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激闘編

第二百八十七話 私は勝てるのか?

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 慶次郎は雄叫びのまま、槍をすさまじい勢いで振りかぶりました。
 大きく見開いた目玉で、張高様を見下ろして槍を振り下ろします。
 槍が空を切る音と爆風があたりに砂埃を舞い上げます。
 そして硬い金属がぶつかる大きな音が響き、砂埃の中にオレンジの光がボゥと丸く見えました。

「グワッ!!」

 張高様の声が聞こえました。
 砂埃が薄らぐと、慶次郎の槍が張高様の肩に当たっています。
 恐らく張高様は慶次郎の槍を、頭上で真横に構えた槍で受けたようです。
 ですが慶次郎の槍の勢いで、張高様の槍が押し負けてグニャリと、くの字に曲がってしまったようです。
 慶次郎の槍はそのまま勢いを弱めること無く、張高様の肩に当たったものと思われます。
 その一撃はすさまじく、張高様の足が数センチコンクリートを割って埋まっています。

「ぐふふふふ」

 慶次郎は気持ちの悪い笑い声を上げると、だらりとよだれを垂らしました。
 そして槍を振りかぶると、目にも止まらぬ速さで頭上を回転させます。
 轟音と砂埃が舞い上がります。
 砂埃が竜巻にまかれたように渦を巻いて舞い上がると、慶次郎は槍の勢いを殺さないまま、真上から左右から張高様に次々当てていきます。

 最初は、槍で受けていたようですが、くの字に曲がった槍ではうまく受けきれないようで、鎧に当たる鈍い音が混ざります。
 次第に鈍い音の方が多くなると、慶次郎は後ろに間合いを取ったように見えます。
 まわりが砂塵の為、二人の姿がよく見え無くなっています。

 薄ら影しか見えませんが、慶次郎は槍を大地と水平に構えたように見えます。

「あっ、いけません!」

 私は自然と声が出ました。

「キエエエエエエエエエエーーーーー!!!!」

 慶次郎は気合いと共に体ごと張高様に突っ込みました。

 ガッ!!

 槍の穂先が張高様に当たりました。
 そして、穂先の分慶次郎の体が前に進みました。
 槍の穂先が、張高様の中に入って行きました。

「……」

 あたりが静寂に包まれます。

「いやああああーーーーー!!!」

 張高様の奥方様の悲鳴が静寂を破ります。
 砂埃が静かに上の方から消えていきます。
 最初に慶次郎の顔がはっきり見えるようになりました。
 慶次郎は満面の笑みです。

 そして、張高様の顔がはっきりしてきました。
 張高様は目を閉じています。
 表情は無の表情です。
 そして槍が見えてきました。

「!?」

 慶次郎が最初に驚きの表情になりました。
 槍の穂先が鎧を貫通したと思っていましたが、貫通できずに横に曲がっています。
 張高様はくの字に曲がった槍を素早く投げ捨てると、ガッと目にも止まらぬ速さで慶次郎の槍をつかみます。

「ぬう」

 慶次郎が槍に力を込めたようです。
 キシッ、槍を握る手から音が聞こえます。
 張高様は、それを見て少し笑いました。
 そして、槍を手前にすごい力で引っ張ったようです。
 慶次郎がヨタヨタよろけながら、張高様に近づきます。

 ゴッ

「ぐわあああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 張高様はバランスを崩した慶次郎の顔を殴りつけました。
 慶次郎の顔が陥没しています。
 陥没したところが深く切れたのでしょうか、血が滝の様にこぼれ落ちます。

