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第百六十一話 知らなかった事実

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「あづち、あれが名古屋城だ」

 あづちは、名古屋が初めてという事らしい。
 目をキラキラさせて外の景色を見ている。
 UFOには他にミサとシュラが乗っている。
 帰りはミサのテレポートでは無くUFOにして信濃の様子を視察して、名古屋に入った。

 こうして見ていると、本当に可愛らしい幼女だ。
 この頃のあずさは、骨と皮だけのみすぼらしい幼女だったが、あづちは少し吊り目でまるで子猫のようだ。

 子猫がかわいく感じ無い人はいないだろう。しかも、子猫の中でもとびっきりかわいい子猫だ。
 今のこの姿を、SNSに上げるだけでバズるの間違いなしだ。
 ただ、残念なのは表情が無い事だけだ。取り戻してやりたい。
 まあ、幼女のうちは精一杯甘やかしてやろう。
 俺に出来るのはその位だ。



「お帰りなさい!!!」

 名古屋城につくとあずさとヒマリ、古賀さんが迎えてくれた。

「うわあああーーーーーー!!!!!」

「なんだ、何をする。離せーー!!」

 あずさが、あづちに恐ろしい勢いで飛びつき抱きしめている。
 だが、おかしい。
 あづちがあずさを振りほどけないのだ。
 手加減をしているのだろうか。

「とうさん、この子どうしたのですか」

 そうか、あずさはあづちを見た事があるはずだが、幼くなってからは初めてだから分からないのか。

「はなせーー!!」

 あづちがようやく振りほどいた。
 だが、これも、あずさが力を弱めたから、ようやく振りほどけたように見える。

「んっ、はなせ? 離して下さいでしょ。いけない子ね」

「うるさいなー、おまえ。お前こそ私を何だと思っているのだ」

「ふふふ、あなたはアドでしょ。私のかわいい子猫ちゃん」

「はぁーーっ、頭がおかしいのか」

 あずさの顔が険しくなった。
 眉毛が吊り上がっている。
 前世で飼っていた猫にでも似ているのだろうか。
 あずさの様子がおかしい。
 だが、いけない、あづちは強すぎる。

「あずさ、やめるんだ。あづちは強すぎる」

「いいえ、やめません。この子には、どちらが主人か教育する必要があります。あづちと言うのですか。あづちちゃん、勝負です。私が勝ったら、あなたの名前は今日からアドです。そして語尾にはニャをつけてもらいます。あと猫耳と尻尾も」

「いいでしょう。私が勝ったら私がお姉さんです。いいですか」

 二人がにらみあった。
 嫌な予感がしたので、少し広いところに移動した。

「あ、あづち……」

 俺は、手加減するように小さな声で名前を呼び、あづちの顔を見た。
 あづちはほんの少しだけ、うなずいた。

「ふふふ、相当じしんがあるようね。私の方がお姉さんだからいつでもいいわ。かかってきて」

 あずさが妙に余裕だ。
 相手が幼女だからって油断しすぎだ。
 軽く俺を叩くだけで遠くまで吹き飛ばし、胃袋が口から出てしまうほどなんだぞ。

「いくぞーーっ!!」

 あづちが、素早く動いた。
 そして、軽くパンチを出した。

「うふふ、もう少し本気を出して下さい」

 あずさは余裕でよける。
 嘘だろ! あれを見切るのか。

「なっ!?」

 あづちが驚きの声を出した。
 だが、表情は変わらない。こういう時は便利だ。
 あづちは次々攻撃をする。
 その攻撃は、次第に強く速くなっていく。

 だが、あずさは可愛らしい笑顔になり、こともなげにすべて避ける。
 そこには、あづちの攻撃に対する恐怖心がまるで感じられなかった。
 逆に俺が最大の恐怖を感じている。
 それは、あずさにではない。
 ハルラに対して恐怖を感じているのだ。

 背中に冷たい汗が流れる。
 ハルラと言う奴は、あずさの前世の世界の勇者だ。
 きっと、王国の兵を引き連れ、魔王城を攻め、魔王軍を壊滅させたのだろう。
 あずさはその魔王城の、メイドだったのだ。

 その、メイドがあの強さだ。
 そのあずさを、雑魚扱いして軽く殺し。
 魔王六大魔将軍とかも倒し、最後にあのあずさの百倍位強いであろう魔王を殺してのけたのだ。

 俺はそんな奴に喧嘩を売ったのだ。
 どう考えても俺に勝ち目は無い。
 俺は、ただのオタクだ。
 しかも、あずさの話では、ハルラは魔王より残忍で無慈悲だったと聞いている。

 ――大阪いきたくねーーー。

 あずさとあづちの戦いを見て、そんなことを考えている

「すごいなー、おまえ。いいだろう、私の本気の攻撃を見せてやる」

 あづちがとうとう本気になってしまった。

「……」

 あずさは手のひらを上にして、クイクイと曲げた。
 うわあー、あおるのやめてもらえる。あずさちゃん。
 俺はもう見ていられないよー。

 あづちは、少しかがむと両足で大地を蹴った。
 少し地面がえぐれている。
 最早普通の人には、あづちの姿は消えてしまったように見えるだろう。
 あずさはその攻撃を雑作なく避けると、あづちの両足をつかんだ。
 そして、そのまま地面にビッタンビッタン叩き付けた。

「あーーっ」

 俺は思わず声が出てしまった。
 あずさの顔から表情が消え、昔の顔になっている。
 三度ほど地面に容赦無く叩き付けるとあづちは、のびてしまったのか全身から力が抜けた。
 あずさは、グニャグニャのあづちをポイと投げ捨てると、あづちに声をかけた。その姿は威風堂々としてかっこよかった。

「アド、ひざまずきなさい!!」

 あづち、あらためアドはのそりと体を動かし、あずさの前にひざまずき額を地面に付けた。

「はい……」

 アドは弱々しく返事をした。

「はいじゃありません。はいニャです」

「うっ、は、はいニャ」

 あずさは笑顔になるとアドに近づき、アドを抱きしめ頭をなでた。

「猫耳と尻尾」

 そして、アドの服のゴーレムに猫耳と尻尾を命令した。
 もともと、ゴーレムを動かす魔力はあずさ由来のものだ。
 ゴーレムが逆らえようはずも無い。
 かわいい猫耳幼女が誕生した。

 しかし、あずさの奴どんだけつえーんだよー。知らなかった。
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