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九州激闘編

第三百四十九話 冷や汗

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「そんなに簡単に信じて良いのか、このまま戻って戦闘を再開するかもしれんぞ」

相良様は腕をさすりながら、うつむいて言いました。
顔に影を落とし本気を演出しています。

「おお、それはいい!! 次こそは完璧に手加減して、死者を出さんように全員ぶち殺す。さあ、もどって再開じゃーー!!」

それに、本気半分の常久様が答えました。
全員ぶち殺すって、死者を出さない気ゼロじゃないですかー。
まったく、何を考えているのでしょうか。

「ちっ! 常久、お前はなんでそんなに木田家を気に入っているんだ。お前など新参の中でも最新参じゃねえか」

「わしか! わしは、新政府軍に叩きつぶされた落ち目の男よ。そんな俺を信じ、このようなすごい甲冑を預けてくれた。それだけでも十分な上に、嫁と娘を助けてもらった。あの新政府軍の大勢守る中から命がけの任務だったはずじゃ。そこの桃井殿に助けてもらったんじゃ。そんな桃井殿が信じる、いや、好いとる男を信用せんで男と言えるか!! そうであろう」

ぎゃーー!! 急に何を言い出すんだこのじじいー!!
いちいち、言いなおさんでもいいでしょうがーー!!
はぁーやれやれです。顔が真っ赤です。
全員がにやにやしながら私を見ています。まいりました。

「ふふ、俺もおっぱいねーちゃんをあきらめて、木田家に面倒を見てもらうかなー」

「ちっ、おぬしは、さいてーじゃのう」

「常久様、殿はその様なお方ではありません。肥後の民の事を考え、民の安全と繁栄を常に考えておられるお方でした。我らの力が足りないばかりにこのような結果になっただけにございます」

深水様が我慢出来ずに言いました。
どうやら、私利私欲に目がくらんでいた振りをしていただけのようです。
根っこは大殿と同じようです。
住民の事を第一に考えるお方だったのですね。

「ばっ、ばか! おめえ! そう言う事は言うもんじゃねえんだよ。心にしまっとけ!」

相楽様の顔が耳まで真っ赤になりました。
ざまあです。まあ私も耳まで真っ赤ですけどね。なかなか火照りが引いていきません。




「ほ、報告します」

食事をしていると、本陣の幔幕の中に兵士が入って来ました。

「どうした?」

義弘様が答えました。

「はっ! 大友家に使者に行っていた古賀忍軍の方がもどりました」

「おおっ! すぐにここへ通せ!!」

「はっ!」

「失礼します。!?」

中に入って来たのは、い組の子三人です。
私がいるとは思わなかったのか驚いて、次に深々と頭を下げました。
全員、「ああ、桃井さんの部下か」という表情です。

「どうでしたか?」

「はい、書状を渡すと激昂されて、私達を殺すように部下に命令されました」

「おおっ! それで、ケガはありませんか?」

「はい」

「な、何と言う奴だ! 使者を殺そうとするとは!」

相楽様があきれたように言いました。

「あら、私も殺されそうになりましたよ」

私は、つい最近相良家に使者に行き殺されそうになったばかりです。

「な、なに。桃井さんほどの女を殺そうとするとは、どこの命知らずだ?」

相楽様が本当に知らないのか本気で驚いています。

「はい。たしか、赤池様と深水様の姿があったように思います」

「なっ、なにーーっ!! お前達! 殺されなくてよかったなあー」

相楽様はしみじみそう言うと、本当にほっと胸をなで下ろしています。

「えーーっ!! そっちー!! 怒る気も失せました!」

「ぐわあーはっはっはっはー!!!!」

本陣の中に爆笑が起りました。

「しかし、となれば大友とも一戦交えねばならんだろう」

相良様が、笑いを押し殺しながら言いました。

「こちらは、用意が終わっているが、大友は少し時間がかかるだろう。ゆっくり移動するとしよう」

義弘様が言いました。

「となれば、私は大友家に密偵に行かねばなりません。一足先に行って参ります」

「おおっ、桃井殿お気を付けて」

私が本陣の幔幕を出ると、全員で見送ってくださいました。
いま、帰って来た三人を道案内に、大友家へ潜入します。

「しかし、あの女忍者、よう働くのう」

「全くです」

「その上、強い。俺は一応、相良家では一番強いのだがなあ」

最後は相楽様でしょうか。
あの方を一撃で倒したのは、やり過ぎだったのでしょうか。
でも、あの時はそうするしか無かったのです。
義弘様が悪いのです。忍者は目立ってはいけないのに……。





熊本城の駐車場に、兵士が少しずつ集って来ました。

「桃井様、この様子だと、出発は明日もあやしいですね」

「そうですね。あなた達はこちらを任せます。私は先発隊を見てきます」

「はい、お気をつけて」

「ありがとう。では……」

私は、すでに城を出た五百ほどの先遣隊の兵士の後をつけます。

「報告します」

行軍中の隊長に報告が入りました。

「うむ、何だ!?」

「はっ、島津軍相良軍と共に、八代に入りました」

「なに、はやいなあ。こっちも急がんとなあ。おい、全軍に少し足を速めるように言え、今日中に宇城に入るぞ、入ったらすぐに陣立てだ」

「はっ!!」

近習の兵士が走り出しました。

「ぜんぐーーん!! 足をはやめよーー!! 宇城までいそぐぞーー!!」

走りながら近習の兵士は、まわりの兵士に声をかけます。
兵士達が足を速めても、隊長はそのままのペースです。
一人だけポツンと取り残されています。

「ふふふ、桃影さん。いるのでしょう?」

何だかとてもうれしそうに声を出しました。
桃影……一体なんの事でしょう。

――あああぁーーーーーーっ!!!!

思い出しました。私です。
全く桃色要素の無い私の事です。
と言う事は、この隊長さんは、あの人ですかー!?
やばいじゃないですかーー!! 私は背中に冷たい物が流れ落ちるのを感じました。
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