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北海道最終戦

第四百十五話 贅沢三昧

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「八兵衛さん、そろそろ……」

 赤穂さんが、兵士達に美味しい富士の湧水を、渡している俺の耳元に小声で教えてくれた。
 あずさもヒマリもイルナも、大勢の人の中に埋もれて、いそいそと給仕をしている。
 その他の御一行も楽しそうに働いている。
 不機嫌そうなのは、敵として戦っている総さんぐらいだ。

「みんなー!! そろそろ、伏魔殿へ出発だー!!!! 準備をしてくれー!! 当然、変身だーー!!」

 本当は、野菜とアイスクリームだけのつもりだったが、それだと飢えた兵士の分までは無い。
 もうこうなってしまえば、何もかもバレてもいいので、全員に玉子丼もふるまった。
 それでも足りなそうにしている奴には、マグロ丼もふるまった。
 現金なもので、沢山食べて少し大人しくしているだけで、全員の血色が良くなっていく。

「オイサスト! シュヴァイン!!」

「おっ、おおお、へ、変身した!? あんた達があの時の正義の味方だったのか!」

 憲兵隊の隊長が驚いている。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!! シューパーヒーロー、アンナメーダーマンだーーーー!!!!」

 子供達が、舌っ足らずで喜んでくれている。

「変身もすんだことだし、ぼちぼち行きましょうか」

「…………!!」

 全員が無言でうなずいた。
 真っ黒なシンアンナメーダーマンも姿を出している。
 とうぜん、全身をおおっているので顔は分からないが、残虐大臣こと北海道国の昇宮海軍大臣だ。
 イルナにもアンナメーダーマンアクアのコスチュームを与えて、アイスクリームづくりは変身して手伝ってもらった。
 もう充分練習は出来ている。熟練のアンナメーダーマン戦士のはずだ。

 御一行で変身していないのは、総さんと俺だけだ。

「八兵衛さん! すみません!! よろしいですか?」

 呼び止めたのは兵士の中の二人だった。

「どうしました?」

「俺達も兵士の代表として同行させて欲しい。そして、証人として政府の人間の現状を見てみたい」

「えっ!? とても危険です。命を落とすかも知れませんよ」

 俺は、言いながら顔がにやけてしまっている。
 北海道国には、桜木もサエコもいない。
 危険など、ほぼ無い。
 だが、この二人の覚悟を確認したかった為、そう言ったのだ。

「……、ふっふふ、俺達は兵士です。とうに命を捨てる覚悟は出来ています。だが、本当にすき焼きを食べていたら逆上して、その場で殴りかかるかも知れません、そっちの方が心配です」

「その時は俺が、お止めしますよ。では、みなさん、出発でーーす」

 俺達は憲兵隊の隊長と、兵士の代表二人を加えて、北海道国の政府高官のいる伏魔殿へ向った。

「アンナメーダーマーーーーン!!!! がんばれーー!!!!」
「はちべーーさーーん!! 気を付けてーー!!!!」
「…………!!!!」

 子供達が声援を送ってくれた。嬉しい限りだ。
 そして、ご婦人達が心配してくれている。まるでモテ期のようだ。
 さらに北海道国軍の兵士達が無言で敬礼をしてくれた。その目はギラギラと怒りに燃えているようだった。
 どうやら、兵士達もこれが真実なら、政府を許す気はないようだ。
 なるほど、これが食い物の恨みは恐ろしいと言う事なのかと、深く心に刻んだ。



 俺は底辺の人間だ。だから誰よりも底辺の人間の気持ちは分かる。
 底辺にいる者は、政治家のように贅沢がしたいわけじゃ無い。真面目に働けば、食べて行くのに苦労をしない、そんな暮しがしたい。それだけなのだ。
 重税と物価上昇で、それが出来ないから苦しんでいたのだ。
 食べていけなければ、いくら真面目でやさしい日本人でも、こうして自国の政府に対して怒りに燃えることもあるのだろう。
 そんなことを考えていたら、伏魔殿の前に着いていた。

