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あずさと札幌ライフ

第三百九十六話 屋台村計画

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「原田、このあたりの地図を用意出来ないか?」

 俺は次の準備に入る為、闇市の引っ越しを考えている。
 そのための候補地を探そうと思って聞いたのだ。

「ち、地図ですか?」

「どうぞ!!」

 響子さんが美しい笑顔で、すかさず出してくれた。

「あ、ありがとうございます」

 開くと、まさに俺が欲しかった地図だった。
 まるでミサのようだ。

「うふふ、用意したのは私ではありません。ミサさんが渡してくれたのですよ」

 さすがだなあ。
 ミサの大きな胸が自慢そうにユサユサゆれているのが思い浮かんだ。

「ここが、北海道国の政府が拠点にしている場所です」

 原田が教えてくれた。
 蛇行した川を天然の堀にして守りを固めている。

「ふむ、ならばここに屋台村を作ろうと思う。警備を考えるとまずは一カ所にしたい」

 俺は、北海道国の政府から数キロ離れた住宅地の中の学校を選択した。
 ここの闇市より少し南に移動することになる。

「なるほど……」

「原田、何か気がつくことは無いか? 地元民の意見を聞きたい」

「いえ、さすがです。その場所であれば、住民達の作業場の農地も近く、すべての住民の住居の中心になります。一カ所にするのであれば丁度良いかと思います」

「ふむ、ならば明日から、この学校を十田屋台村と名付けて、無料バイキング屋台を開店させる。ご婦人方に知らせてやって欲しい」

「わかりました」

「うむ、じゃあ俺はそっちに準備のため移動する。ここはお前達に任せる。敵が多いので、残虐大臣達は護衛に置いていく。しっかり頼むぞ。住民達には優しく親切にな」

「はっ!!」

「あ、あの、八兵衛さん」

「カノンちゃん、どうしました?」

「こちらのおばあさんが、話しがしたいと……」

 そこには、いつもの朝一番のばあさんがいた。
 少し暗い顔をして、モジモジしている。

「ばあさん、どうしたんだ。らしくねえ」

「わしは、いつも世話になるばかりで、まだ何も返せていない。その上頼み事をするなど……金も何も無いのに…………こ、この体でも命でも何でも差し出す、なんでもする。だからお願いじゃ、助けて欲しい!!」

 なるほど、何か頼み事があったようだが、頼みにくかったようだ。
 その奥ゆかしさ、とても日本人らしい。
 命にかえてもとは、悲痛で重い頼み事のようだ何だろう?

「俺で出来る事なら何でもする気でここに来ている。役に立てるかどうかはわからないが、どんなことなのか教えてくれ」

「孫が病で寝込んでいるのじゃ。日に日に弱ってきている。見てはもらえないじゃろうか」

「ばあさん!! 何を言っている!!」

「ひっ!!」

 俺は、あせってしまって、声が大きくなってしまった。
 表情も恐くしてしまったかも知れない。
 ばあさんがおびえて、小さく悲鳴を上げた。

「すぐに行く! 家を教えてくれ!」

「おおっ! ありがとう、ありがとう」

 ばあさんは、俺に両手を合せている。
 それじゃあ、俺が仏様みたいじゃないか。
 どうやら、ばあさんは俺にケガを治されて、不思議な治癒の力があることに気がついたのだろう。

「ばあさん、さっきはおどかして済まなかった。恐かっただろう」

「なんも、恐くて悲鳴を上げたんじゃない、瀕死の豚みたいで気持ちが悪かったんじゃ」

「……!?」

 なっ、なんだってーー!!
 どうやら俺が思う恐い表情は瀕死の豚みたいで、悲鳴が出るほど気持ちが悪いようだ。
 やれやれだぜ!

 俺は、響子さんとカノンちゃんに後を頼み、ばあさんの案内でお孫さんの寝込んでいる家にむかった。

「ここじゃ」

 ばあさんに案内された家は、闇市に近い灰色のこのあたりには良くある普通の住宅だった。
 玄関を入ると、家の中は綺麗にかたづけられ、清掃も行き届いている。
 真面目な、ばあさんなんだろう。

「うっ……」

 お孫さんは和室の中で、布団に寝かされていたが、顔色も悪く痩せ細っている。
 余りの顔色の悪さに思わず声が出てしまった。
 顔は目が落ち込んでいて、初めて会った時のあずさに似ている。
 どうやら、ただの栄養失調ではなさそうだ。重い病気のように見える。
 ばあさんが、心配そうに俺の顔を見つめて来る。

「……ど、どうじゃ?」

「ふむ、やってみるさ」

 俺はお孫さんの体の上に手の平を向けて、いんちきマジシャンのように左右に動かした。

「…………」

 ばあさんが無言で、必死な顔をして俺の仕草を見つめている。

「……おばあ……ちゃん」

「おぉぉ……」

 ばあさんが両手で顔を覆った。
 俺の治癒の力は、どうやら重い病気も治せるようだ。
 痩せているのは治っていないが、顔色があきらかに良くなっている。

「おなかは、空いていませんか?」

 俺は、お孫さんに静かに聞いてみた。
 その言葉を聞くと、お孫さんのおなかが大きな音を出した。
 それが恥ずかしかったのか、両手で顔を覆って恥ずかしがっている。
 家族だから仕草が似るのか、ばあさんと同じ動作をしている。
 俺は、いつものようにおなかに優しいお粥を出してお孫さんに勧めた。

「ばあさん、お孫さんを助けたら何でもしてくれるんだよな?」

「おお、そうじゃった。いまから、すぐに体を洗ってくる」

 そう言うと、赤い顔をして部屋を出ようとした。

「はあぁ……、待て待て、何を言っているのかわからないが、そんなことじゃない。ばあさんのように、家族が病気で苦しんでいる人がいれば俺が治す。だから、この事を口コミで広げてほしい。そして、病人を抱える家族の窓口になってやってくれ。もちろん俺は無料で治す。お金の心配はいらない」

「本当にそれだけでよいのか?」

「ああ。あと、明日からは屋台の場所を変える。その事もご婦人方に広めてくれ。場所はここだ」

 俺は、地図を広げて学校を指さした。

「わかった」

「しばらくしたら、ばあさんの料理を食べさせてやってくれ。じゃあな」

 俺は、十田屋台村の準備のため、ばあさんの家を後にした。
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