上 下
251 / 428

第二百五十一話 悪い子

しおりを挟む
「あの、廣瀬さん」

「はい、何ですかヒマリ様」

「お城に忍び込みたいのですけど、案内お願い出来ますか」

「今日一日働き通しです。お疲れではありませんか」

「大丈夫です。子供ですから」

 大人と違って、子供は元気の固まりです。
 夕食が終わり、お風呂を済ますと、ミサさんと古賀さんと坂本さんは、それぞれの機動陸鎧を取りに戻りました。
 あずさちゃんは、大阪城の守備に残したクザンとシュラちゃんと、ここのクザクとシュザク十人を入れ替えるため、大阪城に戻りました。
 そのため私は自由になりました。

 古賀さんからは、「大人しく眠ること」と言われましたが、よい子は働き者です。
 私は眠る前に、お城の様子を見ておきたいと思ったのです。
 そう、彼を知り己を知れば百戦あやうからずです。言ったのは孔明でしたでしょうか。

「オイサスト! シュヴァイン!」

 私は黄色い模様の忍者装備になりました。
 古賀忍軍とデザインは同じですが模様の色が違います。
 古賀忍軍の模様は紫色です。
 忍者装備になって、透明化します。
 廣瀬さんも透明になりましたが、忍者装備になればちゃんと姿を視認できます。

「ヒマリ様も変身出来るのですね」

「うふふ、私の方が先輩ですよ」

「じゃあ、見つからないように気配を消して行きましょう。ついて来て下さい」

「はい、お願いします」



「おい、カンリ一族は何をしているのだ。警備の数がいっこうに減らないでは無いか。連絡はないのか」

「はっ、御頭。連絡は途絶えたままです」

 和歌山城天守閣で御頭と呼ばれた人は、髭面のおじさんです。
 がっしりとした体で、とても強そうです。

「では、まだ時間がかかると言う事か。食糧はどうなっている」

「はっ。食糧は、このままではあと五日ほどで底をつきます」

「ふむ。このまま動きが無ければ最終日には打って出るしかないか。それとも……。ちっ、明日からは食事は夜だけだ! これで十日はもつだろう」

「お、おかしら……」

 天守にいる熊野衆の重臣達がガックリと肩を落としました。

「その十日でカンリ一族が清水を撃退すればヨシ。出来なければ、全軍で城を出て戦う」

「……」

 重臣達は暗い表情で黙ったままでした。

「お前達は勝てないと思うのか?」

「お、恐れながら。カンリ一族でも歯が立たないと言うことであれば、我らでは太刀打ち出来るとは思えません」

「ふふふ、ならば降伏か。俺の切腹で事が済めば良いのだが」

 せ、切腹!?
 時代劇じゃあるまいし。

「我らもお供いたします」

「ふむ、切腹の作法がわかる者はいるか?」

「時代劇でしか見た事はありませんが、白装束を着て短刀で腹を横に切り裂くだけでした」

「そうそう、それで介錯する者を用意して首を切り落とす」

「ふむ」

 御頭は想像したのでしょうか、顔色がみるみる悪くなります。

「十文字切腹、三文字切腹と言うのがあります。十文字は右から左に切った後一度引き抜き、ヘソの下から上に切り上げ最後は心臓を切ります。三文字はその字のごとく、三回横に切ります」

「そ、壮絶だなあ」

「はっ、十文字切腹で有名なのは、柴田勝家でしょうか。三文字は武市半平太が有名ですね」

「お、おめえ。詳しいな」

 本当に。
 私まで憶えてしまいました。

「うーーむ」

 全員がうなり出しました。

「お、おかしらーー!!!」

「どうした。騒々しい」

「はっ、町を見てきたものから報告がありました」

 へー、ちゃんと町に間者を出していたんだ。
 ちゃんと関心を持っていてくれたのですね。

「で、あれは何の悪だくみだ」

 悪だくみではありませんよ。

「はっ、それが……」

「な、なんだ」

「祭りの準備です」

「はぁーーっ、祭りだとー! 何を言っている」

「いえ、間違いありません。祭りのはっぴを着ている者がいたと報告がありました」

「バカヤロー! 見間違いだろう」

「いいえ、報告では、ちちのでかいエロい女と、優しそうで美しい女と、出来る秘書みたいな女と、恐ろしく完成された美少女と、ちんちくりんがいたと言っていました。作り話にしては具体的すぎます」

 ちんちくりん、ちんちくりんが私ですかー。おのれーー!!
 これでも駿河一の美少女と言われていたのですよ。
 あれですかー、あずさちゃんの横にいたから、ちんちくりんにしか見えなかったと。
 私ごときではあずさちゃんの引き立て役ですか。
 まあ、そうでしょうね。そうでしょうとも、あずさちゃんはその位の美少女ですよ。
 がっかりだぜです。

「ぐぬぬ、なめやあがって、敵の籠城する城下で祭りだとーー!!」

 ぎゃーー!!
 ひげもじゃの御頭の顔が茹でだこのように真っ赤になります。
 怒っています。
 さっきまでは、この世の終わりのような顔をしていたのに、元気が戻ってしまいました。
 あずさちゃん、作戦失敗ですよ。作戦失敗!

 私は、廣瀬さんに合図して、帰ることにしました。
 お城を出た瞬間、お城を包むように結界が出来ました。
 ミサさんの青い機動陸鎧が結界を張ったようです。

「危なかった。あと少し遅かったら閉じ込められる所です」

「よかったですね」

「はい。素早く美術館に戻りましょう。寝たふりをしないと怒られてしまいます。古賀さんは普段、優しい顔をしていますが怒ると悪魔の様に恐ろしいのです」

「うふふ、急ぎましょう」



「ひまりちゃーーん」

 私が美術館に着いた瞬間にあずさちゃんから呼ばれました。
 やばーーい。
 宿直室を寝室にしていますので、素早くもどります。

「なーに」

 私は目をこすりながら、眠そうに出て行きます。

「ヒマリ様」

「シュラちゃん」

「すごい!! ヒマリちゃんが言いつけを守って、大人しく眠っていました」

「まったく!! あずさちゃんは私を何だと思っているのですか」

「うふふ、私なら、お城に忍び込んで来て、バレたら『フリかと思いました』と言いますけどね」

 ば、ばれていないですよね。
 おそるべし、あずさちゃん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...