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第二百五十一話 悪い子

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「あの、廣瀬さん」

「はい、何ですかヒマリ様」

「お城に忍び込みたいのですけど、案内お願い出来ますか」

「今日一日働き通しです。お疲れではありませんか」

「大丈夫です。子供ですから」

 大人と違って、子供は元気の固まりです。
 夕食が終わり、お風呂を済ますと、ミサさんと古賀さんと坂本さんは、それぞれの機動陸鎧を取りに戻りました。
 あずさちゃんは、大阪城の守備に残したクザンとシュラちゃんと、ここのクザクとシュザク十人を入れ替えるため、大阪城に戻りました。
 そのため私は自由になりました。

 古賀さんからは、「大人しく眠ること」と言われましたが、よい子は働き者です。
 私は眠る前に、お城の様子を見ておきたいと思ったのです。
 そう、彼を知り己を知れば百戦あやうからずです。言ったのは孔明でしたでしょうか。

「オイサスト! シュヴァイン!」

 私は黄色い模様の忍者装備になりました。
 古賀忍軍とデザインは同じですが模様の色が違います。
 古賀忍軍の模様は紫色です。
 忍者装備になって、透明化します。
 廣瀬さんも透明になりましたが、忍者装備になればちゃんと姿を視認できます。

「ヒマリ様も変身出来るのですね」

「うふふ、私の方が先輩ですよ」

「じゃあ、見つからないように気配を消して行きましょう。ついて来て下さい」

「はい、お願いします」



「おい、カンリ一族は何をしているのだ。警備の数がいっこうに減らないでは無いか。連絡はないのか」

「はっ、御頭。連絡は途絶えたままです」

 和歌山城天守閣で御頭と呼ばれた人は、髭面のおじさんです。
 がっしりとした体で、とても強そうです。

「では、まだ時間がかかると言う事か。食糧はどうなっている」

「はっ。食糧は、このままではあと五日ほどで底をつきます」

「ふむ。このまま動きが無ければ最終日には打って出るしかないか。それとも……。ちっ、明日からは食事は夜だけだ! これで十日はもつだろう」

「お、おかしら……」

 天守にいる熊野衆の重臣達がガックリと肩を落としました。

「その十日でカンリ一族が清水を撃退すればヨシ。出来なければ、全軍で城を出て戦う」

「……」

 重臣達は暗い表情で黙ったままでした。

「お前達は勝てないと思うのか?」

「お、恐れながら。カンリ一族でも歯が立たないと言うことであれば、我らでは太刀打ち出来るとは思えません」

「ふふふ、ならば降伏か。俺の切腹で事が済めば良いのだが」

 せ、切腹!?
 時代劇じゃあるまいし。

「我らもお供いたします」

「ふむ、切腹の作法がわかる者はいるか?」

「時代劇でしか見た事はありませんが、白装束を着て短刀で腹を横に切り裂くだけでした」

「そうそう、それで介錯する者を用意して首を切り落とす」

「ふむ」

 御頭は想像したのでしょうか、顔色がみるみる悪くなります。

「十文字切腹、三文字切腹と言うのがあります。十文字は右から左に切った後一度引き抜き、ヘソの下から上に切り上げ最後は心臓を切ります。三文字はその字のごとく、三回横に切ります」

「そ、壮絶だなあ」

「はっ、十文字切腹で有名なのは、柴田勝家でしょうか。三文字は武市半平太が有名ですね」

「お、おめえ。詳しいな」

 本当に。
 私まで憶えてしまいました。

「うーーむ」

 全員がうなり出しました。

「お、おかしらーー!!!」

「どうした。騒々しい」

「はっ、町を見てきたものから報告がありました」

 へー、ちゃんと町に間者を出していたんだ。
 ちゃんと関心を持っていてくれたのですね。

「で、あれは何の悪だくみだ」

 悪だくみではありませんよ。

「はっ、それが……」

「な、なんだ」

「祭りの準備です」

「はぁーーっ、祭りだとー! 何を言っている」

「いえ、間違いありません。祭りのはっぴを着ている者がいたと報告がありました」

「バカヤロー! 見間違いだろう」

「いいえ、報告では、ちちのでかいエロい女と、優しそうで美しい女と、出来る秘書みたいな女と、恐ろしく完成された美少女と、ちんちくりんがいたと言っていました。作り話にしては具体的すぎます」

 ちんちくりん、ちんちくりんが私ですかー。おのれーー!!
 これでも駿河一の美少女と言われていたのですよ。
 あれですかー、あずさちゃんの横にいたから、ちんちくりんにしか見えなかったと。
 私ごときではあずさちゃんの引き立て役ですか。
 まあ、そうでしょうね。そうでしょうとも、あずさちゃんはその位の美少女ですよ。
 がっかりだぜです。

「ぐぬぬ、なめやあがって、敵の籠城する城下で祭りだとーー!!」

 ぎゃーー!!
 ひげもじゃの御頭の顔が茹でだこのように真っ赤になります。
 怒っています。
 さっきまでは、この世の終わりのような顔をしていたのに、元気が戻ってしまいました。
 あずさちゃん、作戦失敗ですよ。作戦失敗!

 私は、廣瀬さんに合図して、帰ることにしました。
 お城を出た瞬間、お城を包むように結界が出来ました。
 ミサさんの青い機動陸鎧が結界を張ったようです。

「危なかった。あと少し遅かったら閉じ込められる所です」

「よかったですね」

「はい。素早く美術館に戻りましょう。寝たふりをしないと怒られてしまいます。古賀さんは普段、優しい顔をしていますが怒ると悪魔の様に恐ろしいのです」

「うふふ、急ぎましょう」



「ひまりちゃーーん」

 私が美術館に着いた瞬間にあずさちゃんから呼ばれました。
 やばーーい。
 宿直室を寝室にしていますので、素早くもどります。

「なーに」

 私は目をこすりながら、眠そうに出て行きます。

「ヒマリ様」

「シュラちゃん」

「すごい!! ヒマリちゃんが言いつけを守って、大人しく眠っていました」

「まったく!! あずさちゃんは私を何だと思っているのですか」

「うふふ、私なら、お城に忍び込んで来て、バレたら『フリかと思いました』と言いますけどね」

 ば、ばれていないですよね。
 おそるべし、あずさちゃん。
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