313 / 428
北と南の戦い
第三百十三話 策士策におぼれる
しおりを挟む
「俺の策はこうでした。
敵、新政府軍は明日、日の出を待って食事の後、陣に立てこもる島津軍に総攻撃をかける予定です。
そこで、敵の朝食の炊飯の煙が上がるのを見て、奇襲による一点突破をするという考えでした」
「なるほど。名案だ」
歳久殿が言った。
「しかし、すでに兄上が奇襲による一点突破をやってしまった。新政府軍も間抜けではないはず、警戒しているだろう」
「さすがは家久様です。だからこそ、新政府軍は我々が一点突破をしてこない可能性があると思うのでは無いでしょうか」
「そうか! 奇襲を厳重に警戒しているところに、わざわざ奇襲をする馬鹿はいない。裏の裏をかくという事か」
「そうです。敵の食事の用意をする煙を見たら、こちらも山で食事の準備をしている様に見せかけた煙を上げるのです。それを見た新政府軍はやはり、籠城戦をするつもりと考える事でしょう。その隙をつき一点突破を試みるのです」
「ふむ」
歳久殿も家久殿も考え込んでいる。
まあ、戦なんて考えたところで、なるようにしかならない。
どのみち四つの選択肢しかない。後は、どれを選ぶかだけなのだ。
「ふふふ、どのみち我ら島津家の選択は関ヶ原の時から一択だ。それで行こう」
歳久殿が重々しく言った。
「そうと決まれば見張りは俺と、アドでやります……」
俺は一応アドの返事を待った。
「……」
だが、返事は無い。
「安心して眠って下さい」
「ニャーー!! アドは返事をしていないニャー!」
「ふふふ。ああ、その前に、腹ごしらえをしましょう。明日は朝飯抜きです。今から用意をしますので、それを食べてゆっくり休んで下さい」
俺は、腹を壊さないように温かい丼を用意した。
そして、富士の湧水で入れた静岡茶もだした。
牛丼と玉子丼を用意したのだが、たいていの者が両方持って行った。
「は、八兵衛殿、あなたはいったい何者なのですか?」
家久殿が、丼を二つ前に置いてお茶をすすりながら驚いている。
「ふふふ、俺は久美子様の家中、戸田一族のただの使用人ですよ」
「うふふ」
久美子さんがうれしそうに頬を赤らめて笑っている。
兵士達は腹が膨れると、高いびきで眠りについた。
俺とアドとフォリスさんで新政府軍が、山に攻め込んで来ないかを見張った。
新政府軍は攻めて来る気配は無かった。それどころか、奇襲を恐れて山から数百メートル離れた所に交替で見張りを立てて休んでいる。
翌朝、日の出前。
空が少し青くなるのを見て、煙番を残し島津軍は足音すら立てず麓に降りた。
そして、木の陰や草の影に身を隠して息を殺し気配を消した。
太陽が東の空に頭を出すと、新政府軍の陣がゴソゴソ動き出した。
山が終った所は田畑が続いている。だが、手入れされていないため雑草が太ももに届くくらいまで伸びている。
そのため一面が美しい緑に覆われている。
島津軍の兵士は、木々の影から緑の大地の向こうをじっと見つめている。その表情はどの顔も緊張でこわばっている。
しばらく様子を見ていると、細い煙が緑の大地に何筋も青空にむかって伸びていく。
歳久殿が手を上げると、山からも煙が上がる。
――ふーーっ、時間が立つのが遅い。一分ってこんなに長いのかとじっと時計を見つめた。
「そろそろ、いいだろう」
歳久殿がつぶやいて、家久殿を見た。
家久殿がうなずき、大きく息を吸った。
「ぜんぐーーーん!!!! 突撃ーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」
静寂を破り、喊声が大地を震わせた。
先頭を歳久殿と家久殿が屈強な兵士に囲まれて草の中を敵陣目指して全速で進んだ。
「はあーーーーーはっはっはっは!! かかったな! 島津め!! 犬飼の言うとおりになったわ!! まんまとおびき出されおって!!」