 ボキン

 張高様は、顔を押さえてフラフラしている慶次郎の腕を取ると、その腕を無慈悲に折ってしまいました。

「ギエエエエエエェェェェェーーーー!!!!」

 慶次郎の怪獣のような悲鳴です。
 せっかく静かになった島に響き渡りました。
 鳥たちが再びあせって飛び立ちます。

「フンッ!」

 バキッ、張高様は情け容赦なくもう一本の腕を折りました。

「に、にいちゃーん! こ、こいつを止めてくれーー!!」

「ば、ばっきゃーろー! そんなことは、さっきからやっているんだよっ! くそっ!!」

 見ると、一益が張高様に両手の平を向けています。
 何かをしようとしているみたいですが、張高様には効かないようです。

「おいおい、聞き捨てならねえなあ。てめーの相手は、この俺だろうがよう」

 呂瞬様が一益に近づきます。

「ま、待て!!」

 一益が呂瞬様にあせって言いました。

「ぎゃーーー!!! うぎゃあああぁぁぁぁ!!」

 慶次郎は、張高様に次々骨を折られています。

「お、おい!! もういいわかった。俺達の負けだ。柴田殿、負けを認める」

「ふふ、俺は名を呂瞬と改めた。前田は張高だ」

「わ、わかった。呂瞬殿! 張高殿を止めてくれ!」

「ぎゃあ! ぐわっ!」

 その間もずっと張高様は手を止めません。
 慶次郎の悲鳴が続きます。

「張高!! もういいだろう。弱い者いじめはやめてやれ!!」

「よっ、弱い者いじめだと!!」

「んっ!?」

 呂瞬様がとぼけた顔をして一益をにらみました。

「ちっ!」

「ところで、お前達兄弟は何人だ?」

「はぁっ、俺達は日本人だ!! 決まっているだろう」

 一益は「何を当たり前の事を聞くんだ?」という表情になりました。

「くひひ、そうか、日本人か」

「あっ!」

 一益は何かに気が付いたようです

「わかっているとは思うが、俺は日本人が嫌いだ。出来れば皆殺しにしたいと思っている。てめーが日本人で良かったぜ」

 呂瞬様は槍を振り上げました。

「くっ!! 俺はどうなってもかまわん、弟だけは助けてくれ!!」

 一益がそれだけを叫ぶと、全てを諦めたのか目を閉じて動きを止めました。

「呂瞬様!!」

「どうした張高?」

 わざとらしく槍を頭上で止めると、張高様を見ました。
 一益は少し薄目を開けて呂瞬様を見ています。

「この二人は、戦力になります。命だけは助けてはどうでしょうか?」

「ふん、一益よかったな! 張高に感謝するんだな。廣瀬殿! 慶次郎のケガを治してやってくれ」

「は、はい」

 呂瞬様は武だけの人かと思いましたが、なかなか頭が切れるようです。
 これで、慶次郎は私にも頭が上がらなくなりますよね。

 それにしてもすごい戦いでした。
 もし私が戦っていたら勝てるでしょうか。
 慶次郎なら、スピードで上まわる私の方が有利でしょうか。
 もし、鎧を着けた張高様ならどうでしょう。

「はーーっ、恐いっす!」

「本当です。廣瀬様は血の気が多すぎます」

「どうせ、張高様にどうやって勝とうかなんて考えていたんじゃ無いっすか」

 ろ組の部下二人が横で笑いながら言いました。

「ほう、廣瀬殿がその様な事を?」

 張高様が興味津々です。

「そうっすよ。うちの組頭は古賀忍軍では一番の身体能力っす。模擬戦では桃井様に遅れを取りましたが、それは爆乳が邪魔で負けただけっす。もし、乳が標準サイズなら間違いなく古賀忍軍一の実力者っす」

「なっ、なんと! で、俺に勝てそうですか?」

「うふふ、どうでしょうか」

 どう考えても無理ですね。
 戦場で張高様に出会ったら逃げるの一択ですね。
 私の忍者装備なら逃げる事なら出来そうです。

「おーーい!! そんなことより早く治してくれーー!! 痛てーー!!」

 慶次郎さんがなさけない声で呼んでいます。
 すっかり忘れていました。
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