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第九十七話 久々の激豚登場

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「竹田、あんたは何で俺が食い物を出したのを知っていたんだ」

「それは、あっているのかどうかわからんが、深淵を覗くものは深淵からも覗かれる的な奴だ」

 少し使い方が違う気がするが、意味はわかる気がする。つまり竹田は、名古屋城をのぞく榎本を監視していたと言う事らしい。
 そして、榎本の目を盗んで、油断している栄一家を全滅させたのだろう。

「待てよ、それならあんたは、栄一家の全滅には参加していないんじゃ無いのか」

「行ってはいねーが、古屋一家がやった事は俺がやったのも一緒だ」

「そうか。直接はやっていねーのか」

 榎本が小さくつぶやいた。

「なあ、竹田。俺を古屋一家の親分さんに会わせてくれねーか」

「はあーっ!!」

 全員が箸を止めて驚いている。

「あんた、それは危険すぎるよ。死にに行くようなもんだ。やめておくれよ」

 凛が慌てている。

「でーじょーぶだ。もし、殺そうとするなら、一暴れさせてもらう。のんきに殺されやしねえ」

「ひゅーーっ、大田さん、しぶいねー。しゃーねー! 俺もお伴するぜ!!」

「榎本!! 大田さんじゃないよ馬鹿! 親分だ!! うふふ」

「はぁーーっ、ちょっと何を言っているのかわからねえが、俺とあずさとクザンの三人で行く。あんたらは足手まといだ、ここでじっとしていてくれ。万が一の時の為に少し食い物を置いて行く」

 俺はドサドサと米と保存のきく食糧を出した。

「本気なのか?」

 竹田も心配そうな顔をしている。

「ああ、案内を頼む」

「わかった。後悔しねーでくれよ」

 竹田がここまで心配すると言う事は、古屋という男は恐らくそういう男なのだろうな。
 こえー顔していたらどうしよう。
 少しビビっている。
 あずさがどんな顔をしているのか気になって見てみた。

 なーーっ。
 嬉しそうな顔をして、目をキラキラさせている。
 前世の魔王城というのは、相当すごいところだったのだろうか。
 まるで遊園地に遊びに行くような顔をしている。

 やれやれだぜ。

 あずさが俺の視線に気が付いて、こっちを見てきた。

「怖かったら、ここにいても……」

「私はとうさんを守ります。絶対に死なせません。魔王城のメイドとはそういうものです」

 あずさは、俺の言葉をさえぎり仮面をつけて、セーラー服からメイド服に着替えた。
 魔王城のメイドとは、いざとなったら魔王を守って戦うものらしい。
 遊園地に遊びに行くような顔では無くて、主人を守る事が出来るという顔だったようだ。

「うむ、よろしく頼む」

「はい! とうさん!!」

 あずさはわざわざ、凛の間に割り込んで俺の腕にしがみついた。

「じゃあ、行こうか」

 竹田が、行こうとする。

「もう、食事はいいのか」

「見てくれ,この腹を!!」

「ふふふ、じゃあ行こうか」

 竹田と手下四人の腹は、はち切れんばかりに膨らんでいる。
 命の限り食った。そんな感じがする。

 竹田達に案内されて、名古屋城の門まで来た。

「ここで、少し待ってくれ」

 竹田が、真剣な顔をして中に入っていった。
 一時間程の時間が立った。

「あずさ大丈夫か」

 俺は熱中症になっていないか心配になって、門の中からあずさに視線を移した。

「何?」

 こ、こいつ、涼しい顔して、右手にアイス、左手にスポーツドリンクを持っている。
 メイド服も脱いで、普通にスライム水着になっていやあがる。か、可愛いじゃねえか!
 門番が、驚いた顔をしてこっちをジロジロ見ている。
 そうか、さっき俺のポケットをごそごそしていたのは、アイスとドリンクを出していたのか。

「待たせたな。こっちだ」

「……」

 竹田じゃ無い手下が来て、散々待たせたくせにえらそうに指図する。
 少しムッとして、無言で顔を見てやった。

「うおっ!」

 驚いている。俺も目力がついたようだ。
 だが、案内の男の視線は俺を見ていなかった。
 あずさのアイスをじっと見つめている。
 どこからそんな物を的な感じだ。

 あずさは俺にアイスとドリンクをさしだした。
 仕方が無いのでそれを両手に受け取った。
 そして、あずさは俺のポケットをゴソゴソしてメイド服を取り出すと、それを身につけた。
 身につけ終るとアイスとドリンクを俺から取り上げて。

「行きましょう」

 涼しい顔をして言うと、スタスタ歩き出した。
 俺とクザンはあずさの後ろをついて行く形になった。
 門をくぐると、少しひらけた所に出た。
 そこに武装した男達が、五十人程立っている。
 俺達は当然その中央に立たされた。

「ぎゃあーーはっはっはっ! 鴨がネギを背負ってやって来るとは、この事か。俺も運が向いてきたと言う事か」

 頭がツルツル坊主の肥満した男が笑っている。
 目の下の涙袋がとてつもなくでかい。
 しかも、その涙袋の下に濃い太い影が落ちて、歌舞伎の隈取りのように見える。
 おっそろしい顔だ。

 しかも、この食糧不足の時に肥満とはどういうことだ。
 まあ、俺が言えた義理では無いのだが。

「私は大田大商店の……」

「うるせーー!! ぶたーーっ!! てめーはしゃべるな! この場が養豚場臭くなるわ! さっさとそのジャージを脱いでこっちに渡せ」

 くっ、くそーーっ!
 何なんだこいつ。
 ふと、目線を移すと、武装した男の先頭、ツルツル坊主の横に、リンチを受けたのかボロボロの竹田と手下の姿がある。

「やれやれだぜ」

 俺は、ジャージのズボンを脱いだ。
 久々の激豚の登場だ。
 そして、たいして恥ずかしくないけど、くねくねして恥ずかしそうにしてみた。

「てめーは馬鹿なのか! デブー!! 上着を渡せと言っているんだよー! 誰がテメーの臭くて汚ねーパンツを見せろと言ったんだ!! もっと言やー、ポケットを渡せって事だよ! このうすら馬鹿野郎!!」

 くそおおーー、デブとかうすら馬鹿とか、デブはてめーもだろーー!!
 と、心の中で叫んだ。
 だってあいつ、顔がこえーんだもん。
 俺は、上着を脱いで、ツルツル坊主の前に投げてやった。
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