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最終章 明と暗

第四百二十一話 恐ろしい考え

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 アドが、遠ざかるあずさの背中を見て、すぐさま俺の顔を見た。
 そしてまた今度はあずさの背中を素早く見る。
 それをアドは何度も繰り返し出した。
 まるでアドの頭が、グルグル回っているように見える。

「アド!!」

 俺が呼ぶとアドの体がビクンと波打ち、五センチくらい体が宙に浮いた。

「ニャッ、ニャ、ニャ、ニャンニャ!?」

 俺の顔を見るアドは、無理矢理平静を装っている。
 行動が丸わかりだ。
 本当に見た目通りの幼児の行動にみえる。
 ふふふ、可愛い子猫のようだ。

「アド!! あずさを手伝ってやってくれ、ここは俺一人で十分だ」

「ニャッ!!」

 アドは小躍りしながらあずさを追いかけていく。

「ミサ! ウェイトレスさんも連れて行ってくれ! 外に出る前に着替えも頼む。そのスカートは男には毒だ。目のやり場に困る」

「うふふふ。はい、わかりました」

 ミサは、嬉しそうにウェイトレスさんの方にむかった。
 それに続いて、坂本さん、古賀さん、響子さん。赤穂さんまでウェイトレスさんの方に歩いて行ってくれた。優しい人達だ。

「昇宮大臣、男勢もあずさを手伝ってやってくれ、皆に配るのは大仕事だ!!」

「はっ!!」

 昇宮大臣の返事は時代劇の家臣の返事だ。
 あんたは、俺の家臣じゃないんだけどなあ。
 今は北海道国の代表だ。……まあいいか。

 俺は、全員の後ろ姿を見送ると窓に近づき目一杯開放した。
 既に外は暗くなっている。そして、まだ充分暑い。
 俺は両手を窓の外に出して、ミスリルの玉を八個出して宙に浮かせた。
 その直径二メートル程の玉を光らせて冷やした。
 これで、あたりは盆踊りくらいの明るさになり、三度前後は涼しくなるだろう。

 四個は北海道国の人達の上、残りは共和国軍の上に浮かべた。
 明るく照らされた外の景色にあずさの姿を探した。
 あずさは、バリケードの真ん中、丁度門の位置に陣取ってテーブルと大きな箱を用意して、北海道国の人々と共和国軍の兵士に箱から次々うな重を出して渡している。
 昇宮大臣と、信さんスケさんカクさん、そして幹部兵士達だろうか、大勢が自主的にあずさを手伝っている。

「あんたは、なにも食わねえのか?」

 元首相が俺の横に歩いて来た。

「ふふふ、見て見ろよ。あの微笑ましい光景を! 俺はこんな光景を見るだけで腹が一杯になる」

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! 大殿ーーーー!!!!」

 俺が言い終わるのと同時に、伊達と島津豊久が階段を上ってきた。
 そして、俺の姿を見つけると大声で叫んでいる。
 伊達と豊久の後ろにゲンの姿があった。

「さすがは兄弟だ。こんなに早く、犠牲者も少なく終わらせるとはなー……」

 ゲンが言い終わると、既に伊達と豊久が俺の横に立っている。
 まるで、ライオンと虎に挟まれた豚のように見えていることだろう。

「さすがは兄弟だ! じゃ、ねーんだよ。全くよう、包囲戦なんて地獄の作戦を使うんだからよう。俺が来なければ、餓死者が大勢でていた所だ」

「がはははっ!! 包囲しちまえば兄弟が何とかすると思ってよぉ、放置した」

 ゲンは楽しそうに笑っているようだが、顔に笑顔が無い。無表情のままだ。うん、相変わらずこえー。

「すごいもんですなあ。ほとんど犠牲者が出ていない。ふふふ、政府のお偉いさんまで全員無事に捕らえるとはお見それしました。で、いつ処刑ですか。首を切るための、ボロボロの切れ味の悪い刀はここに持って来ました。恐らく一発では死ねないでしょう。痛みで、のたうち回ることになるはずです。ふひひっ」

