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第二百四十二話 木が多い

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俺は清水から地図を借りると美術館を探した。
何と! 美術館は、一本道を挟んだ城のすぐ南隣に有る。

「清水、美術館は今どうなっている」

「はい、放置されています。が、城から近すぎます」

「いや、かまわん、俺はそこを拠点とする」

「ほ、本気ですか」

「ああ、数日の内には奴らを追い込んで見せる。熊野衆は任せたぞ」

「はっ」

「行くぞ! 上杉」

「はい」

建物を出ると、四人と合流し美術館へ移動した。
美術館につくと、俺は扉を開け中に入り、明かりをつけた。
これで、目立つだろう。

美術館の中で、俺は新たなゴーレムを作る事にした。
敵は、人の目では追えないほどの俊敏性を持っているようなので、ゴーレムの力を借りようと考えたのだ。
しかも、人の命をなんとも思わない連中だから、ゴーレムのほうが安心出来る。

スザクとシュラの中間のような赤いゴーレムを作った。
見た目は、スリムな女性の様なアンドロイドタイプだ。
これには、シュラとスザクの中間の名前シュザクと名付けた。
俊敏性重視のゴーレムだ。
そして、シュザクとクザンの間の様なゴーレムを作りクザクと名付けた。
クザクは黒いマッチョな男の姿にした。

シュザクは六百人、クザクは六十人作った。
これらをまとめる指揮官用の赤いゴーレムを一人作り、名前を俺の本名をもじって、ホリスと名付けた。

「す、すごい」

上杉とスケさん、カクさん、響子さんとカノンちゃんが驚いている。

「最後の仕上げは、ホリスにメイド服を着せれば出来上がり……」

しまったー。俺が一人ならパンツは俺がはかせるのに、人に見られていては無理だ。

「ホリス」

「はい」

「これを、その奥で着てきなさい」

仕方が無いので、服と下着を渡して自分で着てくるように指示した。
くーーっ、がっかりだー!!

「はい、ご主人様」

ホリスは、奥へ消えた。

「シュザク、クザク。お前達は姿を消して待機しろ」

六百六十人のゴーレムは姿を消した。
姿を消すと、気配は何も無くなった。

「ご主人様、終りました」

ホリスがメイド姿で帰って来て、俺の前でくるりと回った。
うん、良い。

「ホリス、お客様が来たらシュザクに後をつけさせてくれ」

「はい、ご主人様」

「あの、おおと……」

上杉が大殿と言おうとした。
あれだけ、清水には言うなと良いながら、自分が間違えている。

「おっと、俺は八兵衛ですよ。なんですか」

俺は上杉の言葉をさえぎって言った。

「え、あ、八兵衛さん。ここに、カンリ一族が来るのですか?」

「ふふふ、ええ」

俺が言い終わると、美術館のドアが開いた。
窓を割って飛び込んで来るのかと思ったが、ご丁寧に扉を開けてお客様が入って来た。

「こんばんはー!」

「上杉様、来ましたよ。まさか今日来るとは思いませんでしたが」

「八兵衛さん、凄すぎます!」

うむ、上杉が全く恐く感じねえ。
人の印象は見方によって色々変わるものだなあ。

「いらっしゃいませ。私はここの使用人の八兵衛です。こっちはメイドのホリスです」

「そ、そうか。お前達は清水家の者ではないのか」

ホリスを見て、少し驚いたようだ。

「はい、違います。上杉家のものです」

「ならば、俺達の事は知らないのか?」

「いいえ、知っていますよ」

俺がそう言うと、上杉の顔が急に恐くなった。

「なにーーっ!!」

入って来たお客様もまた、恐ろしい表情に変わった。
隊長だろうか? 最初に入って来た男が手招きをすると、開け放った扉からゾロゾロお客様が入って来た。およそ二十人はいる。
どいつもこいつも、昔のまたぎ……山の猟師のような服装をしている。
痩せていて、俺のようなデブはいない。だが、筋肉はしっかりついていて素早く動く事が出来そうだ。いったい、カンリとは何者なんだろう。

「外にも倍ぐらいの人が隠れています」

ホリスが耳打ちをしてくれた。
なるほど、かなり強いはずだが、七人を捕まえるのに万全の人数を用意している。すこしも油断をしていない。
恐ろしい奴らだ。

「ふふふ、飛んで火に入る夏の虫と言う言葉は知っているか?」
「ひひひ」
「ひゃあぁーはっはっはー」

お客様は笑い出した。
人を見下し、勝ち誇った嫌な笑いだ。

「ホリス、半分のシュザクとクザクを外に出し、後を追えるように待機させてくれ」

俺は笑い声にかき消されるほどの小声でホリスに指示をした。
ホリスは微かにうなずいた。
扉は大きく開いたままなので、気付かれずに出て行けるだろう。

「どっちが、夏の虫だかな」

スケさんが、前に出て言った。

「なるほど、少しはやると言う訳か。おい!」

お客さんの中から一人が前に出て来た。
一際痩せていて、貧相に見える奴だが素早そうだ。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

スケさんが先に動く。
清水の兵の恨みを晴らすように襲いかかった。
ゴーレムを作っている時に、スケさん達にもカンリの一族のことは話してある。
残忍に、清水の兵を殺した事も伝えた。

「ひゃあ、ははは! それが、本気の攻撃かー!」

貧相なお客様が、スケさんの渾身の一撃をかわす。

「!?」

スケさんは避けられるとは思わなかったのか。
驚いて動きが止まった。
その隙を逃さず敵がカウンターで一撃入れた。

「ぎゃあああああーーーー!!!!」

恐ろしい音がして悲鳴を上げた。
悲鳴を上げたのはお客様の方だ。
殴った手の指が砕けて骨が飛び出している。
手から出た血が糸のように流れだし、美術館の綺麗な床を赤く汚した。

「おいおい、自分の手の骨が砕けるほどの力で人を殴るもんじゃねえぜ」

俺は手を押さえている、お客様に言った。
スケさんは、アンナメーダーマン、アクアコスチュームを透明にして着けている。
素手で殴れば、こうなるだろう。
だが、侮ってはいけない。
コスチュームを着けていなければ、負けていたのはスケさんの方だ。

「くそーっ、この賊共めーー、卑怯な手を使いやあがってー、何をしたーー」

お客様の隊長が叫んだ。

「まてー! 賊はお前達の方だろうがーー!!!」

スケさんが怒っている。
!?

――そうか!!

上杉が、恐くなったり、恐くなくなったりする。
見方が変われば違って見える。
奴らにとっては、紀伊を荒らす賊は俺達の方なんだ。

「す、済まなかった」

俺は、とっさにひざまずき、頭を下げていた。

「なっ!!」

上杉達六人は驚いている。

「なんだてめー、豚め。いまさら謝っても許す気はねえぞ! ばかが」

お客様の隊長が俺の頭を踏みつけた。

「き、き、きさまーー!!!!!」

上杉が怒っている。

「うおっ!!」

その怒りでお客様全員が声を出した。
俺は床を見ているので上杉の顔は見えないが、どんな恐ろしい顔をしているのか。見なくても伝わって来る。

「上杉、やめろ!!」

俺は頭を踏まれたまま上杉を止めた。
顔を見ていたら恐くて言えなかったかも。

「!? 上杉家、上杉……」

お客様の隊長の足が浮いた。

「まさか、あんたは……上杉謙信様ですか?」

「そうだ。そして、お前の足の下におわす方こそ、この上杉が敬愛して止まぬお方、至高のお方だ」

「し、至高のお方……ま、まさか、きききききききき」

おーい、き、多いなあ。
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