事は誰にも知られないようにしてきた」

「うん、うん」

「普通に考えれば、気持ちが悪い話しじゃないか。それに俺自身、これがどの様な物で、この後どうなるのかもわかっていない」

「うん、うん」

「あんたら、恐ろしく無いのか」

「あの、恐い物なのですか?」

 ヒマリが聞いて来た。
 なんだ、この女?
 あんな酷い目にあったもんだから、感覚がおかしくなっているのか。
 こわいだろう。気持ち悪いだろ。

「あんた達は、幽霊が恐くないのか」

「えっ!? 幽霊なのですか?」

「正確には幽霊では無い。なぜなら幽霊を俺は見えない。俺に見えているのは怨霊だ」

「怨霊?」

「って、俺は何を言っているんだ。忘れてくれ」

 俺は、我に返った。
 たぶん俺は人に話たかったのだろう。
 つい話そうになった。
 でも、やはりこんなことは他人に知られるべきでは無い。
 俺は、部室を出ようとした。

「まって、話して下さい」

 ヒマリが俺の腕をつかんだ。
 そして、顔を近づけて俺の目を見つめる。
 顔が近いんだよ。
 そして、四人用のテーブルの所まで引っ張った。
 三人でテーブルを囲み椅子に座った。
 これは、ちゃんと話せと言う事なのか。

「あのー、済みません。少し私も聞いてしまいました」

「あっ、まゆちゃん」

 また一人、入って来た。
 しかも、かわいい子だ。

「怨霊の話だ。聞かない方がいいぞ」

 俺は脅かすつもりで言った。

「いいえ、聞かせて下さい。私は二年前呪いで殺されかけました。だから聞きたいのです」

「えっ!?」

 な、なな、なんだって、今度はこっちが驚いた。
 ヒマリもエマも凄い顔をして驚いている。

「学校では誰にも言えませんでしたが、まさか見える人が学校にいるなんて驚きました」

「お、俺も驚いた。で、あんたは見えるのか」

「いいえ。私は少し霊感が強くなりましたが、はっきり見ることはできません。感じる程度です」

「なるほど」

 俺はそう言いながら、呪いがダダ漏れの部誌でまゆという少女の体を触ってみた。

「はうっ」

 体がビクンと波打ち、変な声を出した。
 どうやら、霊感があるというのは本当のようだ。

「ななな、何をしたのですか」

「ああ、試すような事をして済まない。この部誌には怨念がある。見えるか?」

「いいえ。でも、感じました。呪われている時と同じような嫌な感じです」

「うん、そうか。俺には黒い靄として見える。この部誌からは黒い靄が漏れ出している。この本だけじゃ無い。本棚の同じ号から全部出ている」

「あの、もし本を触ると呪われるのですか?」

 ヒマリが不思議そうな顔をして聞いて来た。

「そんな力は無い。深い悲しみや強い怒り、人の強い思いのような物だ。不快に感じることはあっても、普通の状態なら影響は受けないだろう。だが、心が弱ったときには影響を受けるかもしれないけどな」

「すごい……」

 そう言って、三人が俺の顔をじっと見つめている。
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