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第百七十一話 女の勘

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「藤堂一虎、心服致しました。ただいま目の前で見た強さもさることながら、これまでの木田家からいただいた過分なまでの手厚い援助。これよりは木田家の配下の末席に加えていただきたく。お願い申し上げます」

「うーーん、配下にならなくてもいいのだけどなー。どうせ、民主主義にするつもりだから、知事は投票で決めるようになるからなー。今のうちから市民から尊敬される政治をして欲しいね」

「ええっ!!」

 まわりから驚きのどよめきが起きました。

「では、お、大殿は、首相に立候補するつもりなのですか?」

「いや、それはしない。俺が立候補したら、皆が票を入れそうだ。絶対君主制とかわらない。それじゃあ駄目だ。ちゃんとしないとな」

「大殿は、ここまでしておきながら、見返りは何も求めないのですか」

「俺は、産廃業者として余生を過ごせればいいよ。底辺からこの国を見ていきたいからね」

「藤堂一虎、感服致しました」

「ええっ、感服するところかなあ? まあいいや」

 シュウ様は視線を、黒い固まりに移しました。

「俺の首をはねてくれ、その代わりここにいる者は、木田家の配下にしてやってくれないだろうか」

「……」

 シュウ様は、暖かい視線で黒い固まりを見ました。
 黒い固まりの言葉が、シュウ様の琴線に触れたようです。

「あんたは気が付いていないようだが、俺は清水一郎だ」

「ぎゃあああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 突然、娘の楓音が大声を出しました。
 カノン砲です。耳がじんじんします。
 そして、震えながらシュウ様にしがみつき、背中に隠れました。

「だ、だ、旦那様」

 そうです、この清水一郎こそ、行方不明になった楓音の夫なのです。
 清水連合のトップだった男なのです。
 かわいそうに、政略結婚で嫁に行かされた相手です。

「すでにアンナメーダーマンとは三度戦い三度負けた。もうこれ以上反抗する気はねえ。スッパリ殺してくれ」

「なるほどな、あんたなりのけじめか……」

 シュウ様は目を閉じて考え込んでいるようです。

「よし、死んでくれ!!」

 えっ!?
 シュウ様はそう言うと、清水の頭の天辺に手を当てました。

「ぐあああああああああああーーーーーーーーーー!!!!…………」

 清水は、悲鳴を上げました。
 そして、倒れ込み静かになりました。

「ふふふっ、はあーはっはっはっ!!」

 シュウ様が笑っています。
 人を殺して笑うような人ではないはずですが。

「ぐおおおおおおーーーーーー!!!!」

 あっ、清水が起き上がりました。
 やはりシュウ様は殺さなかったようです。

 ――えええええええーーーーっ

 驚きました。
 清水の体を覆っていた長い黒い毛が、バサバサ剥がれ落ちます。

「よかったぜ。あんた、パンツをはいていたんだなー」

 全裸では無かったようです。
 長い毛に隠れていましたが、パンツだけは、はいていたようです。
 長い毛が落ちると、普通の毛深い筋肉隆々の、やや影のあるイケおやじが出て来ました。
 少しかっこいいかも。

 でも、楓音は恐いだけのようです。
 震えが止まっていません。

「ふふ、安心してください。はいています」

 くだらないです。
 清水がパンツを両手で指さしています。
 馬鹿じゃないでしょうか。

「どうだ一度死んで、生まれ変わった気分は?」

「なぜだか、本当に生まれ変わったような清々しい気分です」

「カノンちゃん、もう震えなくていいよ。清水には、俺が身体能力強化の魔法をかけた。俺の魔法をかけると俺の考え方の影響を強く受けるようになる。おい、清水お前は、女性に対して何を感じる、感じたままを言ってみろ」

「はっ……」

 清水は空を見つめ考え込んでいます。

「ふむ、これまでは、若い女性に強く性欲を感じましたが、今は……。不思議と臭い汚いとしか感じません」

「はーーーーーっ!!!!!」

 私と楓音とスケさん、カクさんがシュウ様をにらみ付けました。
 言って良いことと悪いことがあります。
 いくらシュウ様でも許せません。

「ぎゃーーーーーー!! 何で俺を見るんだーー!! 言ったのは清水だぞーー。俺じゃねえーー!!」

「いいえ、言っているのと同じです。許せません!!」

 私達四人の声がそろいました。

「お、大殿。私にもその魔法を、おかけください」

 藤堂のお殿様が言いました。

「いや、これは去勢をするようなもんだ。清水はロリコンだ。年端もいかない少女に、エッチなことをする。ここにいるカノンちゃんも被害者だ。こんな奴にはこの位の罰が必要だ。あんたには、去勢は必要無いだろ」

「……」

 藤堂のお殿様は無言でうつむきました。

「藤堂、あんたは俺と違って男前だ。これからも沢山の子供を作って欲しい。だから、このままだ。いいな」

「はっ」

「清水、お前に聞きたい、カノンちゃんと離婚して親元に帰してやる気はあるか? 無理矢理しろと命令はしたくない。ちゃんと親の了解も本人の了解も取っている話しだろうからな。嫌なら断ってくれ」

「ふふふ、そんなことですか。最早、私には女は不要です。この国の為に尽くしたい。そんな気持ちに満たされています」

「と、言う事だ。カノンちゃん、この先は自由だ。よかったな」

「は、はい」

 娘の楓音がシュウ様を見つめます。
 その目には涙が一杯たまっています。
 心なしか、頬が紅潮しています。
 女の勘ですが、恋じゃないでしょうか。
 母としては応援してあげたいのですが、どうも無理っぽい感じがします。

 女の勘が外れていることを祈ります。
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