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第八十九話 美しい下着姿の教祖様

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 大手通りを北に進むと、浜松城がある。
 どうやら、ミサの乗る輿は城を目指すようだ。
 大手通りは片側三車線の太い道だが、歩行者専用道路と化している。
 道には出店が出来ていて、食べ物を提供している。

 海が近いから、海産物の店が多い。
 だが、味付けは塩なのだろう、醤油や味噌の匂いはしない。

「とうさん、すごい人がいる」

 あずさが目を輝かせている。
 ここが、日本一の都市なのでは無いかと思う程の人の数だ。
 これが、全部ミサの信者なのか。すげー!

「坂本さん、水はいりませんか?」

 俺はミスリルの水筒をだした。
 食べ物や飲み物の店はあるが、俺達はここでの通貨を持っていない。
 文無しだ。
 ここの通貨も、今川家と同じで、日本銀行発行のお札に、独自の朱印を押した物を使用している。

「……」

 坂本さんが返事をしてくれない。
 あずさが俺をツンツンする。

「ほら、おかあさんだから」

 そうか、嫁だから坂本さんはおかしいという事か。
 嫁って何て呼ぶんだ。

「か、かあさん、ほら、水」

 坂本さんは、俺の顔を見ると水筒を受け取ってくれた。

「お、おいしい」

 坂本さんは、ゴクゴク喉をならして飲んだ。
 のどは乾いていたらしい。
 ミサの乗る輿は、駐車場の様なところを曲がると、木の多く生えている所へ入って行ってしまった。
 見送る人達もここで、せき止められた。

「おいデブ、ここから先は関係者だけだ」

 武装した兵士に止められた。
 俺はミサが心配で、必死で見ようとしたら、注意を受けてしまった。
 怪しまれるといけないのですぐに立ち去ろうとした。

「おい、お前!! ちょっと待て」

 別の兵士が近寄ってきた。
 しまった、怪しまれてしまったようだ。

「な、なな、なんでしょうか。俺達はあやしくありませんよ」

「はあーっはっはっはっ! それはあやしい奴が言う台詞だ。そちらの女性二人こっちを見てくれ」

 あずさと坂本さんが兵士の方を見た。

「うおっ、すげーべっぴんさんだなー。この二人はあんたの何なんだ」

「嫁と娘です!!」

 坂本さんが、兵士と俺の間に割り込んで返事をした。

「嫁!!」「娘!!」

 兵士がそれぞれ別々の返事をした。

「あんた、こんな豚のどこが良かったんだ。あんたほどの美人なら他にいい男が選びたい放題だろうに」

 よ、余計なお世話だ。

「お嬢ちゃんは良かったな。父親に似なくてよお。でもすげーなー、父親が豚でも、お母さんより美人じゃねえのか。神様の奇跡のようだ」

 あずさの顔に、見とれている。

「あんたら、気を付けな! 松平様に見つかったら大変だ!」

「おい!!」

 もう一人の兵士が、脇腹をつついた。
 どうやら、ここの殿様もあまり良い殿様ではなさそうだ。
 余計にミサが心配になった。

「あの、教祖様はどうなるのでしょうか」

「ああ、あの人かー。今日、祭りの目玉の公開処刑が行われる。その後は血がたぎるといって、いつも殿は女をほしがる。今晩のお相手になるのだろうな」

「そ、そうですか」

 俺は、聞きたい事や疑問が出来たが、それは本人から聞こうと思った。
 いったん、この場から離れた。
 表通りは人が大勢だが、路地を一本入ると、人はほとんどいない。
 そこで、あずさの移動魔法で、輿の見えていたところまで移動した。

 林の中に入ると、木陰に隠れ様子を見た。
 ミサの居場所はすぐに分かった。
 ミサのバリアがはられている場所があり、その中央に一軒の家がある。
 あずさの魔法で、家の玄関の前に移動した。

 ガラガラ

 玄関は空いていた。
 俺達は靴を脱ぎふすまをあけた。
 そこには広い和室があった。

「ぶっそうだな、鍵も掛けずにどうやら一人みたいだ」

「うふふ、私のバリアを抜けて入り込める人なんか、あなた達くらいですもの」

 別のふすまが開き、ミサが入ってきた。
 ミサは、白い下着姿のままタオルで髪を拭きながら入ってきた。
 相変わらずの美女ッぷりだ。
 まるで、フージコちゃーんだ。

 露出した胸の谷間から、名刺を出して渡してきた。
 良く見ると、四つに折りたたんだあの写真も挟まっている。
 いつも持ち歩いているのかよー。

 名刺には、天地海山教 教祖天地海山と書いてある。

「あまちみさきょう、きょうそあまちみさ」

「違うわ。てんちかいざんきょう、と読むのよ。私が教祖になる為名前を変えたの」

「ミサさん! ひっさしぶりー」

 あずさが下着姿のミサに抱きついた。
 お、俺もやっちゃおうかなー。

「駄目です!!」

 坂本さんにたしなめられた。
 なんでわかったのー。

「なあ、ミサいろいろ聞きたい事があるのだけどいいか」

「いいわよ。何でも聞いて」

 ここまで、話した感じはいつも通りの様に感じる。

「なんで、ここにいるんだ」

「あ、あ、あん、あんたが、来るのが遅いからでしょーーう!!!」

 あーだめだ、やっぱり怒っていました。
 そんな気がしていました。

「なにが、あったのですか」

 坂本さんが、心配そうに聞いてくれた。

「うふふふ、遠江は、うちの信者が多いの。隕石騒ぎの時、隕石は落ちないと私が予言をして、それが正しかった事から、豊橋周辺から信者が増えました。それで浜松もほとんどの人が信者です。その信者を松平の殿様に人質に取られました」

「人質に取られた?」

「はい、俺のいう事を聞かなければ、布教の禁止、信者を弾圧すると言われました。恐らく今日、私は松平のものになるのでしょう」

「なっ、なんだってー! ミサはそれでいいのかー!!」

「……」

 ミサはだまって、俺の顔を見つめた。
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