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激闘編

第二百六十九話 迫り来る恐怖

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「まったくよー、敵軍の将を呼びつけるかねー」

「全くです」

 そう言いながら、二人は無警戒で近づいてくる。

「俺は、柴田には罰を与えたいと考えている。したがって身柄は織田家へは帰さない」

「罰ですか? どの様な」

 明智がすかさず聞いてきた。

「うむ、柴田の日本人嫌いは本物だ。このまま日本にいさせても、お互いに良くないだろう。大陸へ行ってもらおうと思う。そこで、大いにその武を奮ってもらいたい」

「なるほど」

「この先に船を浮かべている。明日の朝には着けるだろう」

「わかりました。それを殿に伝えれば良いのですね。ですが、それではたいした罰にはならないのでは?」

「ふふふ。日本以外にはゾンビ先生がいて歓迎してくれるさ」

「ゾ、ゾンビですか?」

「ああそうだ。映画でおなじみのあのゾンビだ」

「ふふっ」

 信じたのか信じていないのか分らないが、明智と羽柴が顔を見合わせて苦笑いしている。

「それと、越中から織田の兵士は撤退してもらいたい。無駄な血は流したくないからなあ」

「ふふふ、籠城は無駄という事ですね」

「戦いを望むのなら、羽柴軍でも明智軍でも籠城してくれてかまわんよ。その時は正々堂々戦おう。力の限りにな」

 俺は、脅すように顔に影を落とした。
 力の限りとは手加減をしないという意味だ。
 二人には伝わるだろう。

「わかりました」

「その代わり、今後いっさい木田家から先に織田家に攻め込まない。底辺に暮らす人々を大切にしない場合は別だがな」

「なるほど」

「まあ、結局俺は日本人が幸せに暮らせるのなら、誰が殿様でも構わないのさ」

「!? わかりました」

 明智と羽柴は一瞬驚いた顔をしたが、そろって理解してくれたようだ。

「じゃあよう、倒れている前田軍を運んでやってくれ」

「わかりました」

 羽柴と明智がそろって返事をした。

「待ってください!!」

 ヨロヨロと、前田が歩いて来た。

「俺も柴田様に同行させてください」

「なに!? いいのか?」

「俺は、柴田様に大きな恩がある。返したい」

「ふふふ。そうか、うむ。前田が一緒ならいいかもしれないなあ。よし許可しよう」

「あ、ありがとうございます」

 前田と柴田が一緒なら、戦いぬいて生きていけるのじゃ無いかと考えた。
 まあ、大きな苦労をするだろうが、それが罰なのだからしょうが無い。
 これは日本から世界に対しての、初めての救援隊になるのかもしれないと考えていた。
 俺は、日本の事ばかり考えていたが、今は世界中が苦労している。
 俺の頭の中に、昔よく流れていたテレビのCMが浮かんできた。
 世界は一家、人類は皆兄弟。

「そうか、世界か」

「!?」

 俺のまわりから、声にならない声が聞こえた。
 はっ、と息を飲むような……

 ――しまった!!

「ちがうぞー、間違えるな。世界征服じゃないぞー。世界中の人の苦労を考えただけだ」

 俺は鳥のように手をバタバタしながら言った。

「大殿、わかっています。日本の後は世界中の子供を助けましょう」

「うむ」

 良かった。真田はわかってくれたようだ。

「聞けーー!! 皆のものーーー!!!! 大殿が世界征服を決意なされたーーーーー!!!!!」

 真田が叫んだ。
 って、おーーい。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

 これまで静かにしていた木田軍から歓声が上がった。

 俺は、きっと悲しそうな、なさけない顔をしていたはずだ。
 その顔のまま羽柴と明智を見た。
 二人は爆笑していた。

 ――俺はー、そんなことを一言も言っていないぞーー!!

 やれやれだぜ。





 船に次々柴田兵が運び込まれます。
 両手両足を拘束され、青いミスリル製の巨大船の甲板に転がされます。

「海に出たら、拘束は外れる。日本に残りたい者は、今のうちに申し出よ」

 結局、柴田隊から日本に残りたい者が千人程出ましたが前田隊から、同行する者が千人程出てきましたので、結局三千人が船に乗せられました。
 機動陸鎧指揮官機の上杉様は、申し出る者がいないのを確認すると、
 私の横に来て言いました。

「では、廣瀬さん、お願いします」

「はい、わかりました」

 私の返事を確認すると、船から上杉隊は飛び立ちました。
 船に残ったのは柴田隊と、姿を消した私達古賀忍軍ろ組の精鋭十二人です。

「廣瀬様、ろ組全員乗船完了しました」

「わかりました。全員気配も消して気付かれないようにね」

「はい」

 大殿は、柴田隊の監視に越中戦に同行していた、古賀忍軍の私達を選んでくださいました。
 全身を忍者装備で包んでしまえば、ゾンビからは襲われないとの事です。後は、柴田隊に見つからないようにするだけです。

「すげーー、海だーー!!」

 現地がどれだけ大変な事になっているのかも知らないで、のんきに柴田兵がはしゃいでいます。

 この同行の前に、現在の世界の事とゾンビのことを大殿から教えて頂きました。
 崩壊した世界にさらにゾンビがいるなんて。
 この人達は、今そんな場所にむかっているのです。

 太陽が沈むと、空気が澄んでいるためなのか星が空を覆っています。
 兵士達は甲板で丸くなっています。
 少し寒いですね。

「ふぉー!!」

 時々目を覚ました兵士達が、空を見て声を上げています。



 翌朝、船は大陸に一本の橋でつながる数百メートル程の島の横に接岸しました。
 兵士が荷物を持って次々降りていきます。

 大殿の配慮で、柴田軍の武器と物資はそのまま積み込まれています。
 しかも、殿の治療の超能力で、兵士と前田様はケガが治っています。
 柴田様だけは直してもらえなかったようです。
 鼻に紙を詰めていますが、真っ赤になっています。
 鼻血くらいなら問題ないですね。

 船の横には結界が張ってあり、今はゾンビがいません。
 船から全員が下りると、結界が消えました。
 柴田兵はまだ気が付かないようです。
 結界は透明で、角度を色々変えるとやっと認識出来る程度です。わからないのも無理はありません。

「ぐぉーもぉーーーー」

 例えるなら牛の鳴き声をもっと低くしたような、嫌な響きのある声が聞こえてきました。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
「な、何だあれはーーー!?」

 さすがに気が付いたようです。
 生きている人を見つけると、問答無用に襲いかかり殺そうとしてくる者達です。

「槍を持てーー、密集陣形だーーー!!!」

 柴田様が叫びました。素早いですね、さすがです。
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