仲旧という文字の旗の下に櫓が組まれていて、その上に男が立ち叫んだ。エラの張った四角い顔に立派な体格の男だ。筋肉が異常に発達している。きっとハルラのドーピング戦士なのだろう。
ところで仲旧とは、ナカキュウと読むのだろうか。
良く見ると、左前方に犬飼の旗も見える。
どうやら、俺は犬飼隊長の策に、まんまとはまったようだ。
敵の煙はこっちを油断させるための偽の煙だったようだ。
新政府軍は、すでに俺達が一点突破をすると看破していて待ち構えていた様だ。さすがだ。
「囲めーーーー!!!!」
櫓の上で仲旧が叫ぶ。
草の中に潜んで居た兵士が立ち上がった。
背中に草を背負い、草むらに擬態していたようだ。
退路をふさぐように、島津隊の後ろに回り込み走り出している。
どうやら、犬飼隊長は山に再び入られる事を嫌がっているようだ。
数で勝る新政府軍は、この草むらで弱い島津隊を殲滅する気だ。
「どうやら、策にかかっていたのは俺達のようですね。策士策に溺れる、昔の人はいい事を言いますよね。これは俺の責任です。ここからは俺が先頭を行きます」
俺は、歳久殿と家久殿に声をかけた。
しかし、犬飼隊長はすごいなあ。まんまとやられた。
腕は立つし、智力も優れている。
俺みたいなインチキ野郎とはわけがちがう、本物なんだろうなあ。
俺は、犬飼隊長には顔ばれしている。
ヘルメットを確認して、先頭に走り出した。
「聞けーー!! なかきゅうーー!!」
「誰が、なかきゅうだーー!! 俺はそんな柔らかそうな名前じゃねえー!! 俺の名は新政府軍五番隊隊長ナカヅイだーー!!!!」
どうやら、仲旧と書いてナカヅイと呼ぶらしい。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
俺が話しかけると、新政府軍に喚声とも悲鳴とも取れる大声が上がった。
いったい、何事だ?
敵、新政府軍は明日、日の出を待って食事の後、陣に立てこもる島津軍に総攻撃をかける予定です。
そこで、敵の朝食の炊飯の煙が上がるのを見て、奇襲による一点突破をするという考えでした」
「なるほど。名案だ」
歳久殿が言った。
「しかし、すでに兄上が奇襲による一点突破をやってしまった。新政府軍も間抜けではないはず、警戒しているだろう」
「さすがは家久様です。だからこそ、新政府軍は我々が一点突破をしてこない可能性があると思うのでは無いでしょうか」
「そうか! 奇襲を厳重に警戒しているところに、わざわざ奇襲をする馬鹿はいない。裏の裏をかくという事か」
「そうです。敵の食事の用意をする煙を見たら、こちらも山で食事の準備をしている様に見せかけた煙を上げるのです。それを見た新政府軍はやはり、籠城戦をするつもりと考える事でしょう。その隙をつき一点突破を試みるのです」
「ふむ」
歳久殿も家久殿も考え込んでいる。
まあ、戦なんて考えたところで、なるようにしかならない。
どのみち四つの選択肢しかない。後は、どれを選ぶかだけなのだ。
「ふふふ、どのみち我ら島津家の選択は関ヶ原の時から一択だ。それで行こう」
歳久殿が重々しく言った。
「そうと決まれば見張りは俺と、アドでやります……」
俺は一応アドの返事を待った。
「……」
だが、返事は無い。
「安心して眠って下さい」
「ニャーー!! アドは返事をしていないニャー!」
「ふふふ。ああ、その前に、腹ごしらえをしましょう。明日は朝飯抜きです。今から用意をしますので、それを食べてゆっくり休んで下さい」
俺は、腹を壊さないように温かい丼を用意した。
そして、富士の湧水で入れた静岡茶もだした。
牛丼と玉子丼を用意したのだが、たいていの者が両方持って行った。
「は、八兵衛殿、あなたはいったい何者なのですか?」
家久殿が、丼を二つ前に置いてお茶をすすりながら驚いている。
