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第百三話 伏兵

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「あーーーっ!!!」

「どうなされました?」

 東が心配そうに聞いて来た。

「う、うむ。熱田の親分のけがを治すのを忘れてしまった」

「はぁーーっ、そんなことはどうでも良いではありませんか」

「どうでも良くはない。万が一感染症にでもかかったりしては、かわいそうだ。クザン追いかけて、眠ったらその場所を教えてくれ。眠っているうちに、こっそり治してやろう」

「ふふふっ」

 東と榎本と加藤が微妙な顔をして笑っている。

「あーーーーっ!!!!」

「こ、今度は何ですか」

 東の顔がだんだん疲れた家老の顔に見えてきた。
 そう言えば、少し「東はち○う」に似ている気がする。

「まだ、名古屋城にはいっていねえ。加藤案内をしてくれ」

 俺は色々ありすぎて目の前の、尾張名古屋は城でもつの名城、名古屋城の中に入っていねー!

「はっ、ですが汚れていますよ」

「なっ、なにーーーっ」

 い、いいじゃねえか。
 ゴミ屋敷のように汚い方が俺は喜んじゃうぞ。このやろーー!!

「こちらへ」

 加藤は俺を先導して名古屋城に案内してくれた。

「なっ、なんだこれはーーっ!!!」

「ど、どうなされました」

「き、綺麗じゃねえか」

「はい、城は一応掃除しています」

 一応なんてもんじゃねえ。しっかりやってあるじゃねえか。
 あれかーー。
 お土産を持って来てつまらない物ですが、とか、粗茶ですが、とかいう、謙遜とかいうやつかー。
 いらねーーんだよ! そんな事は!!
 俺のこの、がつーーんと喜んでしまった気持ちはどこへ持って行けば良いんだよ。

「ちり一つ無いんだね」

「はっ、恐縮です」

 褒めてないんだけどね。
 むしろゴミ屋敷の方が俺は喜んだんだけどね。

「すごーーい」

 いつの間についてきたのか、あずさが最上階からの景色を見て喜んでいる。
 最初に北を見た。この高さからだとあまり農地は分からない。
 遠くに美濃の山が見える。
 あのどこかが金華山で、岐阜城があるのだろう。

 所々に見える巨大なビルが、かつての人間の繁栄を物語っている。
 今ではその全てが廃墟だ。

「みてーー!!」

 あずさの指の先には、白い丸い物が見える。
 名古屋ドームだ。なんか別の名前もあったきがする。
 はしゃぐあずさとは裏腹に、俺の心は重く沈んでいった。

「榎本と加藤そして東、明日から名古屋の生き残りを探してくれ、その後は、名古屋北部、そして知多半島だ。美濃の様子も知りたい。三人で手分けをして、担当してくれ」

「はっ」

「いっぱい、生き残りがいてくれるといいなあ」

「……」

 三人は、返事をせず俺の豚顔を黙って見ている。





 その頃、真田と北条の連合軍は甲斐で中央道に入り、長野自動車道を通り、塩尻のインターチェンジの手前のパーキングエリアで野営を準備していた。
 真田が手勢三百人を連れ、北条は四百人で行軍している。
 七百人は少ないと北条が言ったのだが、柳川がそれで十分と人数を決めたようだ。

「まだ、食事は始まっていませんね。間に合って良かった」

「おお! 柳川殿」

 柳川はUFOから降りてくると、格納庫を開いた。

「北条さん、大殿からの差し入れです」

「こ、これはすき焼きですか」

「そうです。栄養をつけてくれとの事です。それともう一つ。伊藤さんこちらへ」

 言われてUFOから降りてきたのは、サイコ伊藤とその部下九人だった。

「私は伊藤と申します。よろしくお願いします」

 伊藤が、丁寧に頭を下げてあいさつをする。
 この姿からは、浜松にいた時の悪党の姿は、まるで想像出来なかった。
 物腰の柔らかい紳士のようである。

「真田です」

「俺は北条だ」

「北条さん、この伊藤さんは大殿が言うには千人力だそうです。手柄を上げさせてやってくれとのお言葉です」

「ほう、たのもしい。明日にでも手柄を上げてもらいましょう」

「という事は」

「ええ、物見の話しでは、塩尻インターチェンジの先で、陣をひいています。向こうもこっちの事は、分かっているようで七百人で橋の向こうで待ち構え、俺達を橋の上で討ち取るつもりです」

「そうですか」

「まあ、心配は無いと思いますが、気を付けて下さい。吉報をお待ちしています」

 柳川は夕食の片付けが終ると引き上げた。

 翌朝、朝食を済ますと、真田北条の連合軍はすぐに行軍を始めた。
 塩尻のインターチェンジを降りると北条は全軍の足を止めた。
 橋の向こうに、信濃松本衆の姿が見える。

 全軍の最後尾で、真田と北条と伊藤が状況を確認している。
 敵は、橋を渡った所で銃を構え、橋の上に来た連合軍を十字砲火で殲滅するつもりで待ち構えているようだ。

「では、先鋒は我ら真田が承ります。大殿の重装歩兵がどんな物か確認させてもらいます」

 そう言うと真田が、専用機動戦闘鎧天夕改に入り、真田隊に合流した。
 真田隊は、三百の重装歩兵である。
 赤いオリハルコン製の重装歩兵と天夕改が集まると真っ赤な集団が出来上がった。

「いいかー、敵の銃弾が雨のように発射される。念の為ブレードを胸の前に立て体を守りながら敵軍に突っ込む」

 黒いブレードは、アダマンタイト製で幅が広い。
 中央に構えればブレードが頭と心臓の銃弾をはじき返す、それ以外の場所で鎧に銃弾が当たり、鎧を貫通しても致命傷は免れると真田は考えていた。

「よし、……」

 真田隊三百人がブレードを体の前に立て準備を完了した。
 真田は、銃弾が雨のように飛んで来る所へ突っ込む事に緊張を感じていた。
 冷たい汗が、頬をつるんと流れた。

「真田隊! 突撃ーー!!!」

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

 三百人が雄叫びを上げた。
 橋まで二百メートルというところで、国道の横の茂みから敵の伏兵が立ち上がった。
 その数三百。一斉に発砲した。

 パパパパパパッ

「なっ!!!」

 突然の横からの銃撃に、真田隊は全く対応出来なかった。
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