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第百九十七話 全軍撤退

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「二番隊が、攻撃を防いでいるうちに撤退する。被害を最小限にするぞ! 速やかに撤退せよーー!!」

 さすがは、犬飼隊長だ。判断が速い。

「なっ!!」

 だが二番隊は驚いた。全員目玉をひんむいて、鼻水まで出ている。
 十一番隊が撤退したら、二番隊は柴田軍の前に置き去りになる。

「うわあああーーー、撤退だーー!!」

 二番隊から悲鳴のような声があがった。
 二番隊のボロ装備の者から真っ先に逃げ出す。

「さて、カクさん、響さん、カノンさん、俺達も行きましょう。まずはスケさんと合流です。ここが崩れれば、スケさんの所にも敵が攻撃を仕掛けてきます」

「はい」

 人の流れは後方、西の京都方面だが、俺達は川沿いを南に向った。
 もともと、俺達は最後尾にいるので、人の波に巻き込まれること無く、スケさんのいる京滋バイパスを目指すことが出来た。
 川の対岸を見ると、移動する一群がいる。連絡隊だろう。
 奴らより先に行かないと、スケさんが危ない。

「よーーい、あんちゃーん! 待ってくれーー!!」

 そんなことを考えていると、後ろから声がした。
 爺さんが、俺達の後を追ってきたのだ。
 それだけじゃ無い、班の全員が追ってきている。

「おい皆、こっちじゃない。京都を目指すんだー!!」

「いや、あんちゃんと一緒がいい」

 まずいなー。全員を引き連れて移動すると、時間がかかりすぎる。

「カクさん、対岸を見てください。奴らより速くスケさんの所へ急いでください。もう、俺達の力を隠す必要はありません。全力を出してください」

「はっ!!」

 カクさんの姿は消えた。

「おおっ!」

 それを見た、爺さん達から驚きの声が漏れた。

「あ、あんちゃん。あんたらは一体何者なんじゃ」

「ふふふ、ただの新政府群の足軽ですよ。さあ急ぎます。全力を出してください」

「わかった」

 爺さんのいつものやる気の無さは影を潜め、真剣な顔になった。
 真剣になって走ったところで、とてつもなく遅い。

「響さん、カノンさん、二人は先導してください。俺は最後尾で敵を防ぎます」

「はい」

 後ろからの追っ手を心配したが、二番隊の壁が、敵を引きつけていてくれるので、追われることはなかった。
 だが、二番隊は全滅だろう。
 柴田のことだ、皆殺しにするかもしれない。
 ここまで見てきたが、ハルラの新政府軍も、蓋を開けて見れば普通の日本人だ。

