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第百三十一話 マグロ祭りの始まり

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 ゲンは、焦ることも無く、表情を変えず拳を振った。

 ゴッ!!

 まるで、猛スピードで岩にぶつかった時のような音がした。
 眼帯男の攻撃より遅く動いたはずなのだが、眼帯男の拳がまだ、半分も伸びきっていないうちにゲンの拳が当たっていた。

 拳が当たった眼帯男は、当たった瞬間に意識が吹き飛んだのか、体がこんにゃくのようにグニャグニャになった。
 それは、まるで体から骨を抜き取ったようにも見える。
 人型のこんにゃくになった眼帯男は、グニャグニャしながら回転し、地面で二度バウンドして着地した。

 眼帯男の顔は、ゲンの拳が当たった所に、大きな裂け目が出来ていて血が噴き出している。

「わあああああああーーーーーー!!!!」

 この状況を見て、ゲン一家から歓声が上がった。

「一撃かー、すげーなー!!」

 俺は、独り言の様につぶやいた。
 ゲンは倒れている眼帯男の枕元に近より座り込んだ。

「なあ、兄弟。息を吹き返したら、全員逃がしてやろうと思う、それでいいか」

「ゲンがやりたいようにやってくれ、俺は信頼している。それより機動偵察陸鎧は、戦闘用じゃねえ。偵察用だ。弱いから戦闘にはむかねえ」

 ゲンの横に座り込んだ。
 直接地面に座るなど久しぶりだ。
 たいてい、コンクリートかアスファルトだ。
 少し柔らかくてひんやりして気持ちが良い。

「兄弟! 今日の戦いを見ただろう。戦闘でも十分使えるさ。それに量産するには鉄製じゃ無いと無理なんだろう?」

「ふむ、機動陸鎧の質量で天夕改を量産すれば材料がすぐに枯渇するな」

「じゃあ、あれでいい。十分戦える。鉄ならいくらでもあるのだろう」

「ふむ」

「恐らく決戦は、仙台だ。こいつらの本拠地が仙台だからな。次いでに機動偵察陸鎧をもう五百体作って貰うかな」

「ふむ、わかった」

 すでに眼帯男は意識を取り戻しているように感じる。
 だが、失神したふりをしているようだ。
 ゲンも気が付いているはずだが、気にせず話しを続けるようだ。

「仙台では、こいつらの戦力は三倍以上になると想定している。今までは不殺で戦ってきたが、仙台ではそうはいかないだろう」

「なるほどな。だが、俺は言っているだろう。不殺を心がけてくれと。それは、無理な場合はしょうがねえということだ。どうしても木田家が嫌なら日本から出て行くか、戦って死んで行くか、それは、敵の判断に任せていい。仙台では、機動偵察陸鎧千体でアダマンタイト製ブレードを使い戦ってくれ。但し市民には武力の使用は禁止だ」

「ふふふ、恐らく向ってくる兵士は皆殺しにしてしまうぜ」

 相変わらずゲンは、笑っているのに表情は変わらない。
 どこに感情を落としてきてしまったのだろう。
 あずさのように治ると良いのだが。

「なんで、こいつらは、ここまで抵抗するんだ」

「そりゃあ兄弟、天辺に立って良い思いをしたんだ。失いたくないだろうさ」

「そうなのか。俺はこの国が復興したら、底辺にもどって、あずさの子供をかわいがりながら、家でゲームがしたいのだけどなー。ゲンは何がしたいんだ」

「俺は、悪いことをする奴が許せねえ。そいつらをぶち殺すことだな」

「じゃあ、ゲンは警察庁、いや警察省の大臣をやってもらおう。最前線で悪人をぶち殺す大臣だ。きっと犯罪が減って市民が暮らしやすくなる」

「ふふふ」

 俺とゲンが笑っていると、眼帯男は、さも今気が付いた様に振る舞った。

「あの、ロボットが弱いだと……」

「おう、気が付いたか。もう帰って良いぞ。だが、次からは戦争だ。兄弟の許可を取った。覚悟を決めてかかってこい」

「ま、待ってくれ……」

「んっ、どうした」

「こ、降参だ。たいまんで負けたんだ。もう何も言う事がねえ」

「この伊達正男、木田家の軍門に降ります」

 この男は、伊達政宗を名乗らないらしい。
 たぶん、恐れ多いのだろうな。「だてまさお」と名乗った。

「その眼帯は目が悪いのか」

「いえ、両目とも健全です。伊達眼帯です」

 眼帯を外すと両目をパチクリした。
 ライオンの様な顔のくせに、目はまつげが長くてかわいい。

「終ったようね」

 ミサが突然目の前に現れた。

「うおーーっ、な、な、な、なんですかこの美女は、天女様ですか」

 独眼竜が眼帯を付け治し、叫んだ。

「まあ」

 そういって、体をしならせ、頬を赤らめて両手で顔をおおった。
 可愛い女のしぐさだ。
 俺まで可愛いと思ってしまった。

「なあ、独眼竜さんよ。こんなに簡単に降参しても良かったのか。ゲンは仙台での決戦を覚悟しているぞ」

 俺は言った。

「あのー……」

 俺がなにものかという顔をしている。

「……」

 ミサが独眼竜の耳に口を近づけて、俺の事を話した。
 平伏しようとしたので、それはあわてて止めた。

「簡単に降伏したのではありません。これまで六度戦い、六度敗戦し六度逃がされました。その戦いにおいて、我軍は一人も死者が出ませんでした。なんたる幸運かと思っていましたが、生かされていたと、今知りました。今回の戦いで、弾薬は底をつき、仙台では手作りの武器でたたかう事になります。人数はいますが、それが何になるというのでしょうか。とても勝ち目はありません。降伏は当たり前の事です」

 ゲンは、この返事を引き出す為、俺との会話を聞かせたようだ。

「ふむ、わかった。伊達家を木田家の末席に加えることを許す。ところで、独眼竜、東北の米の収穫はめどが立っているのか」

「いえ、残念ながら。全部の収穫はあきらめています」

「良し、ならばそれは、俺にまかせてくれ。ミサ忙しくなるぞ米の収穫だ」

「えーーーっ、宴会はしないのー」

「俺達は無しだろう。少しのぞいただけだからな。ゲン、木田本社へ使者を出して、仙台でマグロ祭りを開いてくれ」

「おう、分かった。仙台の人が喜ぶぜ」

「ガッカリだぜ!!」

 ミサがつぶやいた。
 かわいそうなので、仙台の祭りには参加しようと思う。
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