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あずさと札幌ライフ

第三百九十話 嫉妬

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「じゃあ、シュラ、フォリスさん。ユキちゃんとお母さんの事をお願いします。俺達は、大臣の所へ行って来きます」

「はい!!」

 翌朝、ユキちゃんの家から大臣の宿泊先のUFOへ、あずさのテレポートで移動した。
 UFOはユキちゃんの家の直上に透明化して浮かんでいる。
 大臣の監視にはクザンを残していた。

 UFOに着くと俺は、テーブルとイスを用意して朝食の準備をはじめた。
 今日の朝食は、薄いお粥と菜っ葉の漬物一切れだけにした。
 これを大臣と、あずさとヒマリの三人分テーブルの上に用意する。

「な、なんだ、これは? こんな物が食えるかーー! 朝は焼き魚と、ハムエッグと味噌汁だろうがー! 夜も粗末だったのに、朝までこれとは、何を考えている。殺す気かー!!」

 あずさとヒマリに起こされて来た大臣は、いきなりこの朝食を見て大声で怒鳴っている。
 俺は、この朝食に貧しい生活をする庶民の気持ちを、共感して欲しいというメッセージを込めたつもりだ。
 どうだろう、伝わるのだろうか。

「おいしーー!! これは美味しいお粥です!!」

 あずさとヒマリの二人が食べている。
 この二人にも伝わるのだろうか。

「これは、越中富山のお米と富士の湧水、そして日本海のミネラルたっぷりの海水で作った、お塩を使って作ってあります。素材の味がとても良くわかります」

 あずさが言った。って言うか、よくそこまでわかるなあ。

「この菜っ葉は、信州の野沢菜です。一見ただの菜っ葉に見えましたが、信州の野沢菜です」

 ヒマリまで、まあ合っているけど二人の言葉を聞くと、まるで贅沢な一品のように聞こえる。

「ふむ、言われて見れば、素朴だが良い味が出ている」

 大臣が一口食べて納得している。
 どうやら俺からの伝えたいメッセージは、三人の心には届かなかったようだ。やれやれだぜ……はぁ……。

「さあ、闇朝市へ行くぞ」

 俺達は闇市の会場へむかった。



 闇市には、既に人が集っている。
 俺の屋台の前にも人がいる。

「ばあさん、もう並んでいるのか? はやいなあ」

 昨日も来てくれていた、おばあさんが最前列に並んでいる。

「ふふふ、一番乗りだよ。年寄りは朝が早いからね」

「今日は、キャベツと玉子とお米を配ろうと思うがそれで良いかな? もちろん開店二日目記念で無料だ。キャベツは一家族一個、玉子とお米は家族の人数分配ろうと思う」

「そうかい、じゃあキャベツは四分の一、玉子とお米は二人分でいいよ」

「いやいや、キャベツは一個だ」

「ふふふ、一個もらっても食べきらないよ。冷蔵庫も無いんだ。腐らせたらもったいない、四分の一でいいさ。家族は二人だ、玉子とお米は二人分でたのむよ」

「ふふ、わかった」

 俺はばあさんの鍋に、キャベツ四分の一と玉子四個、それと米一升を入れた。

「八兵衛さん、ありがとう」

 ばあさんは、笑顔で帰って行った。

「すみませーん。八兵衛さん、遅くなりました」

 ユキちゃんとお母さんが走って来た。

「遅くはありませんよ。むしろ、もっとゆっくりして欲しかった。だから、内緒で出て来たのです」

「うふふ、八兵衛さんは優しいのですね。でも、恩人より遅く起きるなんて人として失格ですわ。さあ仕事の指示をして下さい」

 いいなあー。
 俺はとても癒やされている
 俺は、ばあさんの欲張らない姿勢、ユキちゃんのお母さんの考え方に、感動していた。
 これが、日本人だよなあ。

「では、お母さん、キャベツは一家族一個、玉子は一人あたり二個、お米は一人あたり五合を配って下さい。料金は開店二日目記念ですので無料です」

「はい! わかりました」

「きゃああーーーー!!!!」

 俺がお母さんに説明していると、屋台の前で悲鳴が起った。
 見ると、美人だが目つきの悪いおばさんが並んでいる婦人を突き飛ばしている。

「どうされました」

 お母さんが対応してくれた。

「この人が、割り込んで来たんです」

 突き飛ばされて、尻もちをついている婦人が、美人で目つきの悪いおばさんを指さした。

「はあーーっ!! あんたが譲らないからでしょ!! いっちゃあ悪いですが私は、海軍大臣の家内です。上級国民です。その私に、クズの下民の後ろに並べと言うのですか!!」

 うわあー!!!! 来てしまった。上級国民様がーー!!!!
 言っていることが無茶苦茶だー。
 昔の西洋のように、日本は上級国民様がお貴族様になってしまったようだ。
 こういう人は庶民が、牛や豚のようにしか見えないのだろうなあ。
 まあ、俺はそのままでも豚にしか見えないのだが。

「あの、上級国民様なら、そもそもこんな所に来なくてもよろしいのじゃないですか」

 お母さんが少し眉毛をつり上げて言った。

「おっ、おまえ……!!??」

 残虐大臣が目つきの悪いおばさんに数歩近づいて、驚いた表情をして言った。

「あっ、あなた!!!!」

 おばさんも驚いている。
 そして、俺も、あずさもヒマリも驚いている。
 あんたら夫婦だったのかい!!
 そして残虐大臣! あんた海軍大臣だったのかい!!
 そもそも、北海道国は船もないのに海軍がどうしているのだーー!!

「こんな所で、何をしているのだ?」

「なっ!! 『こんなところで何をしているのだ』は、こっちのセリフです。あなたが政府を裏切ったせいで、海軍の士官の家族は全員処刑されたのですよ。私も処刑されるはずだったのですが、陸軍大臣に助け出されたのです」

「な、な、なんだって!! 処刑……じゃあ俺は何のために函館で孤立しながら、戦っていたのだ。む、むすめは? 娘の都子は?」

 娘のミヤコさんを心配する姿を見て、この残虐大臣も人の親なのだなあと思ったのだが、その気持ちの一部でも国民に少しは向けてみろよ!! 怒りがこみ上げてきた。

「無事です。近くの家に隠れています」

「よ、よかったーー!」

 残虐大臣は、心からほっとしている様だ。

「よかったですね!!」

 ユキちゃんのお母さんが、目をキラキラさせて言った。
 俺はその姿を見て、この人を救うことが出来てよかったと心から思っていた。

「いてーーーっ!!!!!!」

 俺の尻に激痛が走った。
 振り返ると、あずさとヒマリが全く無表情で俺の尻をつねっている。
 ヒマリのは、あまり痛くないのだが、あずさのは猛烈に痛い。
 な、なんで俺は二人につねられているんだ。
 訳がわからなかった。
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