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九州漫遊編

第三百三十二話 延岡会議

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「歳久様が合流した早朝、一面緑のくさ原が朝日で少し明るくなると島津軍から大喊声が上がります。
 島津軍千と数百が一斉に砦を出て、新政府軍六千弱に突撃をかけました。
 ですが、これは新政府軍に完全に読まれていました。
 左手から、長く伸びて突進する島津軍に対して右側の新政府軍は、部隊を三つに分け両翼を前に進め、包み込む作戦に出ました。
 中央最奥の物見台に、新政府軍五番隊隊長の仲旧旗がたなびいています。

 その下で隊長が吠えます。
『かかったな島津!! お前達が一点突破してくる事はお見通しだ! 関ヶ原からお前達は全く進歩していないなー!! わあーはっはっはー!!!!』
 その時です!!」

 報告をしている間者の講談師は、大きく机を手のひらで叩くとパンとならしました。
 うーーん、あの時に仲旧隊長そんな事を言ったかなー?
 まあ、こう言う事は多少脚色されますからしょうが無いですね。

「どこからともなく黒い鞠のような物が飛んできて、島津軍と新政府軍の中央に立ちました。
 そして開口一番

『聞けーー!! 仲旧ーーーー!!』

 このたった一言で新政府軍全体に恐怖が走り、新政府軍全体がザワザワしました。

『うわああーー!! アンナメーダーマンだーー!! うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!』

 そして、ざわめきが悲鳴になりました」

「何! たった一言であの新政府軍が悲鳴をあげただと!」

 宗幸様が驚いています。

「して、そのアメダマ見たいな奴は、どんな男なのだ」

 別の重臣が質問します。

「はい、その後の話の中で、正義のヒーロー、アンナメーダーマンとの事でした」

「なにーっ! 正義のヒーロー、正義のヒーローだと!! そんな奴がいるのなら、隕石が落ちないようにすれば良かったじゃないか。日本をこんな風にしやあがって、正義のヒーローが聞いてあきれるわ!!」

 宗幸様は吐き捨てるように言いました。
 宗幸様、私がミサ様から聞いた話しでは、アンナメーダーマンがいたから隕石が落ちなかったのですよ。
 日本がこんな風になったのは、隕石と戦っていなかった人達が起こした事です。
 あの時、宗幸様は日本で何をしていたのですか。
 大殿は……アンナメーダーマンは、その時全力で戦い死にそうになったと聞いています。
 命がけで地球を救ってくれた人に、あなたごときがそんな事を言わないでください。

 大殿は、そう言われたらきっと傷つき反省してしまいます。
 偉大な人なのに全くおごらず、常に弱き人の味方になろうとするような優しい、私の憧れの方なのですよ。
 私は、大声でそう言ってやりたい衝動を必死で押さえつけました。

「続けよ!」

 伊藤様が言いました。

「はっ! 配下の足軽が騒ぐのを一べつすると、隊長仲旧は 

『うろたえるなーー!! 九州雄藩連合の策略だーー!! アンナメーダーマンが九州にいるわけがねえ。だまされるなーー!!』

 大声で叫び、おびえる足軽を黙らせます。

『ふふふ、もし俺が本当のアンナメーダーマンならどうするよ!』

 アンナメーダーマンはヘルメットをかぶっているため、表情は見えませんがその無骨な顔に薄ら笑みを浮かべて言ったと考えられます。

『この偽物野郎!! 化けの皮を剥がしてやる!!』

 仲旧は、物見台からブワッと飛び上がると十メートル以上飛び、アンナメーダーマンに向って恐ろしい速さでせまります。
 その姿はまるで、緑の海原を葉っぱの水しぶきを上げて進む駆逐艦のごとし。

『うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! しねーーー!!!!』

 仲旧は、目で追えないほどの攻撃を次々繰り出します。
 恐るべき速さです。もはや人間業ではありません。化け物です。
 アンナメーダーマンは、それを少し焦り気味で大きな動きでかわします。
 余裕はなさそうですが、避ける事が出来るだけでもたいしたものです。
 仲旧はあと少し、あと少しと攻撃の速度が上がります。
 そのとき!!

『うわああーー!! しまったーー!!』

 アンナメーダーマンが足下の悪い所にはまり、こけそうになるっ!!」

 講談師が、ここで大きく息を吸いました。

「ご、ごくり」

 集中して聞いている重臣達が唾を飲みました。

「アンナメーダーマンの体勢が大きく崩れると、仲旧の顔に悪魔の様な笑みが浮かぶ。

『ひゃあーーはっはっはーー!! 死ねー!! アンナメーダーマン!!』

 大きく振り上げた拳を、アンナメーダーマンの顔に向って振り下ろすー。

『ふふっ、お前がな!!』

 アンナメーダーマンはその拳を紙一重でかわすと、仲旧の胸を両手の平で攻撃する。
 どうやら、アンナメーダーマンはずっと余裕で戦っていたようです。

『げぶううぅぅーーーー』

 仲旧は、口からキラキラ蜘蛛の糸のような物を出しながら飛んで行き、物見台の上に綺麗に着地します。
 それを見た足軽達が

『ほ、本物だーー!! 逃げろーー!!』

 口々に言いながら、それでも動けずにいます。

『アンナメーダーマンでは相手が悪い! 十一番隊!! 撤退だーー!!』

 同行していた十一番隊の隊長がいち早く撤退の指示を出すと。

『ご、五番隊も撤退だーー』

 声を出すのもつらそうに、仲旧が撤退の指示を出しました。
 そして、この後アンナメーダーマンは、新政府軍五番隊に1ヶ月の停戦を約束させました。
 以上です。」

「な、何だと!! たった一人で新政府軍六千を撤退させ、それだけでは無く停戦まで約束させたのか! ひょっとすると、アンナメーダーマンとは相当有名な奴で知らない事は恥ずかしい事なのか」

 宗幸様が言いました。
 その通りですよ。
 木田家では、アンナメーダーマンショーのおかげで、大人から子供まで知らない人はいませんよ。最高の正義のヒーローです。

「ふむ、以上で報告は終わりだ」

 伊藤様が言い終わると一同の顔を一人ずつ見回していきます。

「ほ、報告します」

 新たな報告が入ったようです。

「うむ、申してみよ」

「はっ!! 島津軍が領内通行の許可を求めています。出来れば食糧の援助もしてほしいと申し出ております」

「おお、島津家久隊か! 直ちに許可を出し、食糧も渡して丁重に送り出すようにせよ」

「ははっ」

 豊前を出て来た家久様の部隊がどうやら日向に到着したようです。

「さて、今後の伊藤家の方針だが皆の意見を聞きたい、順に意見を申してみよ」

「はっ! ではそれがしから。新政府軍への降伏は城井家の二の舞、あり得ませぬ。豊後の大友家が敗れれば次は伊藤家、今準備に入っているとはいえ、延岡での決戦となりましょう。大友家と強固な信頼関係を築き、伊藤、大友同盟軍で、豊後の地で新政府軍を撃退するのが良いかと考えます」

「まあ、そうだな。下手に雄藩連合など信用すると、安東家の二の舞だ」

「他には」

「はっ、ではそれがしが……」

 宗幸様が手を少し動かし発言の許可を求めました。

「うむ、申してみよ」
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