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夏休み編

第三百八十話 可愛い笑い声

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「きっ、貴様ら、つ、強すぎるだろう。ここに居るのは幹部ばかりだぞ。雑兵とは強さのレベルが違うはず。それをこんなに簡単に倒すなんて……。いったい何者なんだーー!!」

やれやれだぜ! これだから上級国民様はよう、手下だけを働かせて、自分たちはこんな所で美味しい物を食って、楽しんでいたということか!!
どこまでも腐っていやあがる。許せねえ奴らだぜ。

「私は、越後の…………」

信さんも俺と同じ事を感じたのか苦々しい表情で言った。
そして、「越後」まで言った時、気を失って捕縛されている部下の中で、意識を取り戻している者達が、「ちりめん問屋」と言い出している。
信さんはそれに気が付いたようで、少しためてから続けた。

「私は越後の商人です。十田謙之信と申します。後ろに控える者達は右からスケさん、カクさん、そして使用人の八兵衛です。その後ろの美しい女性が……」

信さんがそこまで言うと、こんどは「フジコだ! フジコに間違いない!」と手下がザワザワした。
おい、それは違うだろーー!! お銀とか言えよなーー!!
信さんは手下の方を見て、笑いをこらえながら続けて言った。

「ミサと言います」

「なんだよー、ミサかよー。少し違ったなー」

部下達の中から声がしている。
いやいや、全然違うだろ。何基準の少しだよ!

「なんだと!! スケさんにカクさん、そして八兵衛だと!!」

賊の親玉が驚いている。
信さんが今度は驚く親玉に視線を向けなおすと、ゆっくりそして重々しく口を開いた。

「最後に言いたい事は、それだけでいいのですね……」

信さんは、その一言と共にまとう雰囲気をがらりと変えた。
目つきを鋭くし、口調が重々しくなった。
俺でさえわかる。そこにあるのは明らかな殺意だ!!
おそらくは演技なのだろうが、それすら感じさせないほどの強い殺意だ。

その雰囲気に飲まれたのか、賊の親玉が恐怖に包まれる。

さすがは信さんだ。大勢の人に支持されるだけのことはある。持っている器の大きさのレベルが違う。俺とは大違いだ。
賊とはいえ、その頭を張るような人物だ。それを一瞬にして威圧してしまったのだ。

「ままま、待ってくれ! こ、これは違う、違うんだ!! 俺は命令されたんだ!! そうだ、命令されたんだよーー!!」

ちっ! この後に及んで責任転嫁か。
あきれ果てた奴だぜ。

「そうですか。それなら貴方に責任はありませんね」

信さんは、あっさり騙されちまったぞ。
身にまとう殺気が完全に消えた。
それどころか慈悲を感じる優しい表情になっている。
親玉がホットした表情になった。

「そ、そうです。そうなんですよ。それに楽しんでいたのはそいつらだけで、俺はまだ何もしていない」

パンツ一丁でよく言うぜ。
もしそうだとしても、楽しむ気満々じゃねえか。

「なるほど、そうですか。それなら、益々貴方に罪はありません。で、貴方にこのような事をしろと言ったのはどこの誰でしょうか」

「それは、わかるだろう。北海道国の奴らだ。北海道国の政治家共だー!!」

ふむ、信さんはこの一言を言わせるために、芝居をしていたようだ。

「ふふふ、そうですか。わかりました。それなら貴方に罪はありませんね。でも、許す代わりにそれを北海道国の政治家の前で証言して下さい」

「へ、へい……?」

どうやら、この親玉はピンと来ていないようだ。
もしわかっていたら、「しまったーー!!」という表情になるはずだ。

戦争にだってルールはある。
戦争だからって、敵国に何をしても良いというわけでは無い。
俺が一番してはいけないと思うことは、敵国の非戦闘員すなわち、むこの民に危害を加えることだ。
だが、日本人はそれを良しと教育されている。
それは、東京大空襲や各県の主要都市への大空襲、広島の原爆、長崎の原爆、これが戦勝国の犯罪行為では無く、至極真っ当な行為と教育されているからだ。

この攻撃は、むこの民を狙った大虐殺行為で、戦争中でも決して許される行為では無い。
悪逆非道の無慈悲な行為で、決して許されることでは無いはずなのだ。
多くの日本人でこの事に怒っている人は、どの位いるのだろうか。
それにこれを激怒しないと言うことは、日本が戦争に巻き込まれたらやってしまう側になる恐れがある。
俺はそれが心配だ。戦争だって死んでいい命なんて無いはずだ。
日本人は大義のため、正義のあるところだけで命をかけて戦って欲しい。

北海道国が、この賊の親玉に命じて北海道共和国に行なった、卑劣な民間人を狙った行為は重大な戦争犯罪だ。
信さんは、この賊の親玉をその証人にしたのだ。

「では、私は五稜郭へ報告に行って来ます。共和国の守備隊の方が来るまでの間、スケさん、カクさん後をお任せします」

「はっ!!」

「八兵衛さんはその男を背負って同行して下さい」

「ならば、私が……」

ミサが、テレポートをすると言おうとしたのを、信さんは手のひらで止めて目を閉じて首を左右にふった。
ミサが超能力者であることを隠したいと考えたのだろう。

「では、参りましょう」

「はい」

俺は、手足を拘束した、賊の親玉の太った体を背負って信さんの後を追った。
既に真っ暗になった国道を猛スピードで走る。



「うぎゃあーーーーーー!!!! なんちゅーー速さだーーーー!!!! 恐い、恐いよーーおがあちゃーーん!!!!」

悪の親玉が驚くほどの猛スピードで走ってやった。
大騒ぎする親玉が面白いのか、信さんがさらに加速した。

「ぎゃあぁぁぁぁぁーーーー!!!! おがあちゃあぁぁぁーーーーん!!!!」

「くひっ!」

信さんが笑った。
意外と可愛い笑い声だった。
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