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激闘編

第二百九十四話 田起こし

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 大殿は金沢郊外の田園の中に真っ赤な毛せんをひいて、田んぼの作業を見つめています。
 田んぼでは、スザクとアリスというアンドロイドが黙々と田起こしをしています。
 毛せんの上にミサ様、上杉様一行、知らない女性が二名と男性一名がいます。さらにメイドのフォリスさんと、古賀忍軍のい組の組頭桃井さんと、は組の組頭木村さんまでいます。

「兄弟! 風流じゃねえか」

「やあ、ゲン。金沢は意外と山が多くて平地が少ないなあ。平地はほとんど建物が建っているし、田んぼが少ない。ところでこんな所まで何をしにきたんだ?」

「少し、北海道の報告にな」

「何かあったのか?」

「ああ、北海道国軍が帯広の町を占領した」

「ふむ」

「帯広の町は乱取りのため酷い有様だったようだ。住民が大勢殺された。俺達は静観するつもりだったが、釧路を同じにしないようにするため、北海道国軍の侵攻を釧路の手前で止めた」

「ふむ」

「まあ、簡単に言えば北海道国軍に喧嘩を売ったと言う事だ。十三日後に帯広で決戦をするつもりだ。その報告だ」

「なるほど。敵の戦力予想は?」

「四万ぐらいと考えている。敵は武器も総動員で来ると想定している」

「だ、大丈夫なのか?」

「心配はいらない。この戦いは俺と伊達の二人でするつもりだ。負けても戦死者二名だ」

「な、なんだって!?」

 さすがの大殿も驚いています。

「大殿!! 聞いて下さい。釧路では一万人程の兵士と10式戦車まで用意している北海道国軍に、二人だけで戦ったんですよ」

 私は、我慢出来ずに口を出してしまいました。

「なっ、なんだってーー!!!! はっ!! す、すみません。私は薩摩島津家の豊久と申します。これは、妹の久美子、隣が金沢奥村家の永子殿にございます」

 私が知らなかった三人は、この三人だったようです。

「島津久美子です」
「奥村永子です」

 二人がゲン様にあいさつをしました。

「ゲン殿、帯広で四万の敵に二人で挑むおつもりなのですか」

 豊久さんが目をキラキラさせてゲン様に聞きました。

「ああ、そうだ。だが、二人と言っても、ほら、この天夕改と独眼竜で戦う。敵からダメージを受ける事は無いはずだ」

「な、な、なんですと! このロボはそれほどなのですか? すばらしい……」

 豊久様は天夕改と独眼竜に見とれています。

「ゲン、丁度金沢に激豚君を持って来てある。ゲンは激豚君を使ってくれ」

 激豚君とは黒い機動陸鎧で、大殿専用機です。お尻に激豚の二文字が浮き出た機動陸鎧です。
 機動陸鎧の中では最も強度が高く、運動性能が上の機動陸鎧なのです。

「おお、それでは、天夕改が余ってしまいますなあ。どうでしょう俺に貸しては頂けませんか。北海道では大殿のため手柄をたてて見せます」

「はあーっ!! いやいや、正気か豊久殿?」

「ふふふ、正気も正気。そんな戦が行われると聞いて参加しないという選択肢はありません」

「やれやれだぜ。ふむ、ついでだ……、古賀忍軍の組頭には専用の機動陸鎧を渡しましょう。名前は天影です」

 大殿がそう言うと田んぼに四人の真っ黒な忍者の様な機動陸鎧が立っています。

「こ、これは!!!!」

 桃井さんと廣瀬さん木村さんと私が、驚いて思わず声が出ました。

「ゲン、帯広の戦いには豊久殿と赤穂さんも参加させてくれ。但し、赤穂さんは姿を消して、万が一の時の救出係です。いいですね」

「はっ!!」

 豊久殿が、感無量という顔で大殿を見つめています。

「久美子さん。豊久殿が帰るまで、しばらくは金沢で奥村さんとお留守番ですね」

「はぁーー、仕方が無いですねー。兄様は言いだしたら聞いてくれないですし。やれやれです」

 とうとう、久美子さんまで大殿の口癖がうつっています。

「そうだゲン、聞いてくれ。俺はしばらく田植えに専念したい。それが終ったら九州に行こうと思っている」

「ほう」

「九州では雄藩連合が発足して、新政府軍に対抗しようとしている。だがどうにも結びつきが弱いようだ。俺が行って雄藩連合を強固な結びつきにしたいと考えている」

「なるほど。わかった。北海道国は俺に任せてくれ」

「頼む」

 その後も、大殿とゲン様は抹茶を飲みながら話し込んでいます。
 私は、天影の元に駆け寄りました。
 天影の肩にはひらがなで、いろはに、の文字が浮き出ていてどの組の天影かわかるようになっています。
 私は、に、の天影のハッチを開けて中に入りました。

 横では、いろはの天影がそれぞれ動き出しました。
 誰でも考える事は一緒ですね。

「これは、どうすればいいんだー?」

 豊久殿が天夕改の前で悩んでいます。

「おお、すまんすまん」

 ゲン様が天夕改に駆け寄り豊久殿も乗せるように指示しました。

「なるほど、俺がまだ登録されていなかったのですな」

 今度は豊久様の指示を聞くようになりました。
 豊久殿が乗り込むと、天夕改もスムーズに動いています。
 天影から降りた私は、大殿の姿をじっと見つめます。
 これで、次はまたいつ会えるかわかりません。
 目に焼き付けたいと思います。

 ふと横を見ると廣瀬さんも同じように大殿を見つめています。
 でも大殿の視線は、田起こしをするアンドロイド達に向けられています。
 何を思っているのでしょうか?
 きっと、必死で働くだけ働いて、なんの要求もしてこないアンドロイド達に感謝をしているのでしょうね。そういうお方です。
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