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第百五十六話 木田軍前進

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 昼間は暑かったが、夜は冷える。
 アーケードの屋台村を挟むように、少し大きめのミスリルの箱を出した。
 ここから温風を出して屋台村全体を温めるようにした。
 これで真冬でも少しは暖かくなるだろう。
 俺は、皆が眠っている早朝に仙台を後にした。

 新潟で、上杉と別れると、山形、秋田、青森と農産物を収穫した。
 アメリカの小麦と違って、日本には生活している人がいるので、根こそぎ奪わないように、人の存在を確認しながらの作業になる。なので、時間がかかった。
 それでも、まずまずの収穫が出来た。
 そして、越中に入り、収穫をはじめた。
 越中は、住民がいなくなっているので、根こそぎ収穫している。

「す、すごいです」

 あづちが、目をまん丸にして驚いている。
 目の前で、田んぼの稲がパッと消えるのだから不思議なのだろう。
 ミサは、慣れてしまったのか何の感情の変化も無い。
 あづちは最近、少し低い声でぽつりぽつりと声を出すようになった。
 一緒にすごし始めて、すでに一週間以上たったので少しは慣れてくれたのだろうか。

 あづちが感情を無くしたのは、どうやら暴力ではなさそうだ。
 あずさは何か失敗をすると、すごく取り乱したが、あづちにはそれが無い。
 何が、原因なのだろうか。

「おっ、ここにもある。丁度良い、ここで休憩をしよう」

 越中富山には、道路脇に湧き水が出ているところがある。
 ひしゃくが置いてあり、飲むことも出来る。
 立山の湧水ということなのだろう。
 朝作った、おにぎりと湧き水で休憩をした。

 すでに柴田軍は、富山城に兵を入れ終わり、いよいよ越後に進軍するようだ。
 俺も、収穫が終ったので、今日あたりポン軍に合流して、決戦の準備に入ろうと思う。

 越中から越後への侵入は、海岸沿いを行くしか無い。
 軍での山越えは不可能だろう。
 国道八号線か県道六十号線を使って移動をする事になる。
 朝日の町をすぎると山と海岸の狭い隙間があるだけだ。
 守りやすく攻めにくい場所になる。

 守るならここで良いのだが、木田軍は越中の奪還が目的だ。
 ここはあえて、朝日の農地に出て戦う事にした。

 本陣は八号線のトンネルの上の山を切り開いて作った。
 これで、戦場が一望出来る。
 しかも真下が八号線なので、見張りも出来て一石二鳥だ。

 上杉家と伊達家には、新たに千五百体ずつ陸鎧を作って渡した。
 新型の陸鎧は、材料に隕鉄を使った。
 俺の体には巨大な隕石が有り、それをやっと消化し終わり、分離が終ったのだ。
 ほとんど、カロリーがなくて、蜂蜜さんがご立腹だが、色々な資源が手に入った。
 中でも主成分が鉄で大量に入手出来た。宇宙をさまよって色々な宇宙線を浴びた為か強くなっている。

 隕鉄で有名なのはあの、石川五ェ門の斬鉄剣だが、それと同じと言うことになる。
 それにミスリルと炭素をまぜて、隕鉄ミスリル炭素鋼が原料の陸鎧だ。
 そのままの状態では薄い水色に輝く鎧だったが、ゴーレム化のため魔力を付与したら、俺の黄色の魔力と反応して緑色に輝きだした。
 これを上杉家では天地と命名し、伊達家では天竜と名付けた。
 上杉家と伊達家には、それ以外に指揮官用として、天夕改、天紫改、天蒼をそれぞれ一体ずつ渡した。

 今回上杉家の機動陸鎧天地は、後詰めで越後の守りを固めてもらった。
 木田軍がやられた時のための守りを任せたのだ。

「来ましたーー!! 柴田軍です!!」

 物見が叫んだ。
 山の上にあるが、それでも一つ物見台を作った。
 そこにのぼると、県道六十号線を進軍してくる柴田軍が見えた。
 すでに昼を少し過ぎているので、戦いは明日になるだろう。
 柴田軍も、木田軍を確認すると進軍をやめ、陣を築き始めた。

 木田軍本陣は、大きな旗がパタタタと音を立てて揺れている。
 旗には、丸に木の字がかかれ、大きさから本陣と分かるだろう。
 柴田軍は、一際大きな建物、病院だろうか、そこを本陣にするつもりらしい。
 丸に柴の文字が書いた大きな旗があがった。
 あそこなら戦場が一望出来るだろう。

 戦場を見ていると、胸がザワザワしてなんとも言えない緊張感がある。
 まわりに、木田軍の重鎮が並んだ。
 ゲンに、ポン、藤吉、真田、加藤、そして伊達の姿がある。
 眼下には、刈り取りが終ったばかりの農地が広がり、どれだけ暴れても作物の心配はない。思う存分戦えるだろう。


 翌朝は、雲が少しあるが晴れだった。
 実は俺は、外に出るのが嫌いなのに晴れ男なのだ。
 柴田軍は、最前列に鉄砲隊を配置し、その後ろに歩兵を配置した。
 総勢六千人程度か。

 対する木田軍は、左に真田隊三百の赤備え。中央にポン軍、機動偵察陸鎧千五百、右に尾張の黒備え三百。総勢二千百人。
 それぞれに真田とポン、加藤の指揮官用陸鎧が続く。
 本陣したには、ゲンと藤吉の指揮官用陸鎧と伊達隊五百人が待機している

 木田軍は、横に広く展開し、柴田軍は丸く、鉄砲で迎え撃つ陣形を取った。
 恐らく、柴田軍は最初前に出ないつもりだろう。

 俺は物見台の上からそれを、じっと見つめている。
 横には伊達がいて、見学をしている。

「よっし、木田軍ゆっくり前進だ」

「ゆっくり前進」

「ゆっくり前進」

 声が次々前に送られる。
 俺は、ゲンじゃねえから大声は出ない。
 声を前に送ってもらい、伝える様にした。
 木田軍が、ゆっくり動き出した。
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