上 下
174 / 428

第百七十四話 潜入

しおりを挟む
「ぞ、賊が出ました」

 響子さんが、男の声を出そうと低い声で言った。
 賊達は国道沿いの四階建ての建物の屋上に物見櫓を組んで、監視をしていたようだ。

「おい、おい。賊はてめーらだろがー。これを見ろ」

 賊は階級章を指さした。
 何やら線二本と星が三つついている。

「は、はぁ」

 俺達は、その意味がわからず間の抜けた返事をした。

「ちっ、俺はなあ大阪新政府軍十二番隊、隊長の井上だ!!」

「大阪、では、ハルラの軍」

「て、てめーー!! ハルラ様を呼び捨てにするな。よそ者みてーだから、一回は許すが次はねえぞ。次は死刑だ」

 どうやらこいつらは、ハルラの配下のようだ。
 すでに、こんな所まで来ていたのか。驚いた。
 ハルラは、新政府などと自分たちを呼んでいるようだ。
 なんとなく、俺は本当に自分が賊軍のような気がしてきた。

「シュウ様」

 カクさんが俺の耳元に小声で話しかけてきた。

「な、なんですか?」

「はい。どうでしょう。敵情視察ならここは、いっそ飛び込んでみてはどうでしょうか」

 そうか、良い考えだ。
 敵として忍び込み、見つからないように行動して、どれだけの情報が得られるのだろうか。
 それなら、いっそ敵の兵士になってしまうというのは名案だ。

「カクさん、すばらしい名案です。ほれてしまいそうです」

「はうっ」

 はーーーしまったー。
 この人には冗談で済みませんでした。
 超美形のいい男カクさんが真っ赤な顔をして、くねくねしています。
 って、カクさんのお慕いする人ってまさか俺じゃねえだろうなー。

「あのーー、井上隊長、俺達は新政府軍に入隊したいのですがどうすれば良いのでしょうか」

「な、なにいーーーっ!!!!」

 あっ、なんか、怒りだした。
 駄目なのかー。
 やっぱり、いきなりすぎたか。

「素晴らしい心がけだ。今、新政府軍は人手不足だ。ふふふ、次々死んでしまってな。まずは実力を見せてもらおう。おい! お前達、かわいがってやれ」

 なんだよ。いいのかよ!!
 あせって損した。
 隊長は、すぐ横の隊員を手招きした。

 どいつも、こいつも、一癖有る強そうな五人が俺達の前に並んだ。

「こ、こいつらが正規軍? どう見ても山賊じゃねえか!!」

 し、しまった本音が出てしまった。

「何だとー! このやろー、お前の相手は俺がしてやる。ぶっ殺してやる!!」

 あーーっ、失敗した。
 一番恐ろしそうな奴が俺をにらみ付けた。

「こいつらは、俺の隊の伍長達だ。それなりにやる。おい! お前ら、折角の新兵だ手加減してやれ。間違っても殺すなよ。俺の査定に響く」

「はっ、ふひひひひ」

 五人の伍長は自信満々にいやらしい笑い声を上げた。
 微塵も自分が負けるとは思っていない表情だ。

「よしやれ!!」

 隊長の掛け声と共に、五人の伍長がこっちに走ってきた。

「うぎゃああああ!!!!」

 一瞬にして、五人が吹き飛んだ。
 スケさんもカクさんも、そして響子さんもカノンちゃんも目の前の伍長の腹を拳で殴っていた。
 おいおい、俺でもまだ人は殴ったことねえのに、普通に殴り飛ばしゃあがった。
 すごい女性達だ。

「いてーーーっ、いてーーよおお、ぶひぃぃぃーーー」

 だが、もう一人殴られて悲鳴を上げているのは、俺だ。
 四つん這いで、おそろしい相手から、腰が抜けたようになって逃げ出した。

「ぎゃああああーーーはっはっはっ!!! まるで豚じゃねえか! ひゃああはっはっ!! ひぃーひぃっ、ひひひーー」

 そんな、俺の不格好な姿を見て隊長が大喜びだ。
 いや、それにしても笑いすぎだろう。くそっ。

 そんな俺の姿を見て四人が驚いている。

「た、たすけてーー」

 俺は逃げながら、カクさんにしがみついて助けを乞うた。
 そして、カクさんにだけ聞こえるように耳元にささやいた。

「皆を頼みます。俺は底辺が知りたいので、しばしの別れです」

「さ、さすがです。分かりました」

 カクさんも小声で俺に返事を返してくれた。
 すべて、理解してくれたようだ。
 柳川並に頭が切れそうだ。たのもしい。

「良し、そのくれーで許してやれ。負けた五人は足軽小屋、ふふ別名、豚小屋へ連行だ。連れていけーーー!!」

 俺は、スケさんとカクさん、響子さんとカノンちゃんに負けた四人と共に、豚小屋と呼ばれるところに連れて行かれるようだ。

「ひひひ。お似合いだなーー!! さっさと歩けーー!!」

 連行する隊士に思い切り尻を蹴られた。

「くそーー! また、あそこへ逆戻りかよ」
「いやだー! 戻りたくねーー」

「あの、どの様な所なんですか?」

「うるせー!! てめーは話しかけるんじゃねえ」
「そうだ、そうだ! 行きゃあ分かるんだよ! このやろーー!!」

 どうやら、俺は嫌われてしまったようだ。
 俺達はとぼとぼと、歩かされ、大きな工場の門をくぐった。

「てめーはこっちだ」

 俺だけは別ルートのようだ。
 他の連中は、何やら証明書を見せるとすぐに中に通された。
 俺は、数人の男が並ぶカウンターに並ばされた。

「名前は?」

「十田十と書いて、トダシュウです」

「ほれ」

 たったそれだけで、何か証明書の様な物を貰った。
 そこには、新政府軍足軽証明書となっている。

「ありがとうございます」

 御礼を言って、俺はその証明書を受け取った

「その証明書を持たずに外を歩けば、殺されても文句は言えない。なくさないようにな」

「はい、ご親切にありがとうございます」

 俺が礼を言うと、担当者は面倒臭そうに、あっちへ行けと手をふった。
 先に手続きを済ませた男のあとを追って、工場の扉を開けた。

「ぐわっ」

 扉の中から臭い匂いがした。
 そして、汚い。そこら中にゴミが散乱している。
 まるで豚小屋のようだ。なるほどね。男達が言っている意味がわかった。
 俺の中の蜂蜜さんがザワついているが、さすがにここを綺麗にしてしまう訳にはいかないだろう。
 最終日にこっそりお掃除することにしよう。

 外は少し日が傾いているが、まだ充分明るい。だが中はすでに薄暗かった。

「あんたは、新入りか?」

「はい」

 背の低い、白髪頭の爺さんが話しかけてくれた。
 実は俺は知り合いのいない、この薄暗い空間が気味悪く心細かった。

「じきに真っ暗になる。ついてきな、飯のやり方を教えてやる」

「あー、えっと」

 だが、うかつに信じて良い物か悩んでいた。

「はやくしないか。真っ暗になったら何も出来ないぞ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 俺は、この爺さんを信じて見ようと思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...