「ふふふ、俺は久美子様の家中、戸田一族のただの使用人ですよ」
「うふふ」
久美子さんがうれしそうに頬を赤らめて笑っている。
兵士達は腹が膨れると、高いびきで眠りについた。
俺とアドとフォリスさんで新政府軍が、山に攻め込んで来ないかを見張った。
新政府軍は攻めて来る気配は無かった。それどころか、奇襲を恐れて山から数百メートル離れた所に交替で見張りを立てて休んでいる。
翌朝、日の出前。
空が少し青くなるのを見て、煙番を残し島津軍は足音すら立てず麓に降りた。
そして、木の陰や草の影に身を隠して息を殺し気配を消した。
太陽が東の空に頭を出すと、新政府軍の陣がゴソゴソ動き出した。
山が終った所は田畑が続いている。だが、手入れされていないため雑草が太ももに届くくらいまで伸びている。
そのため一面が美しい緑に覆われている。
島津軍の兵士は、木々の影から緑の大地の向こうをじっと見つめている。その表情はどの顔も緊張でこわばっている。
しばらく様子を見ていると、細い煙が緑の大地に何筋も青空にむかって伸びていく。
歳久殿が手を上げると、山からも煙が上がる。
――ふーーっ、時間が立つのが遅い。一分ってこんなに長いのかとじっと時計を見つめた。
「そろそろ、いいだろう」
歳久殿がつぶやいて、家久殿を見た。
家久殿がうなずき、大きく息を吸った。
「ぜんぐーーーん!!!! 突撃ーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」
静寂を破り、喊声が大地を震わせた。
先頭を歳久殿と家久殿が屈強な兵士に囲まれて草の中を敵陣目指して全速で進んだ。
「はあーーーーーはっはっはっは!! かかったな! 島津め!! 犬飼の言うとおりになったわ!! まんまとおびき出されおって!!」
仲旧という文字の旗の下に櫓が組まれていて、その上に男が立ち叫んだ。エラの張った四角い顔に立派な体格の男だ。筋肉が異常に発達している。きっとハルラのドーピング戦士なのだろう。
ところで仲旧とは、ナカキュウと読むのだろうか。
良く見ると、左前方に犬飼の旗も見える。
どうやら、俺は犬飼隊長の策に、まんまとはまったようだ。
敵の煙はこっちを油断させるための偽の煙だったようだ。
新政府軍は、すでに俺達が一点突破をすると看破していて待ち構えていた様だ。さすがだ。
「囲めーーーー!!!!」
櫓の上で仲旧が叫ぶ。
草の中に潜んで居た兵士が立ち上がった。
背中に草を背負い、草むらに擬態していたようだ。
退路をふさぐように、島津隊の後ろに回り込み走り出している。
どうやら、犬飼隊長は山に再び入られる事を嫌がっているようだ。
数で勝る新政府軍は、この草むらで弱い島津隊を殲滅する気だ。
「どうやら、策にかかっていたのは俺達のようですね。策士策に溺れる、昔の人はいい事を言いますよね。これは俺の責任です。ここからは俺が先頭を行きます」
俺は、歳久殿と家久殿に声をかけた。
しかし、犬飼隊長はすごいなあ。まんまとやられた。
腕は立つし、智力も優れている。
俺みたいなインチキ野郎とはわけがちがう、本物なんだろうなあ。
俺は、犬飼隊長には顔ばれしている。
ヘルメットを確認して、先頭に走り出した。
「聞けーー!! なかきゅうーー!!」
「誰が、なかきゅうだーー!! 俺はそんな柔らかそうな名前じゃねえー!! 俺の名は新政府軍五番隊隊長ナカヅイだーー!!!!」
どうやら、仲旧と書いてナカヅイと呼ぶらしい。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
俺が話しかけると、新政府軍に喚声とも悲鳴とも取れる大声が上がった。
いったい、何事だ?
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる