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第百三十三話 二人でお食事

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 外はすでに真っ暗だった。
 時間的には十九時位だと思うのだが、深夜のように感じる。
 ゲンは俺の前をどんどん進み地下鉄の駅についた。
 ここには、白い光が有り、とても明るい。

 階段も、丁度良いくらいに照らされて、安全を考慮されている。
 誰がこれをやったんだと、驚いてしまう。
 はい、俺です。俺がやりました。
 地下鉄に乗り仙台駅に着くと表通りには、すでに人通りはない。

 だが、一本路地を入ると、オレンジの光がある。
 照明用の火の明かりだ。
 どうやら、酒を飲むバーがあるようだ。
 また、道路にテントを立てて屋台もある。
 表通りには、人がいないが、こちらは結構人がいる。

「兄弟、そこに座ろう」

 一軒の屋台の、飯屋の空いている席に座った。
 その瞬間、他の席の客の視線が俺達に集った。
 うえっ、どいつも、こいつも人相が悪い。
 ゲンの奴、わざとこんな店を選んだのか。

 視線を移すと、もっと明るい感じの店もある。
 ここは、駄目な店だろう。
 例えるなら、昔見た西部劇の悪党の集る店のようだ。
 だいぶ慣れたけど、やっぱこえーー!!
 思わず下を向いてしまった。

「ふふふ、兄弟はおもしれーー!!」

 俺が怖がって下を向くとゲンの笑い声だ。
 笑っているのかと顔を見たら、いつも通りの無表情だ。
 やっぱ、ゲンが一番こえーー!
 目が真っ黒で、まるで吸い込まれそうだ。
 深い深い穴のような闇がある。

 ゲンの顔が直視出来ないので、あたりを良く見ようと視線を移したら、ビルの影に女性が立っている。

「女性がいるなあ」

 思わず口に出た。

「見てくれ」

 ゲンはテーブルの上に、万札の束を無造作に乗せた。
 百万円位ある。
 こ、こんな所で出したら、目立って狙われるんじゃねえのー。

「これが、どうしたんだ」

「ここも金が使える」

「……」

 はーーっ、それだけ。
 何か続けて言うのかと思って、少し無言で待ったのに何も言わねえ。
 何が言いたいんだ。
 流れ的には、女性が立っている。
 ここには金がある。

 はー、なるほど、あの女性は、お金を稼ごうとしていると言う事か。
 わかりずれー。

「ゲン、娼婦についてはどう考える」

「俺は、仕方がねえ事だと考えている。自分の意志でやっているのなら仕方がねえ」

「やらされているなら、許さねえと言うことか」

「そうだ」

「ここにいるのか」

「ふっ、うじゃ、うじゃいる」

「はーーっ、来るんじゃ無かった」

 心底そう思った。

「お客さん、注文は」

 お店の女中さんが注文を取りに来てくれた。
 気の強そうな女性だ。
 眉間に深いしわが有り、苦労してきた人生を物語っているようだ。

「これで、四品作ってくれ」

 ゲンは、テーブルの万札から数枚取り、女中に渡した。

「……あんた達、今すぐ逃げな……」

 女中が、ゲンと俺の耳にしか聞き取れないように、小声でささやいた。

「おいおい!!」

「きゃーー、いたい、いたい!!」

 隣の席から、髭づらの熊のような体のでかい男と、その部下の男が四人で俺達の席を囲んだ。
 熊男は女中さんの腕をねじり上げている。

「このアマ、余計な事をしてんじゃねえよ! 聞こえているんだよ!!」

 そう言うと部下の男に、あごで指示をした。
 部下の痩せた目つきの悪い男が、手に飲みかけのコップを二つ持って来た。
 そのコップを、ゲンと俺の前に置いた。

「へへへっ」

 痩せ男は、コップを置くと気持ちの悪い笑い声を上げた。
 その姿を見ると、気の弱そうな店主が、調理場でしゃがんだのか、姿が見えなくなった。
 嫌な予感しかしねえ。

「ふふふ、お代はこれで勘弁しといてやるぜ」

 札束の半分を取り、ポケットにねじ込んだ。
 それを見て、ゲンが立ち上がった。

「……」

 無言で、熊男の顔を見た。
 熊男は全くひるむ様子も無く、ニヤニヤしている。

「どうした、おばちゃん坊や」

 ひゃーー、何てことを言うんだ。
 た、確かにゲンは、天然パーマで髪の毛が近所のおばさんみたいだ。
 しかも唇が、赤い。口紅を付けているようだ。
 顔もどことなく女性に近い童顔だ。
 身長も百六十センチ後半、そこまで高くない。

 だからって、おばちゃん坊やは、あかんだろーー。
 うわーー、ゲンの目が、いつもより余計に暗くなっている。

「お姉ちゃんの手を離してもらえませんか」

 ゲンの口から思わぬ一言が出た。
 女中さんが驚いた顔をして俺を見てきた。
 俺が小さくうなずいて、話しを合せるようにと思いを込めた。
 女中も分かってくれたみたいで、少しうなずいた。

「何だ、てめーらは、姉弟だったのか」

 そう言うと、熊男は手を離した。
 次の瞬間熊男の体が、こんにゃくになり、隣のテーブルを破壊し地べたに転がった。

 転がった熊男のポケットから金を取り出すと、目の前の金とを合せて女中さんに渡した。

「修理代と、チップだ。少々暴れさせてもらう」

 ゲンは、棒立ちになっている、熊男の手下を次々殴り倒した。

「てめーー、俺達が誰だか分かっているのかー!!!」

 別のテーブルの客が全員立ち上がった。
 どうやら、熊男の仲間でこの店は貸し切りだったようだ。
 男達は、ポケットから武器を取り出した。
 だが、その武器は刃物で、拳銃は一人もいなかった。

「やれやれだぜ!」

 俺も、見ているだけとはいかなくなり、黒いヘルメットと、黒いジャージを身につけた。
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