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第三十四話 激豚メイル

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「あずさ、見てくれ」

 あずさちゃんにだけ見せて、こちらには見せてくれません。
 ひょっとしたら集中しすぎて、私達に気が付いていないのかもしれません。

「なんですか、これは?」

「これは、ずいぶん前にカップ麺に付いていたおまけだよ。紅い彗星のシャマの乗っていたロボットさ」

「ロボット?」

「これは、すごいんだパーツが少ないくせに、腕も足も関節が動くんだ」

「わーすごーい」

 そう言っていますが、あずさちゃんの目は死んでいますよー。

「だろーー!!」

 あの人は嬉しそうですが、あずさちゃんは合わせているだけですよ。
 全く気が付いていませんね。そんな男はもてません、絶対に!
 あの人はお構いなしに、何かごそごそしています。
 どうやら分解しているようです。

「これを、こうして。うりゃーー!!」

 ガラン、ガラン

 ミスリル製の部品の様な物が出てきました。
 それを、あの人は手を変形させて、組み上げます。

「うおおおーー!! すげーーー!!」

 四メートル弱くらいの、ロボットの模型が出来上がりました。
 見ている全員から歓声が上がりました。

 ――あー、すごいわ

 私でも、なんだかすごいと思えます。
 ミスリルの美しい青色に包まれた模型は、とてもかっこいいと思います。

「ふふふ、形はだいぶ、鎧よりにデザインを変更した。俺はこれでも美術は四だったんだ」

 さりげなくどうでもいい情報を入れています。
 美術なんて、たいてい誰でも四か五ですよね。

「とうさん、これをどうするのですか?」

「これに、あずさの魔力を付与して、バリアの発生装置にしようと思う。本当は乗って動かしたいけど、そこまでは無理だから……」

「出来ますよ」

 おーい、娘さんが出来るっていっているよー。

「……形だけの模型と言う事になる。でもお飾りでもバリアが張れれば上等だろ……。えっ! あずさなんて?」

 気が付くのおっそ。

「出来ますよ」

「はーーーっ。なんだってーー」

「くすくす、魔法にはゴーレムを作る魔法があります。それを使えば、魔法適性の高い、ミスリルやオリハルコンは、ゴーレムに出来ます」

「大変じゃ無いのか? あずさがけがをしないなら頼みたい」

「たやすいご用ですよ。ハイ。終りました」

「えーーっ!! はっやっ!」

「ゴーレムになったので、指もちゃんと動きますよ」

「一応、二人乗りで乗れるようにしてあるのだが、乗って動かす事も出来るのか」

「出来ます」

 あの人が嬉しそうな顔をして乗り込んでいます。

「うおーーー動いたーー!!」

 また、見ている人達から歓声が上がります。私も少し感動しています。
 でも、あの人はしょぼくれた顔をして降りてきました。
 何があったのでしょうか?

「やっぱり、ロボットは乗るより動くところを外で見てみたい」

 台無しだ。私の感動をかえせーー。

「あずさ、この機体にバリアを張れるように出来るかな」

「出来ますよ。ミスリルなのでもう一つ魔法を付与できます」

「じゃあ、水魔法を付与したい。出来るか」

「はい、出来ますが、その前に魔石をセット出来る場所を作って下さい」

「魔石?」

「はい、モンスターを倒した時に出る石なのですが、高い魔力がたまっていますので、それを魔法の原動力にします」

「なるほど、魔法の燃料だな。ちょっと待ってくれ、もう一度作り直す」

 今度は、完成した形で出て来ました。

「ここと、ここにセット出来る様にした。ミスリルの剣とオリハルコンの剣を装備した。武装も完璧だ」

 腰のあたりにくぼみが出来ている。
 そこにあずさちゃんが魔石をセットしました。
 魔石が光り出し、機体に何本かのラインが浮かび上がり輝いた。
 なんだか、ただの金属の塊から生命が宿ったように変化を感じます。

「すごいですね。じゃあ、ゴーレム化と結界魔法、水魔法を付与します。……はい、出来上がりました」

 相変わらず速い。

「よし、これを皇居の守備隊の兵士にあげようと思う」

 そうか、バリアを張れれば、防衛が楽になる。それに水魔法で水を出せれば給水車も不要になる。
 相変わらず、他人に対する配慮はすごい。

「じつは、この機体のミスリル鋼には炭素を含有させた。つまりミスリル炭素鋼なんだ。わかるか、あずさ」

「えっ!?」

「ふふふ、ミスリルもオリハルコンも鉄のように炭素と相性が良いのがわかった。だから、炭素を含ませたのさ。炭素を含ませると固くなる。つまり普通のミスリル鋼より固いのさ」

「とうさん! すごーい!!」

 す、すごいけど、どこでそんな知識を得ているのやら。
 あの人はその後、オリハルコン製の機体も作り、この機体には火の属性を加えた。
 オリハルコンの機体には魔法は一つしか付与できないらしい。
 その後は次々に、オリハルコン製とミスリル製の機体を三つずつ作り、次にミスリルとオリハルコンを半々に使ったハーフの機体を二つ作り、最後に真っ黒な機体を作った。
 ハーフの機体は二つの魔法が付与できるのでバリアと火魔法を付与してあり、威力はミスリル製の半分とのこと。だから、バリアは範囲が半分、火魔法はオリハルコンの1.5倍という事です。

「そして、これが俺専用機、アダマンタイト炭素鋼製だ」

「あのー、とうさんアダマンタイトは、魔法適性が無いから、普通はゴーレムに出来ないのですけど……」

「なっ、なにーー。まじかーー」

 今にも泣き出さんばかりの表情になりました。

「でも、魔力が膨大な人には出来ます。魔王か魔王城のメイドだけが出来ます」

「じゃあ」

 パアーっと表情が明るくなります。
 わかりやすい。

「はい、もうやっておきました」

「よかったー。こいつは激豚メイルと名前まで決めていたんだ」

 良く見ると、お尻に激豚の文字が薄ら書き込まれている。
 角度を変えて見ないとわからないようにしてある。
 変なところだけこだわりがあるようです。

「良し、一通り完成した。まずミスリルの機体とオリハルコンの機体を一機ずつ、皇居を守る兵士に寄付し、ゲンとポンにオリハルコンの機体、ダーと藤吉にミスリルの機体。柳川と坂本さんにハーフの機体、そしてミサにオリハルコンの機体とミスリルの機体を渡そうと思う」

 ずるい、私にまで渡してくれるなんて。
 感動して、涙が出てしまう。
 これで、教団の防衛がとても楽になります。

 ――ありがとうございます

 私は心からアンナメーダーマンに感謝していた。
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