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第百九十四話 やり手婆

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「うわあっ!」

 顔を見て驚いた。

「ふん、人の顔を見て驚くとは、失礼な奴だ」

「冴子様!!」

 あの、ぶっ壊れ女、冴子が頬をふくらましている。
 目がぱっちりして、幼く見えるふくれっ面がかわいすぎるー。

「だから、様をつけるな! 豚顔のシュウ」

 なんだか良くわからないが、冴子は呼び捨てで呼ばれたがる。

「あんたは、やり手婆までやるのか」

「ふふふ、護衛も兼ねている。金を払わない奴や、暴力を振るう奴などに、ちーときついお仕置きをしている。で、どんな女を捜しているのだ」

「あーっ、それな。金を持ってくるのを忘れた。今日はこのまま帰る」

 俺は、帰ろうと体をひねった。
 その俺の腕を冴子はギュッと握った。
 手のひらが、妙に温かい。熱いくらいだ。熱でもあるのか?

「ふふふ、私なら、お前でも我慢が出来る。しかも、タダにしてやる。どうだ?」

「はーーっ、冗談はやめてくれ。あんたは、かわいいから、ついお願いしますって言いそうになる。何故、俺にそんなに興味を持つんだ」

「ふむ、本気だったのだが、まあいい。私には、不思議な力がある」

「あーそれは、昼間に見て知っている」

「あんな、くだらん力ではない。もっとすごい力だ。私は、霊が見えるのだ。隕石騒ぎの前は、占い師をやっていた」

「あんたも見えるのか?」

「なにっ、はははは。豚顔のシュウは驚き方も面白い。『あんたも見えるのか』って……!? まさか! お前も見えるのか?」

「いや、知り合いに見える者がいるだけだ」

「なるほど。じゃあ、言われたのじゃ無いか。お前にはすごい守護霊がいると」

「えっ」

「なんだ、聞いていないのか。お前には金色に輝くヌチャっとした守護霊が見える。すごい力を感じる」

「そうかなー。俺は貧乏をしていたし、女にも、もてていないぞ」

「それは、お前が望まなかったからだ。何か事業を始めれば成功は間違いない。大金持ちになれるはずだ。また、女だって望めば、この世の最高の美女達に好かれまくっていたはずだ」

「そうかなー。実感はないなー。ちなみに、この三人にはどんな守護霊様が見えるんだ?」

「はははは、この三人は、揃いも揃って超美形で一見恵まれているように見えるが、ついている守護霊は最低だ。こんなみすぼらしい守護霊を見た事が無い。ボロボロの服を着た、頭のはげた歯が全部抜けてしまった爺さんだ。恐らく幸せとは縁遠い最低な人生を歩いてきたのじゃ無いか」

「は、はいその通りです。冴子様どうすれば良いのですか?」

 三人が最早、信者のようになっている。

「簡単じゃ。金色のネチャっとした。最高の守護霊を持つ豚顔のシュウから離れない事じゃ」

 さっきはヌチャっって言っていなかったか?
 って言うか、どう考えても蜂蜜さんのことだよな。
 あれは、異世界のアメーバーじゃ無くて、俺の守護霊様だったのか?

「わ、わかりました。いっ、一生離れません。雨が降ろうが、槍が降ろうが離れません」

 カクさんと響子さんとカノンちゃんが、体をギュウギュウくっつけてきた。
 頬を赤く染めて、楽しそうだ。

「ははは、体を密着させろと言う意味では無い。心が寄り添っていればそれで良い。信頼関係を持っていれば良いのだ」

「シュウ様、お願いします」

 三人が懇願してきた。

「俺はすでに三人を、心から信頼しています。安心して下さい」

「私は、どうなのだ?」

 冴子まで聞いて来た。
 ノブや子供達の事で、俺は冴子に少なからず恩義を感じている。

「……」

 でもなーー。ほぼ初対面じゃねえか。

「なんで答えてくれないのだ。私はさっきも言ったが、豚顔でも我慢が出来る女だ。デブでも我慢が出来る」

 我慢が出来るって言われてもなあ、少しも嬉しくねえんだよなー。
 冴子は、俺自身じゃ無くて、俺の守護霊にほれこんでいるって感じだよなー。

「ふふふ、わかった。わかった。冴子も信頼している」

「そうか。じゃあ、待っていてくれ。お前達に同行できるように許可を取ってくる」

 冴子はすごい勢いで飛んでいった。



 ドゴーーン!!

 冴子が入って行ったビルの壁が吹き飛んだ。
 おそらく、あれが新政府の役所のビルなのだろう。
 それからは静かになり、しょんぼりした冴子が帰って来た。

「済まない。どうしても許可が下りなかった。少し暴れて脅してやったら、豚顔のシュウを殺すぞと、逆に脅されてしまった」

 でしょうね。
 新政府もあんたほどの戦力を失う事は出来ないでしょう。
 よく、許してもらえると思ったもんだ。
 冴子は自分の価値を全然分かっていないようだ。

「し、仕方が無いですね。心が寄り添っていれば良いのですから、離れていても大丈夫です。残念ですがここでお別れです。俺達は戻ります」

 内心ホッとしているが、そこは悲しそうな顔をして残念に思っている事をアピールしておいた。

「……」

 冴子は無言で、恨めしそうな顔をして見つめて来る。

「じゃあな、冴子様」

 俺はわざと様を付けて言ってみた。

「だから、様をつけるなー!!」

 ふふふ、元気が戻ったようだ。

「では、冴子様、お元気で」

「だから、様を……、お前達なら付けて良い。豚顔のシュウー! 暇を見つけて、遊びに行くからなーー!! 死ぬんじゃ無いぞー!」

 高層ビル群のバリケードの検問を抜けて、リヤカーのおいてある公園を目指した。
 冴子は俺達の姿が見えなくなるまで手を振っている。

「あの、シュウ様、つれて来てあげなくて良かったのですか?」

 響子さんが、冴子を一瞬見て悲しそうな顔をして聞いてきた。

「うむ、冴子はあれで、子供を保護してくれていた。一緒に行ってしまうと、それが出来なくなる。ここに残っていてくれた方がいいと判断したんだ」

「なるほど、そこまでは考えが及びませんでした。さすがは、シュウ様です」

 今度はカクさんが言った。

 翌日、陽が高くなってから、爺さんが足取りも軽く山城軍曹達と帰って来た。
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