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九州漫遊編

第三百二十五話 美女の力

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「八兵衛さん、なにかいい物は見つかりましたか?」

宿舎のロビーで食後のお茶を楽しんでいると、久遠さんが話しかけてきた。

「いいえ。ここは死の街になっています。人の気配すらありません。せっかくの農地が放置されて荒れ放題です」

俺は暗い表情をしていたと思う。

「八兵衛さんから見たら、筑前も高評価して貰えなさそうですね」

「えっ!?」

「うふふ、筑前の安東家もあまり人がいませんでした。農業にも手が付けられていませんでした。ごめんなさい。ふふ、安東家はつぶれて良かったのかもしれません。私も島津家の田畑を見て、すごく驚きました。きっと十田一族のいた加賀は、綺麗に手入れされた水田で、秋にはお米がいっぱい収穫出来そうですね」

久遠さんは、マグカップの中に視線を落とすと静かに目を閉じた。
それは、まだ見ぬ加賀の地を想像しているようだった。

「ええ、加賀だけではありません。越中も越後も水田の準備が終っています。来年は飢える人がいなくなると思います」

「くすくす。八兵衛さん、あなたにそう言われると、本当に飢えが無くなりそうです」

「いやだなあ。私が太っているからですか?」

「あら、ごめんなさい。そんな悪意は無かったのですよ」

「そうですね。私の方こそすみません」

「八兵衛さん」

「はい」

「あなたはとてもいい人ね。皆に愛されていそうね」

久遠さんがそう言うと、全員の視線が久遠さんに集った。

「そうなのでしょうか。優しくはされていると思いますが、この姿なので愛されるのはあきらめています」

「……」

久遠さんは、目をうるませて無言でまっすぐ俺を見つめている。
きっと、みにくい俺を可哀想に哀れんでくれているのだろう。

「お話の途中ですが、少し良いですか」

「はい。なんですか? 久美子さん」

「肝属兼続はどう動くと思いますか」

「きっと、大勢で仕返しに来るでしょうね。そして、私達がまだいる事に驚くでしょう」

「あの、その時はどうしたら良いのですか?」

久美子さんが心配そうに聞いてきた。

「本当は、騒ぎは起こさず静かに大隅、日向を見て回れればと思いましたが、肝属家は正直期待外れでした。民衆の事を考えない為政者は許す事が出来ません。追い払いましょう」

「あ、あの。八兵衛さん。あなたはどういうお方なのですか?」

久遠さんが、目を見ひらいて聞いてきた。視線が痛い。
そりゃあ、何か感づきますよね。
でも、もう少し秘密です。

「え、あ、やだなあ。ただの豚顔のデブ、十田家の使用人八兵衛ですよ」

「ぷっ、そうですね。くすくす」

久遠さんがいたずらっぽく笑っている。
少し、元気になってくれたのだろうか。それなら良いのだけれど。



翌日、太陽が真上になった頃、お客さんが国道を歩いて来た。
今日は、少し暑い。夏日じゃないだろうか。
空はとても青く、雲一つ無い。良い天気だ。

「兼続様! 奴らです」

兼続と呼ばれた男は、顔中に髭を生やした大男で腕っ節は強そうだ。
山賊の親分としては申し分の無い容姿をしている。
まあ、俺の苦手な恐そうな奴だ。

「ほう、本当に逃げずに待っていたのか? 馬鹿なのか?」

「見てください。あの女達です」

「なにーーっ!!!! 滅茶苦茶美人じゃねえか!! あんな美女見た事がねえ!! 今晩は、寝る暇がねえぞおい!! ひゃはははー!」

「まあ」

響子さんとカノンちゃんが赤くなって、両手でほっぺを押さえゆらゆら揺れている。
相変わらずそっくりな反応で、マイペースだ。

「あの、どの女を選ばれるのですか?」

兼続の横の家臣が、おこぼれに預かろうと聞いている。

「バ、バカヤロー! 全部だよ! あんな上玉は全員俺の側室にする。……そうかわかった!! てめーらの魂胆は全てわかった。仕方がねえ望み通りにしてやろうじゃねえか」

「兼続様、どういうことですか?」

「ちっ、馬鹿が! わからねえのか! 奴らは、俺に女を渡して、重臣に取り立ててもらおうという魂胆なのさ。俺は全てお見通しだ」

「あー、なるほど」

「あの、おっぱい姉ちゃんは、メインディッシュだ。前菜は少し落ちるあの二人で、あの美少女はメインディッシュの付け合わせ。デザートに絶世の美女か。甘美そうだなー」

兼続は、自分の世界にトリップしているようだ。
兼続がトリップしている間に俺達のまわりを兼続の配下が取り囲む。

「おいおい。お前ら、馬鹿なのか? 三百人くらいしかいねーじゃねーか」

つい、俺は言ってしまった。
まあ、十人足らずの相手に三百人なら多い方か。

「な、なにーーっ!!!!」

兼続の横の重臣の顔が真っ赤になっている。

「おいおい、つっぱる必要はない。もう仕官の件は了承した。今日よりお前達は全員肝属家の家臣にしてやる。おお! 違う違う、喜べ重臣だ。肝属家の重臣にしてやる」

兼続はご機嫌なため、笑顔で言った。
しかし、美人の力というのはすごいなあ。感心する。
でも、だからこそ不幸なんだよな。
響子さんとカノンちゃんが心配になり顔を見た。
二人は、まるでピクニックを楽しむ美人姉妹のような笑顔で自然体だ。
この二人、なんでこんなに余裕なんだ。不思議だ。

「オイサスト! シュヴァイン!」

響子さんとカノンちゃんが変身した。

「久美子様、もう良いですよね。あの馬鹿黙らせてきます」

――ぎゃあああああ!!!!

二人とも怒っていました。
激おこです。でも、顔は天使の笑顔のままです。

「オイサスト! シュヴァイン!」

遅れて、残りの全員が変身した。
だが、この時にはすでに、兼続は二人の攻撃で伸びていた。

「き、貴様らーー。不意打ちとは卑怯だぞーー」

「薬丸様、あいつらは、さらにパンツとおっぱいで隙をついてきます」

重臣の薬丸に、番兵のかしらが昨日の事を伝えた。

「馬鹿もーーん!!!! こんな時にパンツだのおっぱいだのふざけているのかーーーー!!」

「ぎゃあああーーー!!!!」

パンツとおっぱいに目を奪われた兵士達が次々倒されて行く。
こんなこともあろうかと、フリフリスカートにしておいたのだよ。
俺にはそれ以外のやましい気持ちなどは全くないからな。

「馬鹿もーーん!! パンツとおっぱいに目を奪われるなーー!! もういっそ目を閉じて戦えーー!!!!」

薬丸が叫んだ。
配下の兵士が目を閉じたため、三百人はあっという間に全員倒された。

「くっ、くそーー。不意打ちとは卑怯だぞ!」

兼続が目を覚ましたようだ。

「なーーーーーっ!!」

兼続はこの光景を見て目が飛び出している。
そして大声で叫ぶと、ガックリひざをついた。
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