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第二百四十九話 前世の思い出

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 山に挟まれた川の横を走る国道を進むと、所々に関所がありました。
 何を言っても通して貰えませんので、全員たたきのめして無理矢理通りました。
 もちろん私は、後ろでおしとやかにしています。
 淑女ですから滅多な事では暴れません。

「ここは、清水様の関所だ。あやしい奴は通さねえ、回れ左して帰えんな!」

 そ、そこは回れ右でしょ。

「私達は、その清水様に呼ばれて和歌山にむかっています」

「うるせーって言っているんだよ。通りたければ実力を示しな!」

 どうやら、この人達を倒せるだけの実力が無ければ、危険だから帰れと言う事のようです。
 ここまで来てようやく、この関所の意味がわかりました。
 こころなしか、ここの守りの番士が今までの関所の中で一番強そうです。

「よっし、俺達はこのおっぱいねーちゃんとやる。ぐへへへ」
「俺達はこの菩薩様のような優しそうなねーちゃんだ。へへへ」
「じゃあ、俺達はこの秘書ねーちゃんだ。ひゃーはっはっはー」
「俺達はこの完璧な美少女かー。ひひひ」
「ちょっと待て、じゃあ俺達がこの一番外れのちびかよー。やれやれだぜ」

「何ですってー、何が一番外れのちびですかーーー!! やれやれはこっちのセリフです。やあーーーーー!!!」

 私は、番士を優しく吹飛ばしました。
 怒っているわけではありません。実力を示しただけです。
 私も一応、忍者装備を透明にして着込んでいますので、この位は朝飯前です。

 気が付いたら全員を吹飛ばしていました。

 ――しまったーー!!

 四人が驚いた顔をしています。
 折角ここまでおしとやかにしてきたのにー。

「ひでーー。ここまでしなくても、あなた達ほどの美女なら最初から木田様の奥方衆とわかっていましたのに」

 そう言い残して、一番恐そうな髭面の男がガックリ気絶しました。
 奥方衆と言われて、四人が顔を赤くしてくねくねしています。

 ――えーーーっ

 わかりやす過ぎます。

「ヒマリ様、やり過ぎです」

 古賀さんが、冷ややかに言いました。
 あずさちゃんがニヤリと悪い笑顔をします。

「ごめんなさーい!!」

 私は慌てて倒れている人を介抱しました。

「いやーー、しかし、木田家の人は凄いですなー。こんなおちびちゃんまで、滅茶苦茶お強い。ここが最後の関所です。清水様のところへは、俺が案内しましょう」

 さっきの髭面の人が清水さんのいる陣まで案内してくれました。



「ようこそ。あずさ様」

 清水さんがあずさちゃんにひざまずきました。
 ここは、学校の体育館のようです。
 厳重に黒い具足の人が警戒しています。

「とうさんは?」

「はっ! お止めしたのですが城の前の美術館へ行かれました」

「なるほど、とうさんらしいわ。場所を教えて下さい」

「お、お待ち下さい。危険すぎます。敵の真ん前ですよ。しかも城下には、得体の知れない化け物のように強い賊が入り込んでいます。もし捕まればどんな目にあわされるか」

「酷い目にあわされたのですか?」

「はっ、口に出来ないほどのむごたらしさです」

「強いのですか」

「はっ、我らでは手も足も出ません」

 そう言うと、清水さんは胸を見せてくれました。
 凄い傷痕があります。

「凄い傷痕」

 あずさちゃんが、顔を曇らせました。

「奴らはとにかく速い。目で追うことも出来ません。具足隊は防御力が高いので、攻撃を受けてもなんともありませんが、いまだ捕らえることすら出来ません」

「うふふ、そうですか。その賊ならもう大丈夫です。安心して美術館の場所を教えて下さい」

「はっ?」

 清水さんの表情が「どういうこと」ってなっています。

「とうさんが数日で何とかすると言っていました。とうさんがそう言うのなら、もう安心です。むしろ美術館こそ、この世界で一番安全な場所になっているはずです」

 あずさちゃんは、とうさんに絶対の信頼を寄せているようです。
 私ではとてもここまで言い切れません。
 とうさんとあずさちゃんの信頼関係には入り込む余地が無いようです。
 妬けてしまいます。

「し、しかし……」

 清水さんはそう言いながらも地図を開いて見せてくれました。

「大丈夫です。万事、私と木田とうにお任せ下さい」

「ははーーっ」

 あずさちゃんから強い威厳を感じます。
 とても、立派に見えます。
 清水さんも私と同じものを感じたのか、思わず平伏しています。

「行きましょう」

 あずさちゃんは、回れ右して体育館を後にしました。
 美術館に向う道中は、具足を付けた人しかいません。
 賊を清水さんがどれだけ警戒しているのかがわかります。
 私達は一見すれば何の装備もしていないように見えます。
 襲われないのでしょうか。
 襲われたら殺される事は無いのでしょうが、勝てる見込みはありません。

 静まり返った街ですが、恐ろしい賊が隠れていると思うと、不安と恐さが入り交じって、背筋が寒くなります。
 それは、ミサさんも古賀さんも坂本さんも同じみたいで、三人とも寒そうにしています。
 あずさちゃんだけは、不安はまるで無いようです。普通のお散歩のように軽やかな足取りで歩いています。鼻歌まで聞こえてきます。

 美術館は、屋根か張り出した角張ったデザインの建物になっています。
 玄関を入ると、一人のメイドさんが立っています。
 とても美しい女神の様なシルエットです。
 美術館にふさわしい美しさです。

「フォ……」

 ふぉ?
 あずさちゃんは続く言葉を言えないでいます。
 目からポロポロ涙があふれて唇が震えています。

「フォリスさーーーん!!!」

 あずさちゃんは走り出すと、女神の様なメイドさんに抱きつきました。

「あの、私は、ホリスです」

「じゃあ、今からフォリスです」

 あずさちゃんは、フォリスさんを満面の笑顔で下から見上げます。
 そしてギュッと抱きつきしばらく動けずにいました。
 長い時間に感じました。
 あずさちゃんが、ゆっくりフォリスさんから離れると、フォリスさんのメイド服とあずさちゃんの顔の間にキラキラ光る美しい橋が出来ています。
 とても感動的です。フォリスさんが誰なのかはわかりませんが、この再会に私まで感動して涙が浮かんでいます。

 でも、その橋はあずさちゃんの鼻水でした。
 私の感動を返して下さい。

「ころ人は、わたしの前世でとても、いいえ一番お世話になった人です。大好きだった人です。フォリスさん」

 そう言うともう一度抱きつきました。
 次に顔を離したら、鼻水は綺麗に無くなっていました。

「えーーーっ!!!」

 ミサさんと古賀さんと坂本さんが声を上げました。
 口が大きく開いて驚きの表情です。
 三人とも目の下に涙の後があります。
 ですよね。私も同じ気持ちです。

「フォリスさん、ここにはあなただけですか?」

「いいえ」

 フォリスさんが手を上げると、赤いアンドロイドが大勢現れました。

「シュザク、ですね。五百九十九人ですか?」

「いいえ、六百です」

「この黒いのは?」

「はい、クザク。六十います」

「そうですか。クザクは私の記憶の中にはありませんね」

「あの、あずさちゃん、記憶が全部戻ったのですか」

 坂本さんが聞きました。

「いいえ、ほとんど戻っていません。でも強く思い出のある物を見ると、思い出す事があります」

「そうですか」

「ここなら、やっぱり安全です」

 そう言って、あずさちゃんはもう一度フォリスさんに抱きつきました。
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