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第二百六十四話 決戦の地

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「薩摩をまだ信用したわけではないけれど、久美子さんの覚悟は見せてもらった。久美子さんを信用することにしよう」

 とうさんは、久美子さんの覚悟を見て、薩摩との同盟を快諾しました。
 その後、少し九州の情勢を教えてもらって、大阪城へ帰ることになりました。

「ちょっと待ってヒマリちゃん!」

 私が薩摩藩邸を出ようとしたら、久美子さんに呼び止められました。

「はい、なんですか」

 久美子さんは、私の耳に口を近づけると誰にも聞こえないように小さな声で言いました。

「助かったわ。あなたのおかげで、豚みたいな気持ちの悪い男の相手をしなくて済みました。感謝します。あなた程の美少女が大変ですね。あんなくそ豚に嫌々こびを売らなくちゃいけないのですから。ふふふ」

 ――なー、な、な、なんですってーーーー!!!! すごく感じわるーーい!!

 この人、とうさんをくそ変態オタク豚野郎と言いました。
 ゆっ、ゆるさん!!

 あーでも、このままが良いですね。
 とうさんを好きな人は一人でも少ない方がいいのですから。

「はい。でも私は、世界で一番豚好きな女の子なので、嫌々ではありません。久美子さんは豚好きにはならないで下さいね」

「まあ! 私は世界で一番豚が嫌い。安心して……フッ」

 一瞬驚いた久美子さんは、顔に影を落とすと嫌な笑顔になりました。
 それは、悪いことを考えている魔女のような表情でした。
 私はゾクッと体が震えました。
 とうさん! この人は、信用してはいけない人のような気がします。

「でも、驚いたわ。これでも私はミス鹿児島。鹿児島一の美女なのに、ここではすでに二番目だわ。ヒマリちゃんこれからもよろしくね」

 に、二番目ですってーー!!
 あずさちゃんの次って事ですかーー!!
 どー見ても、私の目からは最下位ですけどーー!!
 いけません、こんな事を考えては!!!
 私はとうさんの横にふさわしい人間になる為、清く正しく生きると決めたのですから。

「まってくださーーい。魔王様ー! 私も魔王城へご一緒しまーす」

「お、おいおい。久美子さん、魔王様はやめてくれ」

 ――えーーっ!!

 いまさらですか。まさか! 今頃気が付いたのですか。
 やれやれです。
 久美子さんは、ずっと魔王様って呼んでいましたよ。

「しかし、凄いお城ですね。魔王様! まるでゲームの最後に出てくる暗黒の魔王城です」

 そして、久美子さんはやめる気は無いみたいです。
 腕に抱きつきました。とても良い笑顔です。確かに美人です。
 でも、恐ろしいです。
 とうさんを嫌っているはずなのに、どう見ても好きになっている美女にしか見えません。
 魔性の女です! 恐い。私は真冬のような寒さを感じました。

 魔王城の中は、外からでは想像出来ないほどに明るい。
 外からは窓があるようには見えませんが、中からだと大きな窓が沢山ついているように見えます。

「そうだ。こっちに来てくれ。見せたい物がある」

 とうさんは、うれしそうに私達を天守閣から本丸御殿へ案内します。
 本丸御殿の一階は格納庫になっていました。
 天井も高くて、機動陸鎧が立って歩けるくらいの高さがあります。

「うわあー! すごい!」

 全員から声が出ました。
 それは、部屋の大きさに驚いただけではありません。
 大勢の銀色、いいえ良く見ると角度によっては赤や青に輝く人型ゴーレムがありました。

「これは、これから始まる田植えの為に用意した。鉄とオリハルコン、ミスリルの合金製ゴーレムだ。余っている鉄を多く使用している汎用性アリス型ゴーレムだ」

「アリス?」

 あずさちゃんが、すかさず聞きました。

「ああ、鉄のアイアンのアと、オリハルコンのリ、ミスリルのスを取って名付けた。名前が女性っぽいので女性型にした。六万人いる」

 たぶん、ちがいますね。
 形状が美し過ぎます。
 最初に作って、あとから女性の名前を考えたのだと思います。

「オリハルコン、ミスリル、ゴーレム?」

 久美子さんはゲームをやる人なのでしょうか。
 聞き流しませんでした。

「あははは、言い間違えました。アンドロイドです。ロボットです。ははは……」

「で、ですよねえ」

 久美子さんは、ふに落ちないようですが返事をしました。
 オリハルコンとミスリルは聞こえなかったふりですね。
 とうさんはすごいです。いつのまにかこんな物まで作っていたのですね。

 でも、見方によっては悪の大魔王の戦闘員にも見えなくもありません。
 とうさんのさじ加減一つで世界の未来が変わってしまいそうです。

「まあ、こんな物はたいしたことはない。来てくれ」

 また、うれしそうな顔をして、案内をはじめました。
 まるで、新しいおもちゃを見せびらかす男の子のようです。

 二階には大きな食堂と会議用の事務施設、三階は宿泊施設と超大浴場がありました。
 ここまではパスがあれば誰でも入れるようです。
 四階からはVIPしか入れないようです。
 四階に大浴場と宿泊施設に食堂があります。
 五階は大広間と個人用のお風呂があります。
 六階が、木田家重臣専用の部屋になっています。

「さて、外を見てくれ」

 最上階のとうさんの部屋から外を見ると、巨大な赤い龍と青い龍がいます。
 とうさんが手を上げると龍の姿から十八メートル位のロボになりました。

「な、なんですか! あれは?」

 あずさちゃんの目がキラキラ輝いています。

「あれは、堀の工事用の重機だ」

 とうさんはロボを重機と言いました。

「名前は? 名前はなんですか?」

「ふむ、さっき久美子さんの話を聞いて作ったから、まだ考えていない」

「はーーっ!!」

 あずさちゃん以外が全員大きな口を開けて驚いています。

「じゃあ、ジグリオとバムードです。いいでしょ」

「ああ、なんか、龍戦士みたいな名前だ。それでいこう」

「うふふ」

 あずさちゃんがとてもうれしそうです。

「なぜ、いまさら堀を作るのですか?」

 古賀さんが質問しました。

「うむ、久美子さんの話を聞いて、新政府軍との決戦の地をここにしたいと考えたからだ。敵の部隊長は十二人それぞれ強い。そして桜木とサエコさんは化け物だ。決戦となればそれに加えハルラも出てくる。万全の有利な状況が必要だ。堀を完全にして、待ち受けたい」

「あの、ハルラとは?」

「久美子さんは、まだ知らないのか。桜木やサエコさんをはるかに超える恐ろしい男さ」

「まだ、そんな恐ろしい人がいるのですか」

 久美子さんは本当に恐そうに体を震わすと、とうさんにしがみつきました。
 どこまでが本気なのでしょう。
 でも、とうさんの視線はうれしそうに輝いている、あずさちゃんに釘付けです。
『ちっ、ロリコンがっ!』って、口が動きました。
 な、なんて人なのでしょうか。こ、こわい。

「うむ、この魔王を超える勇者だ。わかっている限りで最強の男だ」

 あーあもう、自分で魔王と言っています。
 しかもハルラを勇者と言っていますよ。
 負けるフラグとしか思えません。
 やれやれです。
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