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第百四十二話 祭り前夜

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 食事が終るとあずさとヒマリとミサの三人は。

「少し待っていてください」

 そう言うと柳川の店の中に消えた。
 出て来た三人は、服装を変えて来た。
 あずさとヒマリは、ピーツインの衣装、あずさが青で、ヒマリが黄色。
 そしてミサは、紫の皮のライダースーツ、ピッチピチだ。
 胸を大きく開けている。

 そこに紙の端が五ミリくらい顔を出している。
 あれは、地図の端っこだろう、つまみ易いように出してあるようだ。
 俺達は、二人組アイドルと、フージコちゃーんと、ロボメイドと、ドラミちゃんのコスプレをした、コスプレ集団となった。

 五人のコスプレ集団は、駅のロータリーから続く広い青葉通りに出た。
 交通規制をしなくても、自動車はガス欠で動かない。だから道路は、歩行者天国だ。
 最初にマグロ丼の店がある。
 大きな白い布に墨で「マグロ丼無料」そして、横に丸の中に木の字が入っているマークが書いてある。
 屋台の設営は終って、明日の本番を待つばかりになっているようだ。

「ピ、ピーツイン!!! なんで今日!?」

 店の中から、少し太った男が出て来た。
 一目で、オタクだと分かった。

「うふふ、お祭りは準備からすでに始まっているのです」

 あずさが、さっき仕入れたばかりの知識を自慢そうに言っている。

「そうですか。俺、めちゃめちゃ、ファンなんです」

 手を伸ばしてきた。
 あずさはにこりと笑って、手を伸ばした。

「あっ、ヒマリちゃん、お願いします」

「あっ、はい。どちらから来たのですか?」

「もちろん俺は、駿河です」

 どうやら、駿河の人はヒマリちゃんがお気に入りのようだ。
 伸ばした手を悲しそうな顔をして、引っ込めようとしたあずさに、別の店員が言った。

「お、俺は、あずさちゃんです。お願いします」

 あずさの手をギュッと握った。
 あずさと、ヒマリがにっこり笑った。
 男二人のヒザがカクンとなった。

「おっと、いけない。可愛い過ぎて、少し気を失ってしまいました」

「まあ」

 若ぞーめー、そんな訳があるかー。
 良くもそんなことが言えるなー。
 あずさとヒマリの顔が見る見る赤くなっていく。
 こいつらは、デブのくせに俺とは違って陽キャなんだ。
 俺なら、もじもじして握手なんか求められねえわ。

「もう準備は、終っているのか」

「ええ、後は明日の早朝からご飯を炊くだけです」

 炊飯器も流し台も大田商店の商品だ。
 炊飯器はミスリル製で、自動でご飯が炊けるようになっている。
 食事の提供は陶器の丼で洗って使うようだ。
 プラの使い捨ては、もう生産出来ないので使用できないからだ。
 食べ歩きは出来ないが、大量のテーブルが用意されているので、座って食べることが出来る。その方が行儀いい。

「じゃあ、がんばってな」

 俺は、手を振って次の店を視察する事にした。

「ありがとうございます。ドラミちゃーん」

 くっそ。笑顔で手をふってやあがる。
 祭りだからゆるそう。

 隣は、海鮮お好み焼きの店だ。
 材料は、小麦粉とキャベツと、いかとエビ、そして玉子か。
 その隣は、お寿司か。
 そして、たこ焼き。
 また、マグロ丼の店かーー。

「うおおーー。ピーツインだーー!!! うおっ、きめードラミだ!」

 きめードラミって何だよ!
 駿河の人間が多いようで、ピーツインを見る度に喜んでいる。
 そして、俺を見て、気持ち悪がっている。

 どこの屋台も、準備は終って明日からの本番を待つばかりのようだ。
 様子を見ながら歩いて来たら、美術館が見えてきた。

「コンサート会場も近い、見ていくか?」

「行きまーす」

 あずさとヒマリの声がそろった。



「すごいわねー。そんな格好で歩いて来たの?」

 コンサート会場では古賀さんが働いていた。
 俺達を見つけるなり驚いている。

「はい」

 アイドル二人が答えた。

「いえ、私はそこのドラミちゃんに言ったの」

「はあーっ、ドラミちゃんじゃねーー。俺はどちらかと言えばブルースリーだ」

「あーデブゴンね」

「それは、キンポーだろ!! リーだよ!!」

「あーそう。二人は少し時間があるかしら?」

 うわー、来ました。何の関心も無い「あーそう」
 横で、涙目でミサが笑いを我慢している。

「はい」

「ステージのリハーサルをやっておきましょう。練習はして来てくれたかしら」

「もちろん二人で、バッチリ練習しました」

「よろしい!! では、始めましょう」

「ちょっと待てー!! バッチリ練習って、勉強はどうしたんだ」

「お祭りが終ったら、やりまーす」

「ふふふ、野暮は言わないの。楽しむ時は全力で楽しまなきゃあ」

 ミサが俺の耳元に言ってきた。

「そ、そうだな。こんな世の中になったんだ。楽しめる時は楽しまないとな」

「何をしているのですか。ミサさんもですよ」

 結局、ミサも呼ばれて、俺とシュラだけが残された。

「シュラ座ろうか」

「はい、お父さん」

「うん」

 俺は座ってピーツインの練習風景をボーッと眺めている。
 まあ、テレビがある時代なら、本当にアイドルが出来そうな子供達だ。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! ピーツインだーー!!!」

 うん!?
 今川家の殿様とその一行が来たようだ。
 今川の殿様は暇なのかー。

「こ、これは、太田殿。こんな所で、何をされているのですか? 暇なのですか?」

 お、お前に言われたかねーよ!!。

「俺は、忙しいからな、もう行くよ。ピーツインとミサに伝えてくれ」

 俺は、シュラとホールを後にした。
 俺達が、出て行くとホールの中から、殿様一行の、オタ芸の練習の声が聞こえる。

 やれやれだぜ!
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