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第十六話 招待状

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「お前らのやっている事は、弱者から金を無理やり、むしり取っている様なもんだぞ。どれだけ泣いている人がいると思うんだ」

 麻薬には二種類ある。
 一つは上級国民が使う麻薬。大麻など常習性が弱い種類の物だ。
 大麻は、アルコールより健康被害が少ないと言われている。
 合法な国があるくらいだ。
 これらは俳優やアーティストなどがよく使って、逮捕されている方の麻薬だ。

 そしてもう一つの麻薬、覚醒剤はシャブともよばれ、低所得者に牙をむく麻薬だ。
 常習性が強く、副作用も強い。
 金を持っていない低所得者が、間違って使ってしまうと、借金をしてでも薬をほしがってしまう。もはや待っているのは破滅しか無い。
 ゲンはこの事を言っている様だ。

「ぎゃあははは、何を言うかと思やあ、くそくだらねえ。てめえは正義の味方のつもりか! 弱者なんぞは俺様の役に立って、のたれ死んでいけば良いんだ。アホなのか聞いて損した」

「同じ日本人が、日本人を苦しめてどうする。子供が大勢泣く事になる」

 そ、そうだ。その通りだ。

「だから、それがどうした。関係あるか。てめーはもうちょっとましな野郎かと思っていたが、糞だな」

 ――どっちがだ!!

 どっちがだーー!!!

「どっちがだーー!!! 糞野郎はてめーだーー!!!!」

 し、しまった。
 あんまり怒りがこみ上げて、心の中で思っていた事が、口から出てしまった。
 おかげで、注意が俺に向いた。
 仕方が無いので隠れていた柱から姿を出した。

 俺は黒いフルフェイスのヘルメットに黒のジャージを着ている。
 驚いた表情で俺を見ている為に、銃を持つ男達に隙が出来た。

「ぎゃあああああああああーーーー」

 俺は細く伸ばしていた体で、銃を持つ者達の人差し指と親指を、左右両方ともつぶした。
 ギュッと手で握りつぶす様に。
 骨は砕くことに成功した様だ。
 これで銃を使えなくなるだろう。
 ガチャガチャと男達は銃を落とし、しゃがみ込んだ。

 ゴッ!!!

 おおよそ人が殴られたとは思えない様な音が何度か聞こえた。
 ボスと護衛の男達が一瞬で倒れた。
 全員顔の右側の肉が裂け、顔が血だらけになっている。
 ゲンはこのチャンスを逃さず、糞野郎に怒りの鉄拳をたたき込んだようだ。

 ――滅茶苦茶つえー

 ゲンは普通の人間なのだろうか。
 俺の様に特殊能力があるようにしか見えない。
 その後は、両手を押さえて苦しむ男達の頭を、横から蹴った。
 蹴りまくった。
 全く表情の変わらないゲンに、屈強な男達が恐怖におびえだした。

「ひいいいいい」

 両足が動くのだから逃げる事も出来るはずなのに、パニックに陥っているのか、腰が抜けているのか、後ずさるだけで逃げる事が出来ない。
 あっと言う間に全員の意識が飛んだ。
 そして顔を俺の方に向けた。
 その顔は、いつも通り表情が無い。

「なんで、兄弟がいるんだ。さては、柳川だな、口止めしたはずなのに。あいつには説教が必要だな。兄弟にはあずさちゃんがいる。こんな所に来ちゃあいけねえぜ」

「ふふふ、ゲン、説教は無しだ。柳川が教えてくれ無かったら、この世の中で最も大切な3つの物の内、一つを失う所だった」

「3つ?」

「ああ、3つだ。一つがあずさ。一つがゲン。そしてもう一つが柳川だ。俺はこの三つが同じぐらい大切だ。一つも失いたくない」

「へへへ」

 ゲンの口から笑い声が聞こえる。
 だが、相変わらず表情は変わらない。

「木田さん、ひでーぜ。そこに俺も入れてもらわねえと」

「そ、そうだぜ。俺も一緒だぜ」

 ダーとポンが足を引きずりながら近寄ってきた。
 まあ、この二人もあずさと同じ日に知り合った腐れ縁かー。

「し、しかたねー。お前達をいれて、五人だ。もう、これ以上は増やさねえ。ぜってーだからな」

「へへへ」

 ダーとポンがゲンと同じような笑い方をした。
 この二人の顔は、大けがをしているのにも拘わらず、痛そうな素振りも見せず心から嬉しそうだった。

「なあ、兄弟。なにか御礼がしたい。何がほしいか言ってくれ」

 うーーん、言ってくれといわれてもなー。特に無いし。
 ここで言わねえとまた、「それでは俺の気が済まねー」とか言うしなー。
 どうしたもんか。

 ――そうだ。

「ゲン、頼みがあるんだがいいか」

「ああ、聞かせてくれ」

「あの中華料理屋へ行きたい。あずさと二人でだ。頼めるか」

「ふふふ、兄弟はおもしれー。近いうちに招待させてもらうぜ。但し俺も一緒だ」

 ダーとポンも自分を人差し指でさしている。
 俺は、こくりとうなずいてやった。

「ふふふ、楽しみだ。あの日以来一度も行ってないからな。あずさが喜んでくれるといいなー」

 俺の心は、あずさが「懐かしー」と言って喜んでいる姿で一杯になった。





 数日が過ぎた。
 ゲンからの招待状が来た。
 俺は、柳川に頼んであずさのドレスを新調してもらった。

「ねえ、今日は何があるの」

「行ってからのお楽しみだ」

 ――あーしまった。

 ゲンに殺し屋は無しだって言うのを忘れたー。
 やばい、また、殺し屋が来たらどうしようか。

 店に着くと、あずさの様子がおかしい。

「うわー、高そうなお店。こんなお店はじめて来るー」

 いやいや、そんなはずは無い。
 初めてじゃないぞー。
 どうなっているんだー?
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