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第百三十四話 アンナメーダーマン! コール

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「おい、お姉ちゃん座ってくれ」

 ゲンは女中さんを熊男達のテーブルに座らせた。
 そして、自分も座り込んだ。
 座ると、テーブルの料理を、ムシャムシャ食い始めた。
 えっ、まさか……!?

 悪そうな男達も少し驚いている。

「てめー、一人でやるって言うのか? おもしれー!」 

「気をつけろー! その人は正義のヒーローだ。悪党には容赦がねえ」

 ゲンが口に食べ物を一杯入れたまま、汁を飛ばしながら言った。
 どうやら、戦いに参加する気は無いらしい。
 女中さんは、椅子に座るとゲンの顔を見てポーッと赤くなっている。
 ゲンの顔は、女性的だが悪い顔ではない、むしろいい男だ。

「ゲン、その人を頼む」

「任せろ、お姉ちゃんには指一本触れさせねえ。あたりめえだ」

 どうやら、ゲンは女中さんの勇気ある行動が気に入ったようだ。
 まあ、ゲンが女中さんを守ってくれるなら安心だ。

「さて、誰から来るんだ?」

 俺は、店の中央にゆっくり進んだ。
 あまりの俺の余裕に、悪党達は怯んでいる。
 今日の俺は、ひと味違う。
 この数日、東北の放置自動車を大量に廃棄物処理をして、鉄分の補給が十分だ。
 さらに付け加えるなら、先日名古屋であずさから異世界の金属まで補給した。

 今の俺は、メタルアンナメーダーマンだ。
 俺は店の中央で、悪党達を手招きした。
 そして、ジャージを脱ごうとした。
 有名な格闘家のように、上半身裸になる為だ。

 ヘルメットが邪魔で脱げなかった。

「し、しまった!!」

 俺は両手が使えなくなった。

「やっちまえーーー!!!!!」

 男達が数人、刃物を前に出し襲いかかった。

 キンッ、キンッ

 刃物が俺の体を突き刺すことは無かった。
 柔らかそうなプックリ膨らんだ腹を刺した男の刃物は、パキンと折れて飛んで行った。

「な、なんだ、なんだ!! 何者だー! お前は?」

「アンナメーダーマン」

 俺は素早く、それはもう間髪入れずに早口で答えた。
 なぜなら、もったい付けるといつも邪魔が入るからだ。
 でも、今の俺の姿は、ジャージの上が両手にからみ、モゾモゾやっているしまらねえ格好だ。
 その上、早口だから。

「な、なんだって。ア、あんな、なんだって」

 聞き取れなかったようだ。
 やっと、ジャージが元に戻った。

「やれやれだぜ! 耳の穴を良くかっぽじって聞きゃあがれ!! アンナメーダーマンだ」

「プッ」

 男達が笑っている。
 聞き取れたようだが、あんまりかっこよく聞こえなかったようだ。
 だよなーー!!
 俺も、あんまり格好良くは無いと思っているんだ。

 じゃ、ねーーんだよ。
 俺が格好良くするんだ。
 世界一の美少女あずさが、格好良いと言ってくれたんだからな。

「今笑った奴、かかってこい」

「くそがーー!!」

 全員が、かかってきた。
 おいおい、全員かよー。
 俺は、一人ずつ胸に手のひらを合せた。

 悪党共は、声も出せずに吹き飛んだ。

「きゃあーーー!!」

 まわりの店から悲鳴が上がった。
 全員数メートル以上吹き飛び、まわりの店を壊した。
 迷惑なのは、お客さんだろう、楽しく食事をしているテーブルに人相の悪い男達が降ってきたのだから。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
「わあああああああああーーーーーーーー!!!!!」

 まわりから、歓声が上がった。
 こいつらは、結構嫌われていたようだ。
 俺は、ヘルメットのまま、ペコリと頭を下げた。

「アンナメーダーマーーーーン!!! あんた最高だぜーーー!!! うおおおおおおーーーー!!! アンナメーダーマーーーーン!!」

 ゲンの姿を探すとゲンは女中さんからバケツを借りて、熊男の頭の前にいた。

 ザーーッ

 熊男の頭にバケツの水をかけた。

「うおっ」

「気が付いたか熊男、てめーの仲間は全滅だ。てめーらのボスのところへ案内してもらおうか」

「へへっ、だれがするかーーー!!!」

 熊男が叫んだ。

「ぎゃーーっ!!」

 ゲンが熊男の腕を折った。左腕が肩で外れてしまったようだ。
 なんちゅー怪力だ。
 ゲンは無表情だ。
 熊男はゲンの顔を見て、何やらあきらめの表情をした。

「あんたら、やめた方がいいぜ。俺達のボスは血も涙もねえ。なめていると後悔することになるぜ」

 そう言うと苦痛に顔をゆがめながら、折れた左手をブラブラさせて立ち上がった。

「お姉ちゃん、迷惑をかけた」

 ゲンは、ポケットからいくつか札束を出すと、女中さんに渡した。

「こんなに……」

 女中さんは、目がウルウルしている。
 ああ、好きになっちゃったのかなあ。

「あそこに、立っているお姉ちゃん達にも配ってやってくれ」

 ゲンはゲンで、気にしていたようだ。

「は、はい!!」

 女中さんがもう、乙女になっちゃっているよ。
 意外と女の人ってわかりやすいなー。
 まあ、俺にこんな風になってくれる女性はいないから、関係ないけどな。

「兄弟、金っていうのはこうやって使うもんだ」

 ゲンは、俺が金を使っていないことを知っているようだ。
 そして気にしていてくれたようだ。

「ふっ、ゲン、金は持ちすぎると、持ってねえ者の気持ちが分からなくなる。俺は一生貧乏がいい」

「そうか。すまねえ。兄弟には兄弟の考えがあるんだな」

「ふふふ、謝ることはないさ。ゲンの気持ちはありがてー」

 熊男が俺達の顔を、見つめている。
 あ、あれか、モンスターが仲間になりたがっているって奴か。

「ひひひ、てめーら程度じゃ。ボスに殺されておしめえだよ」

 どうやら違ったようだ。
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