 豊久が、ゲンの真似をして、笑いながら悪魔のような表情をした。

「うおっ!!!!」

 その顔を見て、元大臣達が震え上がった。

「全くよう、刀はしまってくれ!! 処刑はしない。今までは、弱者を苦しめる悪党だったがよう。これからは、弱者の側になり人々の為に仕事をしてもらう」

「そうですか。それはよい考えですなあ。底辺の生活を全く知らない政治家の先生方には、良い経験になるでしょう」

 伊達が、ノーパンしゃぶしゃぶの前で、じっとこっちをみている元政治家の先生、今は大罪人の方々に言い放った。

「ゲン、ここは俺が見ている。あずさの所へ行ってやってくれ。きっと喜ぶはずだ。伊達も豊久もうな重を食べてきてくれ」

 ゲンが階段に向った。

「おい!! お前達はこねーのか?」

「せっかくの機会です。しばらく大殿とご一緒します」

 伊達と豊久が言った。

「ふふふ、そうか。じゃあ、俺は行く。又、後でな!!」

 ゲンは右手を高く上げ、左右に振りながら階段を降りていった。
 伊達と豊久は、手を振ってそれに応えると、鋭い視線を元大臣達に向けた。
 どうやら、この二人の本当の目的は、元大臣達の方にあったようだ。
 二人はどかりとあぐらで床に直に座ると、俺の顔を見た。
 だからよう、そんな恐い顔で俺を見るんじゃねえよ。こえーーじゃねーかぁーー!!

「どうした?」

 俺は、びびっているのをバレないようにして、いつも以上に平静を装って聞いて見た。

「はい。少し質問があったものですから」

 伊達と豊久が言った。
 政治家じゃ無くて、俺に質問なのか?

「ふむ」

「まずは、私からよろしいですか?」

 豊久が生真面目な顔をして俺の目を見る。

「ふむ」

「私の加賀は、その半分に織田家が居座っています。北海道が終われば攻め上がりたい」

「ふむ、島津家でやるのなら問題ない」

「いえ、木田家として攻め込みたいのです」

「それは、ダメだ。木田家は織田家から攻め込まれなければ攻め込むことは無い。約束をしたからな。第二次世界大戦の時、一方的に不可侵条約を破棄して攻め込み、降伏した日本をその後も執拗に攻め続けて、北海道までとろうとした某国とは違うんだ。約束とは大切に護らねばならない。そうしなければ、信用など誰からもされなくなる」

「大殿らしいですなあ。約束は守る。政治家共に聞かせたいものですなあ」

 誰か、ノーパンしゃぶしゃぶの前にいる元大臣の中に、約束を破るような奴がいるのか?
 まあ、政治家なんか大体約束は守らない。
 増税はしないと言いながら、選挙が終わったら消費税を8%から10%にされたもんなあ。嘘ばっかりだ。

「大殿、俺もよろしいですか?」

 伊達が姿勢を正し正座になった。

「うむ」

「あの者達は、国民や兵士が飢えているのに、しゃぶしゃぶを食おうとしていたのですか?」

「うむ」

「大殿はこの後、新政府と織田家を倒したら、もう一度民主化をするとお考えのようですが、政治家に国政を任せればまた、この状況と同じ事になるのでは無いでしょうか」

 どうやら、伊達は民主化には反対のようだなあ。

「そうだなあ、政治家と公務員の給料を国民年金受給者の二倍までと憲法で決めておくかなあ。それなら国民と兵士が二日に一回の薄いお粥なら、政治家は一日一回の薄いお粥だから辛さが分かるかもなあ。国民が薄いお粥を食べているときに、ノーパンしゃぶしゃぶを食うようなことじゃあ、国民の辛さはわからんわなあ」

「大殿!!!! お願いがあります!!!!」

 豊久まで姿勢を正して俺を真っ直ぐ見つめてきた。
 どうやら、伊達と豊久は二人で何かを決めてきたようだ。
 二人の鼻息が荒くなってきた。

「フンスーー、ムーーーー、フンスカムーーーー」

 二人は鼻息が出過ぎて言葉が出なかった。
 なにか、恐ろしい事を考えてきたようだ。嫌な予感しかしねー!!

「ふぁーー!! 大殿ーー!! 戻りましたーーーー!!!! ここは赤穂が引き継ぎます。大殿も皆の所へ出かけて下さい」

 良いタイミングで、赤穂さんが帰って来た。
 大きなお腹をなでて走って来る。

「赤穂さんは、どれだけ食べてきたのですか?」

「うふふ、三個食べました。特別に最初に食べさせてもらいました。おなか一杯ですぅー。あらっ!? 伊達様に豊久様! どうしたのですか? そんな恐い顔をして、まるでライオンと虎が美味しそうな豚を食べようとしている見たいですよ……はっ!! しっ、失言しましたぁーーー!!」

 伊達と豊久は、顔を見合わせて苦笑して言葉を飲み込んだようだ。
 一体何を言おうとしたのだろうか?
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