上 下
263 / 428

第二百六十三話 同盟の行方

しおりを挟む
 とうさんは、久美子さんの食事の邪魔にならないようにしながら、ここにいる木田家の人達の紹介をしました。
 全員の説明が終るのと、久美子さんの食事が終るのがだいたい同じになりました。

「魔王様、とても美味しゅうございました」

 あー、久美子さん、呼び方が魔王様になっていますよ。

「それはよかった。で、御用向きは何でしょうか?」

 とうさんは、気にならなかったようです。

「は、はい」

 美味しいと言ったときの嬉しそうな顔から、急に神妙な顔付きになりました。

「実は、同盟のお願いにまいりました」

「同盟ですか。新政府軍が強かったのですね」

 とうさんは、涼しい顔で言いました。
 もう全てわかっていると言う顔です。
 木田家の古参の人は、古賀さんの顔を見ました。
 古賀忍軍からの情報がとうさんに行っていると考えたのでしょうか。
 古賀さんは、首を振っています。

「あの、もうご存じなのですか?」

「九州の情報は調査していません。ですが、九州の雄藩から同盟の話しが来たことから推測出来ます」

「新政府軍は、私達の想像をはるかに超えていました」

 久美子さんは、とうさんの顔を見ました。
 興味があるのかどうか知りたかったのでしょうか。

「ふむ、詳しく教えて下さい」

「はい、九州雄藩連合軍は、新政府軍が関門海峡大橋を渡りきった所で叩き潰そうと、門司城跡に二万五千の兵士で待ち構えていました。新政府軍は三部隊編成で一万の兵士で渡ってきました」

「ふむ、主力の一番隊と二番隊、そして三番隊か」

 久美子さんは一瞬驚いた表情をしましたが、すぐに平静を装いました。
 とうさんは、勝手に想像して、言っただけなのでしょう。でも、それが見事に当たっていたようです。

「は、はい。各部隊の隊長はまさに鬼神の如き強さでした。ですがそれ以上の化け物がいました。桜木とサエコという二人です。この二人に五千人以上の兵士が瞬殺されました」

 その人数を聞くととうさんの顔が悲しそうになりました。
 その表情を見て、久美子さんがほっとしたような顔になりました。
 違いますよ、とうさんは新政府軍が大勢死んでも同じ表情をします。

「そうですか」

 とうさんは、声を出すのに少し時間がかかりました。

「九州雄藩連合軍は、二人の化け物により士気を失い逃げ出しました。新政府軍は逃げる我軍に西洋風の鎧を装備し、立派な剣をふるい襲いかかります。装備の面でもはるかに劣る我軍は、次々撃破され一万五千人以上の兵士の命を失いました」

「ふーーむ」

 とうさんは、ここまで聞くと腕を組んでうなり目を閉じました。

「あの、よろしいですか?」

 オオエさんが声を出しました。
 久美子さんが、とうさんの顔を見ると、とうさんはゆっくりうなずきます。

「どうぞ」

「はい。実は私にはサエコという娘がいます。化け物と言われたサエコとはどの様な特徴の人なのでしょうか」

「はい。かなりかわいい女性で、サイコキネシスと言うのでしょうか、宙に浮き我軍の兵士を手で触れることも無く次々吹飛ばしていました」

「私の娘と特徴が同じです。あの、パンツは?」

「はっ?」

「ミニスカートでパンツを丸出しで戦っていませんでしたか」

「いいえ。ズボンで戦っていたと思います」

「では、ちがいますね。私の娘はパンツ丸出しがポリシーですので」

「ははは。エスパー冴子さんと、カンリ一族の紗遠子さんとはそもそも字が違いますよ」

「そうですね。サイコキネキスを使うサエコなんて、きっと大勢いるのでしょうね。久美子さん、すみませんお騒がせしました」

 なんだか、エスパー冴子さんと、カンリ一族の紗遠子さんは同一人物のような気がします。
 サイコキネシスなんて、使える人がそもそもいませんからね。

「はい。いいえ、大丈夫です。そうですかあの女はエスパー冴子と言うのですか。魔王様はサエコのことまで知っているのですね。驚きました。我々は敵にあんなに凄い者達がいることすら知りませんでした」

「九州雄藩連合軍はよほど自分たちの強さに自信があったのだなあ」

「恥ずかしい限りです。それで、私達九州雄藩連合は木田家と織田家と三国同盟を結び、新政府包囲網を結成したいと考えるに至りました」

「なるほど、良い考え方だ」

「で、では」

 久美子さんが前のめりになり、笑顔がこぼれます。

「だが、断る!」

「なっ!! 何故ですか?」

「我が木田家は、じき織田家と戦うことになる。九州勢との同盟なら考えても良いが、織田家との同盟はあり得ない」

「そこを曲げてお願いいたします」

 久美子さんは引き下がりませんでした。
 とうさんが話しのわかる人と感じたのでしょうか。

「聞いてくれ久美子さん。織田家、柴田軍は、当家の上杉の保護する越中に攻め込み、兵士を皆殺しにした。それだけじゃねえ、住民まで皆殺しにしたんだ」

「それはひどい」

 久美子さんの表情が曇りました。

「俺は柴田を許せない」

「そうですね。罪の無い住民を殺すのは許せません」

「まあ、そういうわけだ。わかってくれ」

「でしたら……でしたら」

 久美子さんの目がクルクル動いて一生懸命何かを考えているようです。

「島津家と同盟を結んで下さい」

 久美子さんが、必死に即興で考えついた答えのようです。

「なっ!!!!」

 これには、まわりの人が驚きました。
 どういうことでしょうか。

「いいですねー。ですが、島津家のことを俺は何も知らない」

「うふふ、そのために私が来ました。私は、島津家からの人質です。煮るなり焼くなり魔王様のお好きにして下さい。その上で、もし島津が木田家を裏切った時には、私を切り捨てて下さい」

 な、何と言うことでしょう。
 私と同じです。
 政略結婚です。

「駄目です。木田家ではその様な事を許していません。恋愛は自由であるべきです」

 私はつい大声を出してしまいました。
 とうさんが優しい目で私を見てくれます。
 そして、肩を抱いてくれます。
 私は嬉しくなって、とうさんに抱きつきました。

 ――なーーっ!!

 とうさんの服がヌチャっとします。
 においを嗅いだら、ステーキのにおいがします。
 これは、あずさちゃんとアドちゃんがステーキを食べてベチャベチャになった口をとうさんの服で拭いたあとです。
 このいたずら小娘どもめーー!! やれやれです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

処理中です...