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九州漫遊編

第三百二十九話 遠い昔

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 俺は、すぐさまミサとフォリスさんに大阪城にテレポートしてもらった。
 そして、夕食の準備をして宴会を始めた。
 宴会が始まると、どこに隠れていたのか肝属家の家族がやって来て宴会に参加している。

 俺は一通り肝属家の重臣の挨拶を受けて、展望台の一階の屋根に移り、上から楽しそうな肝属家の家族の様子を眺めている。
 俺の横には久遠さんがいる。
 少し離れて、木田の一行が食事を始めた。
 きっと気を使って、二人にしてくれたのだろう

「大殿、数々の無礼、どの様にお詫びすれば良いのか考えつきません」

 久遠さんの顔色が悪い。
 おそらく「死んでお詫びします」何て事を考えている顔だ。

「では、重い罰を与えたいと思います」

「は、はい」

 唇の端がほんの少しだけ上に上がった。
 人はこんな時、罰を与えられた方が、心が軽くなる。

「しばらく、今まで通り使用人八兵衛として俺を雑に扱って下さい」

「えっ!? そ、その様な事は出来ません!! お許し下さい!」

 久遠さんは姿勢を正すと、頭を床につけ土下座の状態になった。

「ふふふ、出来る事をやらせても罰にはなりません。出来ないのなら尚更やってもらいます。それが久遠さんへの罰です」

 俺は、土下座する久遠さんを起こして、横に座り体で久遠さんが倒れないように支えた。
 久遠さんは家族を失ったばかりの傷心の女性だ。
 初七日は終わっていると聞いたが、まだまだ心が疲れているはずだ。

「どうか、お許しを……」

「では、いままで通りではなく、使用人八兵衛さんを家族のように優しく接する、主人久遠様ではどうですか」

「は、八兵衛さんをかぞく……」

 その瞬間、目が見開かれた。
 俺の意図に気が付いてくれたのだろうか。

「実は謙之信は、越後の虎上杉謙信という男で、大阪でへまをしましてねえ。それで罰のためにお供をさせているのです。俺って男を知ってもらうために、同行させているのですよ。俺は久遠様が思っているほどの男ではありません。お供として一緒にいればわかると思います。なあ、謙信」

 謙信が名前を呼ばれてこっちに来た。
 どうにも皆は、大殿と呼ばれる俺を恐れ多い偉大な人間のように感じている様だ。
 俺は織田信長や徳川家康のように偉大な人間じゃ無い。
 むしろ逆だ、底辺のオタクの普通のおじさんだ。
 そこを理解してほしくて同行してもらっているのだ。

「はっ、大殿と一緒にいれば、大殿の優しさ、素晴らしさが良くわかりました。やはり日本一のお方でした」

 ――はぁーーっ!! 何言ってんの?

 だめだめだったでしょう。
 さっきもこけて転んで、かっこわるかったでしょう。
 あんた、どこを見ていたの?

「うふふ、もう知っています。女一人を文句も言わずに、一日中おんぶするなんて事はとても出来る事ではありません。それだけで、優しさをしっかり感じていました。それに今、家族を失った私を心から心配してくれています。ありがたいことです」

 久遠さんが目をうるませた。

「……だから、お父様が『同行しろ』って言ってくださったんだわ……」

 久遠さんが、誰にも聞こえないくらいの小声で言った。

「久遠さん、いえ、久遠様。八兵衛をよろしくお願いします」

「は……はい。八兵衛さんよろしくお願いします」

 何とか、納得してくれたようだ。
 もうしばらく一緒に行動をして、笑顔を取り戻したい。
 だいぶ取り戻したつもりだったが、これで振り出しに戻ってしまったはずだ。
 やれやれだぜ。

「お、大殿……」

「おお、兼続か、いつからそこにいたんだ?」

「はっ、ボインの姉ちゃんに大阪に行くように指示をされた所からです」

「はぁー、最初からかよ。いたのならもっとはやく声をかけてくれよ。それにあれは、ボインの姉ちゃんじゃねえからな、木田家の三柱ミサ様だ。ミサに聞かれたら殺されるよ!」

「おおっ! あれが有名な、木田家の三柱ミサ様でしたか。美しい方ですな」

 俺は木田家の三柱と言う言葉をためしに使ってみた。
 どうやら、兼続は知っているようだ。
 すごいなあ、木田家の三柱は日本の端のこんな所まで知れ渡っているのか。
 俺が思っている以上に木田家はすごい事になっているようだ。

「で、何の用だ?」

「はい、此度は無礼の数々……」

「もう良いよ。全て許している。それより、せっかく肝付兼続の名を付けているのだ。しっかり新たな日本史に名を残してくれ」

 肝付兼続という男はすぐれた武将だ。
 歴史SLGでは、余り評価されていないが高い武力と智力と荒々しさを持った武将で、あの島津家とも堂々と渡り合った男なのだ。
 恐らく肝属兼続は、肝付兼続をそのまま使うのが恐れ多くて肝属という名字にしているのだろうと思う。

「な、なんと!?」

「ふふふ、山賊もどきなどと言う汚名では無く、木田家の忠臣肝属兼続として武名を轟かせよと言う事だ」

「ななな、なんと!?」

「期待している!! 心の友よ!!」

「は、ははっ!!」

 再び、俺の前でひざまずくと頭を下げた。
 もともと、こんな世界にならなければ体の大きい普通の日本人だったのだろう。
 さっきまでの山賊の親分の雰囲気は消えている。



 この展望台は山の上に有るので、霧島の街が一望出来る。
 俺は霧島の街を見ようと少し場所を移動した。
 太陽が完全に沈んだ今は、暗闇があるだけで美しい町並みが全く見えない。
 空には星があるので空の方が明るくて、明かりの無い街の方は暗闇になっている。
 何度も見てきた色々な街と同じ景色だが、心の底から恐怖がわき上がってくる、恐ろしい景色だ。

「昔は、街に光があってその下に人々の団らんがあったんだよなあ」

 俺は街の方を見て、思わず口に出していたようだ。

「遠い、昔に感じますね」

 久遠さんが俺の手を握ってくれた。

「そうか、昔と言うほど時間は立っていないのか」

「でも、遠い昔に感じます……」

 あーー、そうか、久遠さん!
 俺は、涙が目に溜まって来た。
 あふれそうだ。
 久遠さんは、家族を失った日が遠い昔に感じると言ってくれたんだ。
 もう、前に進むと言ってくれたんだ。
 強い女性だ。そしてかがり火に照らされて優しそうな表情になった久遠さんは美しかった。
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