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第百九十九話 お別れ

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 浅野隊は道路に展開し落ち武者狩りをしている。
 山の中までは、まだ手が回らないようだ。
 いや、やる必要が無いと考えているのかもしれない。

「爺さん、そろそろ移動しよう。なるべく静かにな」

 山の中は、木の量が多すぎて、歩行が困難なほどだ。
 夏ならマダニやヤマビル、そして蚊などに襲われて苦労したのだろう。幸いにも寒くなりその被害がないのに助けられている。
 南に向かって歩いているのだが、京滋バイパスも南下しているので、なかなか西に向かえない。

 もともとやる気のない、金城班の兵士は体力がない。
 全員の足取りが重くなってきた。
 まだ、数キロ移動した程度だが、時間だけは過ぎていく。
 浅野隊が、山を捜索しないはずである。
 こんなところを、移動する馬鹿はいない。
 人間の作った道路の偉大さを痛感している。

「あんちゃん、そろそろ休まんと皆が持たないじゃろう」

 俺の背中で、爺さんが兵士の弱り具合を見て言った。

「そうだな、ここで休憩しよう」

 周りの雑木を刈り取り、スペースを作り、全員が座り込んだ。
 その顔には、濃い疲労の色が浮かび上がり顔色まで悪くなっている。

「火は使えないが、何か食べるものは持ってきているのか」

 俺は背中から爺さんをおろし、全員に尋ねた。
 やる気のない兵士は、こういうことには抜け目がないようで、全員ふところから握り飯をだして、上にかざした。

「ふふふ、全員、それでも食って、少し眠ってくれ。移動は夜にしよう。その方が見つかりにくいはずだ。俺は少しあたりの様子を見てくる。スケさん、カクさん、皆をお願いします」

「わかりました。お任せください」

「お願いします」

 俺は、まずは西に移動した。
 西には直ぐにバイパスがあり、警備は厳重だった。
 西をあきらめ南下すると少し大きめの川があり、行く手を遮っている。
 泳いで渡ることはできないだろう。すでに寒くなっているので、無理して泳げば凍死してしまう。
 川沿いに道路があり、一か所橋がある。
 バイパスとは違い、道路の警戒まではしていないが、橋にはすでに警備隊が配置されている。

 俺は自分の収納魔法で収納している中から本を探し、地図を探しだそうとした。
 だが、本屋で適当に全部収納しているので、探しきれない。
 いつもは、どっさり出して、ミサ任せにしている。ミサはそこから必要なものを探し出し、胸にしまってくれている。こんなところで、ミサのありがたさを思い出した。ついでにでかい胸も思い出した。

「アドいるのだろう」

 姿も見えない、気配もないアドを、いるものとして声をかけた。
 これでいなければ、馬鹿丸出しである。
 まあでも、一人だけだから大丈夫か。

「なんニャ?」

 よかった、いてくれた。

「お前なら、どうする」

「放っておいて、2人で尾張に帰るニャ」

「ふふふ、そうか、その手があったか……って、駄目に決まっているだろう」

 聞いた俺が馬鹿だったのか。
 地形がわからんことには、どう行けば良いのか進む道も考えられない。

「ニャハッ、この先でバイパスはトンネルになるニャ。トンネルの上なら見張りも無く、バイパスを乗り越えられるニャ」

「アド。お、おまえ、地図がわかるのか」

「来た道ニャ。憶えているニャ」

「案内してくれ」

「ニャ!」

 アドの案内で、おおよそのルートが決まった。
 ところどころ発見されそうな危ない場所があるが、夜なら何とかなるだろう。

「アド、ありがとう。助かった」

 アドがすりすりして来た。
 だが、俺はなでなでをしないぞー。
 見えないから、どこをなでるか分からないからな。
 しかも、残っているところは、あそこしかないからな。



 俺がみんなのところに帰ると、数人が一塊になり暖を取り眠っている。
 爺さんは響子さんとカノンちゃんの間で眠っている。このエロ爺は、ある意味すげー。

「スケさん、カクさん。起きていますか?」

「はい」

「お待たせしました。ルートは決まりました。行きましょう」

「では、全員を起こします」

「お願いします」

 スケさんと、カクさんは全員の体を揺らし起こしてくれた。
 爺さんも、幸せの眠りから起こされ少し不機嫌だ。

「これより、移動を開始します」

「な、なんだってー! もう夜じゃねえか。大体なんでお前が、仕切っているんだよ!!」

 伍長のブルが言った

「そうだ、そうだ!」

 同じく伍長のチンが同意した。
 ブルとチンが、怒っている。
 眠りを妨げられたのが、カンに触ったのだろうか。
 まあ、俺は平の足軽だから、伍長のあんたらに指示できる立場ではないけどねー。

「ふむ、困りましたねー、暗いうちに通り抜けたいところがあるのですが、昼間では見つかってしまいます」

「俺たちは、疲れている。行くならおまえだけが行け!!」

 ブルが偉そうに言う。

「みんな、本当にそれでいいのですか?」

「当たり前だ!」

 今度はチンが言った。結局俺は、ブルとチンに嫌われているのだろう。
 他の兵士も、疲れているのか動きたくないようだ。
 困ったもんだ。
 おそらく、敵が来なくて落ちついてしまって、自分たちの置かれている状況が分からなくなったようだ。
 そして、たかが足軽が何を偉そうにしているとでも思ったのだろうか。

「じゃあ、一人で行かせてもらいます。皆さんお元気で」

「ま、待ってくれ! あんちゃん、わしは一緒に行くと言っている」

「そうですか。じゃあ、一緒に行きましょう」

「ふふふ、俺たちも行きますよ」

 スケさんが言った。
 カクさんも響子さんもカノンちゃんもうなずいている。

「後はいいですね」

 他の兵士たちは動こうとしなかった。
 俺は、食料を大量に入れたバックパックをわざと地面に置いたまま、爺さんを背負った。

「では、スケさん、カクさん、響さん、カノンさん、行きましょうか」

 やっぱり、スケさんがいると呼ぶときに締まるなあ。
 スケさん、カクさんの順に呼びたいもんなあ。

 俺たちだけなら、バイパスを走ってもどうということはない。
 高速で移動して、爺さんを九番隊の本陣のある伏見城まで運んだ。

「爺さん、ここまで来れば、もう大丈夫だろう。お別れだ」

「なんじゃと」

「ふふっ、あんな奴らでも放置はできないだろう」

「助けに行くのか」

「ああ」

「放って置けばよい。自業自得じゃ」

「お爺さん、私たちのシュウ様はそんなことが出来る人ではありません」

「そうか、響さんあんたは、あんちゃんのことが……」

「じゃあ、行きましょうか」

 響子さんが、爺さんの言葉を遮り、赤い顔をして言ってきた。

「そうですね。じゃあな、爺さん達者でなーー!!」

 俺たちは来た道を戻った。

「なんじゃ。今生の別れみたいだのう。また戻ってくるのじゃろ……まさか……」
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