「とまれーー!!!! とまれーー!!!! うおっ!! き、きさまらは何者だーー!!!!」

 伏魔殿の守備隊が邪魔をする。
 そして、俺達のような異様な集団をみて驚いている。

「やかましい!!!! どうぞ!!」

 一瞬で親衛隊をなぎ倒すと、黒いアンナメーダーマンが右手で中を示した。
 まるで、執事のようだ。

「お、お前達は、な、なに……、ぐわああああーーーーーーー!!!!」

 次々現れる、親衛隊を黒いアンナメーダーマンが倒してしまう。

「どうぞ、こちらです」

 そういえば、残虐大臣はこの中のことを一番よく知っている人物だった。

「あのー、あの方は何者ですか?」

 総さんが耳元でささやいた。

「まあ、じきに分かります。楽しみにして待っていて下さい。しかし、これなら全員が変身する必要は無かったようですね」

「ふふふ、そのようですね。私も戦えると思ってウズウズしているんですけどね」



「ぎゃーーはははは、今日はしゃぶしゃぶかーー!? じゃあ、女中はノーパンかーー?? どれどれ……」

「きゃああああーーーーーー!!!!!!」

「おいおい、財務大臣!! いつの話をしている」

「ははは、首相、あの頃はよかったですなあ。公費でノーパンしゃぶしゃぶ、最高だった。しゃぶしゃぶを食ったら、次はノーパンの姉ちゃんが食えた」

「ひっひっひっ、公費で高級料理を食って姉ちゃんを食うのは、ずーーっと出来ていたじゃねえか」

「そうだな、ノーパンがねえだけだ」

「ぎゃあぁぁぁーーーはっはっはっ……」

 大きな笑い声が続いた。
 滅茶苦茶楽しそうだ。
 その公費が、俺達貧乏人からの税金からかと思うと泣けてくるぜ。
 どうせ領収書のいらない経費だからやりたい放題だ。

「ぐっぅぅぅ……、くそうぅぅ……」
「ゆ、ゆるせねえ。本当に食ってやあがった。ノーパンしゃぶしゃぶ!!!!」
「ぶちころしてやりてえ! 俺達には二日に一回の薄い粥だけのくせして、自分達はノーパンしゃぶしゃぶ!!!! ノーパンしゃぶしゃぶを、くっていやあがる!!!!」

 憲兵隊の隊長と兵士の代表二人が怒り心頭だ。
 うーーん、正確にはノーパンしゃぶしゃぶは、食べていませんよ。
 ただのしゃぶしゃぶです。でも、まあいいか。

「おい、誰かが扉の外にいるぞ!!!!!! 見てこい!!!!」

 扉がバンッと開いた。
 これで、中の様子が丸見えになった。
 机の上に、美味そうな肉と野菜が積まれている。大盛りご飯もある。お偉いさんは今日も贅沢三昧だ。
 美人のウェイトレスがミニスカートで給仕をしている。
 まるで、ノーパンしゃぶしゃぶ屋さんの店内だ。行ったことがねえから知らんけど。

「うおっ!!!! お前達は何者だ!!!!」

 二人の親衛隊の兵士が驚きながらこっちへ歩いてくる。

「やかましい!!」

 黒いアンナメーダーマンが、親衛隊の兵士を殴り飛ばした。
 親衛隊の兵士二人は、吹飛ばされて一撃で失神してしまったようだ。

「くそぉーーーー!!!! くせ者だーー!!!! であえーーーーっ!!!! であえーーーーっ!!!! ふふふ、馬鹿め。ここには北海道国軍の最強部隊がいる。無事で帰ることが出来ると思うなよ!!!!」

 何大臣かは知らんけど、その大声を聞きつけて兵士達がゾロゾロと集って来た。
 手には銃を装備している。あっという間に囲まれてしまった。
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