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第八十七話 厄介ごとの予感

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「また、始めるのですか? 変態研究」

 柳川が気付いて外に出てきたようだ。

「まあね、さっきの耳打ちで信州攻略を頼んだ。その時俺は、真田に不殺を頼んだんだ。頼んだ以上、真田一家に死人が出ないようにするのは木田家当主の義務だ。武器と防具一式を与えようと思う」

 俺はオリハルコンのフルプレートの鎧を出した。
 真田一家という事で色を赤にしたかったからだ。
 装甲は、十ミリ。総重量は四百キロを超えていそうだ。
 付与魔法は、防御だ。これで戦車の砲撃にも耐えられると思う。

「これは、装着するとさすがに動けないですね」

「ふふふ、ゴーレム化してある。機動陸鎧の簡易型という感じだ」

 俺は、柳川にキーを渡した。ミスリル製で空調機能を持たせた鎧の主人を特定する鍵だ。

「では、そのままでも動くのですね」

「うむ。そして装着の合い言葉はーー……」

「オイサスト!」

 キーを持ち、柳川が装着の合言葉を言った。
 鎧が前後にパカッと開いた。

「柳川そのままストップ、続きは中に入ってからだ」

 柳川が鎧の背中側に足を乗せ、股の所にある骨盤に座るような形になった。そして、腕を合わせ、頭も体も完全にはめ込む。

「シュヴァイン!!」

 鎧の前後が合わさった。

「おおおおーーー!! 軽い、そして体力もいらない!!」

 柳川が前後左右に動き、空まで飛んだ。

「そして、これが、専用のオリハルコンブレードだ」

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

 柳川が、楽しそうにブレードを鞘から抜くと、ブンブン振り回す。

「どうかな、これで清水の熊ガッパには勝てると思うのだが」

「勝てますね。数倍強いかもしれません」

「左肩には旗が装着出来る様にホルダーもつけた。真田の六文銭をはためかせる事が出来る」

「至れり尽くせりですね」

「だが、質量的に機動陸鎧よりは、はるかに弱い。あくまでも重装タイプの鎧という位置づけだ」

「オイサスト!」

 柳川が動きを止め、合言葉を言って中から降りてきた。

「シュヴァイン!!」

 割れていた体が一つになる。

「柳川専用鎧、こっちへ来い!」

 柳川が少し離れて、鎧を呼んだ。
 ミスリルのキーが輝き。
 赤い鎧が、柳川の正面に移動した。

「はぁぁぁーーーー!!! 素晴らしい。デザインといい、性能といい申し分ありません」

 頬を紅潮させ鼻息をフンスカやっている柳川を見ると、返せとは言えなくなった。

「やれやれだぜ」

「これだから、大田さんのお伴はやめられません」

 俺は、黙々と三百人分の鎧をだした。
 鎧は、領と数えるのだが、俺は基本ゴーレムを人か体と数える。
 やはり、この鎧は体がいいのかな。

「後は、予備に二十体作って、殿様専用機として、機動陸鎧だな。何がいいと思う?」

「やはり天夕改でしょうね」

「本当は蒼天がいいと思うのだけど、やはり天夕改か」

 機動陸鎧は攻撃特化の赤い「天夕改」、防御特化の青い「蒼天」がある。
 色で合わせるのなら、天夕改なのだが、それでは防御が弱いと思い悩んでいるのだ。

 結局、柳川の言う通り天夕改を作った。
 三百二十体の鎧を駐車場に並べ、横にブレードを置き、右手の人差し指に専用キーをぶら下げた。

「すごい景色ですね」

 ここまで終ると夜が明け、朝日に鎧が反射し、赤みが増して神々しく光り出した。

「うわあ、な、何ですかこれは」

 真田が起きて来て驚いている。

「柳川、甲斐をしばらく面倒見てやってくれ。俺は遠江の偵察の為駿河の大田大商店に帰る。じゃあな、後は頼んだぞ」

 柳川なら、万事うまくやってくれるはずだ。

「はい、わかりました」

 返事を確認して、クザンを連れて安心して駿河を目指した。



「とーさーーん!!」

 駿河の大田大商店の扉を入るとあずさが駆け寄って来た。
 ふふふ、俺はだまされんぞ、そのままクザンだろ。
 と思ったら、俺に飛びついて来た。

「ゲフッ」

 俺は、強烈なタックルを受けて尻餅をついた。
 おいおい、今の俺は、象の突進でも尻餅はつかんぞ。
 おかげで、あずさを抱えたまま、尻餅をついたものだから、あずさの短いスカートの中身がむき出しになっている。
 可愛いスライムが丸見えだ。

「あっ、やっちゃった。ごめんなさい。力加減を間違えました。とうさんでよかった。えへへ」

 頭をポリポリかいている。
 かわいい、可愛いけどお前、力に可愛げがねー。

「や、やっちゃったって、お前……」

「大丈夫、普段は慎重に行動しています。今日は嬉しくってやっちゃいました」

 頭コツンからのテヘペロだーーー!!!
 しかもお尻丸出し、何のご褒美だよ。

「あー、あずさ、どいてくれるかな」

「うん、今日はね、坂本さんが来ています。とうさんの帰りを待っていたのですよ」

 机に坂本さんと愛美ちゃんの姿があった。
 坂本さんにいつもの明るさが無い。
 俺は、坂本さんの前に近づいた。
 なにか、厄介ごとかなあ。
 俺が近づくと、席を立とうとしたので、それを手で制して、椅子に腰掛けた。

 机には当然ヒマリとアメリちゃん、はるさんも座っている。
 シュラは、はるさんの後ろで美しいメイド姿で凜と立っている。
 古賀さんが、ヒマリちゃんの後ろで美しいメイド姿で凜と立っている。
 良く見ると、愛美ちゃんもヒマリ、アメリちゃん、はるさんもメイド姿だ。
 どこのメイド喫茶だよ!

 坂本さんだけは、いつものスーツ姿だ。
 真面目な堅物っぷりがいい。

「どうしました」

「はい、あのーー……」

 うむ、言いにくそうだ。
 どんな厄介ごとだろう。
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