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第二百五十六話 アイドルからの差し入れ

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 とうさんは食後にと言っていましたが、我慢出来ずにもう出かけてしまいました。今頃は和歌山駅でしょうか。
 あずさちゃんがすぐに後を追いましたが、私は行きませんでした。
 親子二人で水入らずにしたいと思ったからです。野暮はいけませんよね。

「アド様。アド様はどの様な仕事をしているのですか?」

 オオエさんが聞きました。

「アドは罰を与えられているニャ。自分の命を軽く扱った罰ニャ。お前達はいったいニャにをやったニャ」

「私達は清水様の兵をむごたらしく五十人ほど殺しました」

「むごたらしくは、駄目だったニャ。ご主人様は怒っているニャ。だからアドと同じ仕事をやらされるニャ。アドの仕事は最悪ニャ」

 ここでカンリ一族は全員ゴクリと唾を飲みました

「な、何でしょう?」

「アドの仕事は、ご主人様の最期を見届ける仕事ニャ」

「最期を見届けるだけ?」

「そうニャ。ご主人様は、いつもアドに監視されているニャ。それは自分より強い敵が必ずいると想定しての事ニャ。自分がその相手に殺されるところを見届けさせるつもりニャ。どんなにご主人様が危なくなっても盾として出て行くことが許されニャいニャ。気配を消してじっと見届けて、そのまま木田家に戻り報告するのが仕事ニャ」

「……」

「まだ、お前達はご主人様を理解していないから良いけど、これから先ずっと監視していると、この仕事の恐ろしさがわかるニャ」

「恐ろしさ?」

「そうニャ。ご主人様は清廉潔白ニャ。女性にみだらな事をしたことがないニャ。それだけじゃないニャ。富だってほしいままに出来るはずニャのに、一円だって自分のふところに入れたことがないニャ。大企業の社長とか政治家とはまるで違うニャ。それだけじゃないニャ、自分が苦労して手に入れた物をどんどん分け与えるニャ。子供が困っていればいつも手を差し出すニャ」

「あの、それのどこが恐いのですか?」

「ご主人様を見ていると、この人を失ってしまったらこの後の日本がどうなるのか、その損失の大きさに恐怖するようになるはずニャ」

「アド様は、それほどのお方と考えているのですね」

「ふん、お前達もすぐに同じになるニャ。ならずにはいられないお方なのニャ」

「そうですか」

 オオエさんは言いましたが、アドちゃんほどの熱量は感じません。
 まあ、今の段階ではしょうが無いですね。
 見た目が凄くないですから。

「カンリの精鋭は何人いるニャ?」

「四十二人です」

「しにんとは、不吉な人数ニャ」

「失礼しました。私と左近を入れていませんでした。入れれば四十四人です」

「しじゅうしんでいるとは、よけいに不吉ニャ」

「は、はあ」

「もういいニャ。お前達はアドのしにん部隊ニャ。忍者装備をもらってやるから、それを装備して一人ずつ交替で見失わないように、二十四時間体制でご主人様の監視をするニャ」

「はい」

「ただし、あずさ様が一緒の時にはその限りではないニャ。あずさ様はあれでアドよりはるかに強いニャ」

 アドちゃんは、親子水入らずを邪魔しないように釘をさしました。
 でも、まさかアドちゃんより強いなんて事は、本当では無いですよね。

「わかりました」

 オオエさんが答えました。





「ふーー、ついでに紀勢線までのばしたから疲れた」

 翌朝、全く疲れていなさそうに、とうさんが美術館に帰って来ました。
 とうさんが帰る少し前に、ミサさん達三人と、カンリの方が朝食を済まし禁足地へ向いました。

「とうさんは何を考えているのでしょうか。紀勢線は余計です」

「何を言っている。海があって山もあって楽しいと言っていたのはどこの誰だ」

 何と言うことでしょう。
 列車の旅が楽しかったようです。
 私も行けば良かった。ガッカリです

「じゃあ、ウォーターサーバーを出さないといけないな」

 とうさんは、水色のウォーターサーバーを出してくれました。
 温水と冷水の出る自走式ゴーレムウォーターサーバーです。もちろん出てくる水は富士の湧水です。
 これは、あずさちゃんと私で持って行くことになりました。
 とうさんは、アドちゃんからの依頼の忍者装備の用意を始めました。
 その後は、祭りの準備に入るようです。

 城の結界を通路の分だけ解除して、私とあずさちゃんがその中を歩きます。
 何故か、ピーツインの格好をさせられています。

「とまれーー!! 何者だー?」

 城の守備隊の衛兵に止められました。

「はい、私達は駿河公認アイドルピーツインです。差し入れに来ました」

 あずさちゃんが落ち着いて答えました。

「アイドルだと、聞いていないぞ」

「はい、思いつきで来ましたから」

「な、なにーー! アイドルが思いつきで来ただとー!! なめているのかー!!!!」

 いきなり、怒らせてしまいました。

「ぷゅっひゅひひ」

 あずさちゃんが吹き出しました。
 な、何を考えているのでしょうか。
 絶対笑ってはいけないタイミングです。

「てめーー!!」

 衛兵が怒りにまかせて、あずさちゃんの胸ぐらをつかみました。
 いけません。そ、そんなことをしたら、スカートまで持ち上がって、パンツが丸見えです。
 でも、大丈夫です。安心して下さい。
 私達は、今日新しい装いをしています。
 いつもならスライムの白い水着ですが、今日はその水着の上にフリフリのかわいいパンツをはいています。
 あずさちゃんは、薄い青色です。私は、薄い黄色です。
 水着を着ているとは思えないようにしています。

「うおおおおー!」

 他の衛兵さんが、声と共に顔を横にしました。
 ちょっと、横にしなくても丸見えですよ。
 胸ぐらをつかんでいる衛兵さんだけは見えない様です。ざまあです。

「あ、あのう。恥ずかしいです」

 あずさちゃんが、顔を赤くして言いました。
 だめだーーこの子、かわいすぎるー。

「おっ、おおう」

 衛兵さんが、手を離しました。

「私達、お城に差し入れを持って来ました」

「差し入れですか?」

 別の男前の衛兵さんが、優しく聞いてくれました。
 隊長さんでしょうか。

「はい。ウォーターサーバー!」

 うん、ウォーターサーバーの所はダミ声にしました。
 あずさちゃんは、青い服を着ています。パンツは薄い青です。
 だから、未来から来たあの猫と同じような色合いです。

「くっ、くくくく」

 隊長さんのつぼに入ったみたいです。

「これは、お水が自由に飲みたいだけ飲める機械です」

 あずさちゃんが、カップを出して自分でついで飲みました。
 そして、そのカップを隊長さんに渡しました。
 隊長さんはカップを受け取ると、同じように飲みました。

「う、うまい」

「反対からはお湯も出ます」

「こ、これを、我々に……。も、貰ってもいいのか」

「はい。私達駿河公認アイドルピーツインからのー、差し入れです。三日、いいえこの調子なら前夜祭から始められそうですので、二日後にコンサートをします。お城からでも見えますので必ず見てくださいね」

「わ、わかった。伝えておく」

「では、失礼します」

「うおおおーー、うめーー!! なんて清んだ味だー。泥の味がしねーー!!」

 私達が角を曲がると、衛兵達の声が聞こえてきました。
 水の差し入れとか言いながら、ピーツインの宣伝をしただけでした。
 大丈夫でしょうか。
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