「ちっ、しょうがねえ」

 俺は黒いジャージと黒いヘルメットを装着した。



「ひゃーーはっはっはっ、殺せーー!! 敵の日本人は皆殺しダーー!!」

 橋の上では柴田が絶好調で笑っている。
 俺は、二番隊と柴田の槍隊の間に入り、槍隊の槍をつかみ引き抜いて、二番隊に渡した。

「俺は、この隊の副隊長だ。あんたは一体何者だ」

「ふふふ、俺か。俺は、お尋ね者アンナメーダーマンだ。だが俺は、日本人を助ける正義のヒーローだ。助勢するここは俺に任せて逃げな!」

「日本人を助ける? あんたは新政府軍の敵ではないのか」

「俺は、ハルラの敵だ。奴は日本人を殺しすぎる。ついでに柴田も敵だ、あいつも日本人を殺し過ぎる」

「日本人を守る正義のヒーローか。面白いな。本当に任せても大丈夫か?」

「ああ!! ちょっと待ってな!!」



「ぐわあーーはっはっ!! ころせーーー!!」

「おい、柴田ーー! てめーは、少しうるせーんだよ」

「な、なんだてめーは!?」

 柴田の前には槍隊がいない。
 すんなり前に出る事が出来た。

「俺かー。俺は、正義のヒーローアンナメーダーマンだ。日本人を殺す奴は全部俺の敵だ。かかって来い」

「ひゃあーーはっはっ、正義のヒーローだとー! 馬鹿が死ねーーー!!」

 柴田が、俺の頭に自慢のなぎなたを振り下ろした。
 もちろん固い柄の部分で。俺の頭を叩き潰そうというのだろう。

「なっ!?」

 この状況を見ていた者達全員に衝撃が走った。

「はあーはっはっ。俺のヘルメットは、安物だ。そんなもんで叩かれたら、壊れてしまう。やめてくれ無いかなー」

 俺は、なぎなたの柄を片手でつかみ頭上で止めていた。
 そして、その柄を軽く引っ張った。
 柴田は、しっかりなぎなたを握っていたのだろう、体が俺の方に飛んでくる。

「ぐああっ」

「あんたはもう少し休んでいな!」

 俺は、柴田の胸に掌底を合せて、吹飛ばした。
 治りかけていた肋骨が、ふたたび折れる音がした。
 数メートル吹飛ぶと、柴田が起き上がることはなかった。
 その後、がら空きの槍隊の後ろに回り、槍兵を次々吹飛ばした。ちゃんと死なないように手加減をするのは忘れない。

 槍隊のやる気がなくなったところで、槍隊の前に戻った。
 最早、俺に攻撃しようとする者はいなくなった。
 動きを止めた槍隊の前で、俺は腕を組み仁王立ちになり槍隊を牽制する。

「二番たーーい!! 正義のヒーロー、アンナメーダーマンが来てくれたー! 全軍てったーーい!!」

「おおーー」

 少し弱い、「おおー」が帰って来た。 
 動きを止めた柴田軍を見て、二番隊の副隊長が号令し、二番隊は柴田軍に背を向けた。
 だが大将を失った柴田軍が、動くことはなかった。

 余計な事をしてしまったかな。
 でも、柴田は日本人を憎んでいるからな。仕方が無い。下手をすれば皆殺しだ。
 柴田め、恨むのならアンナメーダーマンがいた不運を恨むんだな。

 振り返ると二番隊の副隊長が、深々と頭を下げている。
 俺は右手を上げて、それに答えた。
 俺はしばらくその場に止まり、爺さん達を追いかけた。
 爺さん達と合流する前に、誰にも見られないよう服装を戻した。
 爺さん達は丁度、京滋バイパスに登るところだった。

「貴様らの切り札二番隊は大将を失い全滅だー!! 降伏しろーー!!」

 敵の士気は高い。こっちは今の一言で士気が下がっている。
 新政府軍は、十二番隊百名ほどの守備隊だけだ。
 十二番隊の副隊長が指揮をとっている。
 降伏か撤退か迷っているようだ。

「スケさん、カクさん、いけますか?」

 やっぱり、スケさん、カクさんがそろっているとしっくり来る。
 なんだか、太ももがもぞもぞする。
 どうやら、これまで姿を消して、スケさんを護衛していたアドが、透明なままスリスリしている様だ。
 本当に猫みたいな奴だなあ。
 俺は勘でアドの頭を撫でた。

「そこは、お尻ニャ。えっちニャ」

 俺はとっさに手を引っ込めた。
 いやいや、お前そんなに背が高くないだろう。
 危うく騙されるところだった。いや、もう騙されたのか。
 アドの笑い顔が思い浮か……ばない。
 ……だめだ、アドは表情が変わらないんだった。

「シュウさん!!」

 スケさんとカクさんが暴れたくて、待ちきれない様子です。

「スケさん、カクさん、ちゃんと手加減してくださいよ。殺しちゃ駄目ですからね」

「ふふっ」

 スケさんとカクさんの目がキラキラしています。

「では、少し暴れて来て下さい」

「はっ!!」

「アドも行って来ますか?」

「ニャー!」

 三人が敵軍に向かって行った。
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