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第百八十四話 大阪へ

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「よーーい! アンちゃーん!」

 爺さんが、ご機嫌で走ってくる。
 嫌な予感しかしない。

「爺さん、何喜んでいるんだ?」

「ふふふ、仕事を取って来てやったぞ」

 せっかく戦局がこうちゃくしていて、やる気の無い俺達は、見張りの仕事が割り当てられて楽をしている。
 別に仕事なんか他にいらない。余計なお世話だ。

「どんな?」

 関心はなかったが一応聞いて見た。

「ふふふ、なーに、簡単な仕事じゃ。大阪へ納品の仕事じゃ」

「な、何だって!?」

 俺は、つい喜んでしまった。
 やっと目的が果たせる。
 何しろ、大阪の様子を見るためにここに来ているのだからな。

「はっはっはっ、やはりアンちゃんもわかるか。前線にいたら、いつ敵の攻撃で死ぬかわからん。納品で前線を離れれば死なずに済む。それだけ長生きが出来るというもんだ」

 爺さん、あんた、どんだけ長生きがしたいんだよ。
 まあ、おかげで怪しまれず、大阪へ行けそうだ。

 何と言っても、犬飼隊長はするどい。
 こちらから大阪へ行きたいなどと言ったら、変な疑いをかけられるに決まっている。
 それが、向こうからやって来たのだ。
 ラッキーと言わねばならない。
 爺さんにしてはファインプレーだ。

「いつ、行くのですか?」

「ふふふ、今からじゃよ」

 爺さんは、前線から離れられるのが嬉しいらしく、笑いが止まらないようだ。

「おおっ!!」

 俺は、拳を固めて声を出した。

「あんちゃん、行くぞ!」

「ははーーっ!」

 なんだか調子が出て来た。

「運ぶのは、これじゃ」

 リヤカーに箱詰めされた銃などの武器が入っている。
 どうやら鹵獲品の納品のようだ。

「こ、これを」

 少しもったいない気がした。
 俺の考えがわかったのか爺さんが言った。

「ふふふ、大丈夫じゃ。弾がない。本当はゴミなのじゃが、武器は納品すれば査定が上がるらしい。隊長もあれで出世がしたいらしいのじゃ」

「なるほど」

「じゃあ、いこうかいのう」

「ま、待って下さい」

 カクさんが走ってきた。

「うちの副隊長が、これもと言っています」

 リヤカーに、十二番隊と書いた箱が置かれた。

「わかった。これだけでよいのじゃな?」

「はい。ところで二人で行かれるのですか?」

「そうじゃ。こんな物を運ぶくらいわけはないじゃろう」

「そうですね。では、お気をつけて」

 なにか、引っかかったので、後ろを見たら十二番隊の副隊長が爆笑している。

「何をしている。あんちゃん! 行くぞ!」

 爺さんは、速く前線を離脱したいばかりで急かしてきた。
 なにやら、嫌な予感がするが出発することにした。
 リヤカーは意外と重く、普通の人が長時間運ぶなら結構きついはずだ。

 そうか! 十二番隊の副隊長が笑っていたのは、こう言うことだったのか。
「あんな重い物を二人で運ばされている」とでも思っていたのだろう。
 俺は普通ではない、この位一人でも楽々運べる重さなのだ。残念!



「はあ、はあ」

 爺さんがバテてきた。
 京滋バイパスは、山の中を切り開いた道で、車ならともかく普通に歩くだけでも、まあまあしんどい。年寄りならなおさらだ。
 リヤカーは、ほぼ俺一人で運んでいるのだが、疲れが出ているようだ。

 俺は大阪へ行けるのが嬉しくて、しかも丁度良い山道はハイキング気分だ。少し自分のペースで歩きすぎていたのだろう。
 今後はペースを考えてあげないといけないのだろう。
 いっそ、リヤカーに乗せてしまうか。
 そんなことを考えていると、いよいよ、爺さんがやばそうだ。

「爺さん、ここいらで、休憩するか?」

 休憩を提案してみた。

「そ、そうじゃな。それがいい」

 リヤカーに積まれた、荷物の中に食糧がある。
 それを出して準備を始めた。
 火を付け、あたりに良い匂いが立ちこめる。
 魚と、クズ野菜と米を炊いた、雑炊を作っている。
 この世界では、充分贅沢な代物だ。

「おいっ!!」

 山を男達が下りて来た。
 汚れたボロボロの服に、ボサボサの髪、顔は垢まみれだ。
 もう、普通に山賊だ。しかも、時代劇でしか見た事の無いような山賊だ。
 人数も多い、十五人は、いるだろう。

「で、でたーー。ひっひぃぃぃ」

 爺さんは腰が抜けたようで、路面に尻を擦りつけながら、後ずさりする。

「すげー、かしら、武器ですぜ」

「なにーーっ」

 山賊達は、リヤカーの武器をあさりだした。

「シュウ様ーー!!」

 後ろから、綺麗な女性の声がする。

「響子さん、なぜ、ここに?」

「うふふ、うちの副隊長が行ってやれと送り出してくれました」

 響子さんとカノンちゃんとカクさんが来てくれたようだ。

「副隊長が言うには『あの山には山賊がいる。あいつら二人で行くつもりらしいが命知らずなのか』と言って、爆笑していました」

 そ、それで、爆笑していたのかよーー。
 人が悪いぜ。

「うふふ『まあ、見捨てることもできんだろう。行ってやれ』と言われてやってきました。シュウ様がいれば必要無いと思いましたが、せっかくですので、ご一緒したいと思い、まかりこしました。余計なお世話でしたか?」

 響子さんが嬉しそうな顔を、俺の顔に近づけて言った。
 ……かっ、顔が近い。

「いいえ、とても心強いです」

「まあ」

 響子さんが頬を赤らめた。
 な、なんだーこの人、すげーかわいいんだけど。
 もう少し、いやもっともっと、ブスなら告白してしまうところだぜ。

「おい、てめえら、楽しそうじゃねえか」

「うふふ、私は今とても気分がいいのですよ。今なら見逃して差し上げますよ」

「はーっ! 何だこいつ!! 頭が馬鹿なのか」

「ぎゃははははは」

 山賊達は馬鹿笑いをしている。
 だが、その目はギラギラ光り、吊り上がっていた。

「スケさん!!」

「あーっ俺、カクさんです」

 し、しまったー。
 そうだスケさんは、橋の警備の班長をやっていて、ここには来ていないんだー。

「カ、カクさん! 少しこらしめてやりなさい!」

 俺は素知らぬ顔で言い直した。
 でも、響子さんとカノンちゃんは大うけだ。
 体がブルブル震えている。
 そんなに笑わなくてもいいでしょうに。

「はっ!!」

 カクさんは真面目な顔で答えると山賊の方に数歩近づいた。
 さすがはカクさんだ、俺の間違いを笑わない、真面目なうえに超美形だ。
 と、思ったら、少し肩が震えている。
 笑うのを超我慢しているだけのようだ。

「ふざけるなー!! お前達、こいつら全員ぶちころせーー!!!」

 山賊達が、襲いかかって来た。

「カノン! 私達も行きますよ!」

「はい!」

 三対十五の戦いが始まった。
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