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第百三十五話 敵のアジト

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「いでーーっ、くっそーー!!」

 熊男は左腕を痛がりながら、フラフラ歩く。

「うるせーな! 歯も全部折っちまうか」

 ゲンが少し切れている……。のかどうかは分からない。

「ひっ!」

 熊男が小さく悲鳴を上げた。
 そして静かになった。
 屋台村から、そうとう歩いたがまだ着かない。

「いったい、どこまで歩くんだ。てめー。両足折っちまうぞ」

 ゲンが切れている……。のかどうか分からない。
 表情が読めない。
 だから、余計に怖い。

「ひいっ!!」

「ゲン、両足を折ったら。アジトへいけなくなっちまう」

「ははは、冗談に決まっているだろ兄弟。暇だから冗談を言ったんだ」

 冗談だったらしい。
 機嫌はそんなに悪くなさそうだ。

「おい、デブ、こいつを何とかしろ。怖すぎるだろう」

 こいつは、失神していたせいで、俺の活躍を見ていない。
 俺をただのデブだと思っているらしい。
 俺には高圧的だ。

「おい、熊、てめー、兄弟をなめたら、舌を切り落とすぞ」

 ゲンが、熊男の頬を右手でつまみあげ口を開け、力一杯舌を引っ張った。

「ガーー、ぬげる、ぬげるーーっ」

 どうやら舌が抜けそうになっているらしい。
 熊男の目から涙が流れた。

 ミリッ

 あっ、熊男の舌の奥から聞こえてはいけない音が聞こえた。
 しかしゲンの怪力には驚いてしまう。

「おい、ゲン、やり過ぎだ」

「おっと、わりー、わりー。なめた口をききゃあがるからよ」

「……」

 熊男はもう何もいわなくなった。
 少し体が震えている。
 ゲンが本当に怖いようだ。
 その代わり、俺に血走った目で鋭い視線を向けてくる。
 まるで「てめーは後でぶっ殺す」と、言っているようだ。

 黙々と真っ暗な道を歩いていると、白く明るい場所が見えてきた。
 師純興業と看板が出ている。
 二階建ての平たい面積の大きい会社だ。
 屋根に蓄電式太陽光発電が付いているようで、電気が使える様だ。

「しじゅんこうぎょう?」

「ばかめ! もろずみこうぎょうと言うんだよ。ぎゃーーっ! いでーーっ!」

 ゲンがまた、舌を引っ張った。
 ゲンが手を離すと、熊男は走り出し建物に駆け込んだ。
 と、同時に人相の悪い男達が出て来た。
 手には武器を持っている。
 チェーンや、鉄パイプ、サバイバルナイフなどだ。

 会社は、もともと運送会社だったのか、駐車場が広い。
 ゾロゾロ、出て来たが二十人ほどだ。
 さっきの屋台村が、三十人ほどいたので、こっちの方が人数は少ない。それだけ精鋭ぞろいということだろうか。
 建物の中を見ていると、熊男は二階に登って行く。
 ボスは二階にいるようだ。

「ゲン、ボスは二階のようだ!」

「兄弟! ちゃっ、ちゃっと、済まそうぜ!」

「ああ、どんなこえーボスが出てくるか、楽しみだ」

「うおーーーっ!!!」

 師純の社員が襲いかかってきた。

 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ

 ゲンが、社員の頬を殴った。あっという間に四人が吹き飛び、後ろにいた男達を巻き込んで倒れた。
 ゲンの動きが速すぎて、相手の武器はまるで役に立たなかった。
 俺もその隙に数人倒した。
 まともに立っている奴は、五人になっている。

「な、何なんだ、こいつらは? おい、近くに衛兵がいただろう呼んでこい!!」

 その言葉を聞くと、四人が敷地から大急ぎで出て行った。
 衛兵っていったら、城の兵隊か?
 なら、伊達家の兵士という事になる。
 伊達家は、こいつらとつるんでいるということか。
 ふむ、面白いことになりそうだ。

 残った一人は、建物に向った。
 ボスに報告するのだろうか。

「兄弟、俺達も行こうか!」

「ああ」

 ゲンと俺は、慌てる必要も無いので、ゆっくり歩いて建物に入った。
 ガラスのドアを開けて、すぐの階段を上ると、熊と、さっきの社員が社長室と書いたドアの横で立っている。
 黒の背広を着たグラサン男がドアの前にいて、二人を中に入らないようににらみ付けている。
 どうやらこのグラサン男の方が、格が上なのだろう。

「なっ!? お前達、もう、あいつらを倒したのか」

 熊男が、驚いている。
 俺が、社長室のドアのノブに手をかけたら、その手をグラサン男がつかんだ。

 ゴッ!!

 グラサン男がゲンに殴られて吹き飛び階段から落ちて、動かなくなった。
 階段から落ちて、気絶したわけではない。
 最初の一撃で意識は吹き飛んでいたようだ。
 階段を人型のこんにゃくが落ちって行ったから間違いない。

「く、熊田さん、こいつら、な、なんですか!! 強すぎます! な、何なんですかー?」

 熊男は、熊田というらしい。
 恐い顔をした社員が、おびえながらいった。

「……」

 今日は、名乗るチャンスが、結構あるなー。
 今回は少しためてみた。

「このお方はなあ、関東から東海まで知らねえ人間はいねえ、正義のヒーロー、アンナメーダーマン様だ!!」

 あっ、やられた。
 ゲンに取られた。

「ア、アンナメーダーマン!?」

 俺が言ったら馬鹿にするくせに、ゲンが言ったら、一発で覚えやあがった。
 ま、まあいいや。慣れているしな。
 速く言わねえ方がわるいんだしな。

 俺はドアのノブを回そうとした。

「や、やめろ。そのドアを開けちゃーいけない!!」

 熊田が、あせって俺を止めた。

「へへへ、猛獣でも飛び出してくるのか。脅かすんじゃねえよ」

 俺は背中に一筋冷たい汗が流れた。
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