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第百二十六話 巫女さんの名演技

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「ミサ、柳川を連れてきてくれ」

 巫女さんは、鼻を指で押し上げて言いました。
 きっと、とうさんが言ったのですね。

「教祖様に豚が豚のくせに命令しました」

 指を鼻から離して言いました。
 あーこの子、とうさんに強い悪意を持っていますね。

「しばらく、豚が地図を見ていると、鋭い目つきの恐ろしい男を教祖様が連れてきました。あれは、人殺しです。インテリぶってメガネをかけていましたが、あれは悪党です」

 柳川さん、言われていますよーー。

「柳川、関東から遠江までの収穫は終った。三河は、教団がやっているから、次は、尾張と美濃だ」

 鼻を指で押し上げて言いました。

「チラッっと悪党メガネが私を見ました」

 あー柳川さんが、巫女さんを見たのね。
 とうさんをどう呼ぼうか考えたのだわ。

「大田さん、越中、越後の勢力は我らの敵となりました。また東北も敵対しています。この際、こいつらの米もこっちで収穫してしまいましょう」

 柳川さんは、とうさんを木田さんではなく大田さんと呼ぶ事にしたみたいです。
 巫女さんは、柳川さんが話す時は指で目尻を押し上げて、吊り目にします。
 なんだか、とてもわかりやすいです。

「そ、それは、少し酷いのではないですか」

 巫女さんは胸の前に手をやって、素早く上下します。
 まるで大きな胸がユサユサ揺れているように見えます。
 あー、これはミサさんが言ったんだわ。
 わかりやすい。
 でも、大事な教祖様をその表現で良いのかしら?

「いえ、そんなことはありません。そこにある稲は、敵対勢力が植えた物ではないはずです。それに今のこのご時世、収穫することが出来ないかもしれません。それだと全てが無駄になります」

 巫女さんは吊り目にしています。

「うむ、その通りだな」

 巫女さんは鼻を押し上げます。

「そうです。そして収穫したら、春には田植えをしないといけません。来年以降も収穫出来るようにしないと、いずれ来るのは飢餓です」

 今度は吊り目です。

「ふむ、春までに勢力圏にしないといけないということか」

 豚鼻です。

「そうです」

 吊り目です。

「ならば、先に東北と越後、越中か。……いや、まずはあずさに会わないといけない」

 豚鼻です。

「なぜですか」

 吊り目です。

「うむ、そろそろ、アダマンタイトとミスリルが無くなってきた。まあそれは、口実か。単純に会いたいのだ。世界一かわいい娘に」

 まあ、とうさんたら。
 巫女さんは、豚鼻にしていますが、ここまで来ると、それをやらなくても誰が言っているのか分かるようになりました。

「ふふふ、まあ、そのくらいなら良いのではありませんか。どうせ敵対勢力達は稲刈りに、時間がかかるはずですからね」

 恐らく、道具も機械も無く手作業で稲刈りをする。
 そんな事を柳川さんは考えているみたいです。

「柳川、さしあたって、どちらに俺は援軍に行けばいいのだろうか」

「ふふふ、援軍は送らず、ゲン一家の腕前を高みの見物で良いかと思います」

「そ、そうか。心配だなー」

「ふふふ、じゃあ、次は名古屋でいいのですね」

 ここで巫女さんは、これでもかという位胸の前で手を上下させました。
 いやいや、今の一言で、いくらミサさんの胸でもそんなに揺れないでしょう。

「というような、やりとりがありました」

「す、すごいです。とてもよくわかりました」

「ふふふ、まあ、この位はすぐに憶えられます。言っている意味がよくわからないだけです」

 でしょうね。きっと、あずさが誰かもわからないのでしょうね。
 でも、この話から推理すると、とうさんは、この忙しい中すでに名古屋にいると言う事になります。
 急いで帰らないと……。

「巫女さん、ありがとうございました。私は帰ります。クザン帰りますよ」

 私はそう言うと、お屋敷を飛び出しました。
 そして、巫女さんから私達が見えなくなるのを確認して、名古屋へ移動魔法で移動しました。



 私は、名古屋城の城内入り口の前に移動して、天守を目指します。
 一目散に天守を目指し駆け上がります。
 一応いなかった時の為に、私の姿を皆に印象づけしておきました。
 こうすれば、天守にとうさんがいなかったら、とうさんに誰かがあずき様が天守に行かれましたと、伝えてくれるはずです。

「とうさーーん」

「あずさ! いったいどこに行っていたんだ?」

 し、しまったー。
 とうさんに会いた過ぎて、忘れていました。
 子供が何日も家を抜け出していたら、普通心配して怒りますよね。
 でも、私のダッシュは止まりません。
 仕方が無いので、とうさんを通り越して隣に立っているミサさんに飛びつきました。

 ミサさんの大きな胸の谷間に顔が埋まります。
 なんだかガサガサする物が、口に入ってきました。
 ミサさんの胸から顔を引き抜くと、私はあの地図をくわえていました。

 ――わーーっ! 汚ーい!!

 とうさんのよだれの付いた地図です。
 でも、汚いと言うと色々、傷つけそうです。
 言うのは我慢しました。

「ご、ごめんなさい」

 私は、瞬時に嬉しい気分が吹き飛びました。
 そして、涙が目に浮かびます。
 とうさんが一生懸命働いている時に、遊び気分で浮かれていました。
 どうしたら良いのでしょうか。
 十分反省しています。
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