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第十話 とある休日

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 学校が始まって、ダメージを受けているのは俺の方かもしれない。
 ずっと一人で暮らしていた俺は、この先も一人で何事も無く暮らしていけると思っていた。
 だが、ここ数ヶ月あずさちゃんと、一緒に暮らしてみると、学校に行っている間がなにやら空虚に感じる。
 つまりさみしい。あずさちゃんは学校で楽しく過ごしているのだろうか。

 だから、俺の方があずさちゃんの休みを楽しみにしている。
 今日は土曜日で、学校がお休み。一日中一緒なのだ。
 今日の予定は、ボクシングジムの体験をしようと考えている。
 その後はそのまま街でお食事だ。

 実は、俺は弱い。
 この世界には、おそらく俺の様な奴が三十人はいるだろう。
 正義の為に力を使う者もいるだろうし、悪い事に使う者もいるだろう。
 もし、そんな奴らが俺の存在を知って襲って来たら、その中では最弱と考えていい。
 なぜなら、俺はまだ人を殴った事が無い。そして殴る行為そのものが恐いのだ!!

 俺は、一人で生きて行く為なら、今まで通り逃げて隠れて生きて行けばいい。
 だが、今は少なくともあずさちゃんは守りたい。
 と言う事で、人と戦う為の技を、学ぼうと考えているのだ。

「おはようございます」

 柳川が、俺の部屋に入ってきた。
 いつもの社長室だ。

「もう時間なのか。じゃあ、あずさちゃんを起こして、準備するから、もう少し待ってくれ」

「わかりました」

 柳川の案内で街のジムへ向う予定だ。

「うふふ、今日は一日中、とうさんと一緒。うれしい」

 車の後部座席に座ると、あずさちゃんが、腕につかまってきた。
 最近では、あずさちゃんは、ガイコツを卒業している。
 肉が少しずつ増えて、ガリガリに痩せた少女ぐらいにはなっている。
 随分可愛くなった。

「う、うん」

 恐ろしい、俺の考えが読めるのじゃ無いだろうか。
 思わず俺も、と言いそうになった。
 会社から街までは、一時間以上かかる。
 何しろここは僻地だ。



「ここです」

 着いたところは、ビルの一階の割と新しい広いボクシングジムだった。

「柳川ビル」

 ビルの名前が少し気になったが、ジムの中に入った。
 ジムの壁には、女性一人でも安心ボクササイズとか、新規会員募集とかポスターが貼ってある。

 土曜日の午前中なのに結構人がいる。
 だが、ガチ勢なのか、人相の悪い奴らがリングの上から、俺を見てニヤニヤしている。
 まあ、俺はデブでいつもいじめられキャラだから仕方が無い。
 受付に誰もいなかったが、俺達を見つけると走ってきた。

「新規入会ですか」

「いいえ、この方が体験をしたいと」

 柳川が、応対してくれた。

「そ、そうですか」

 駆けつけた、受付のお姉さんが、俺を上から下までジロジロ見てくる。
 まあ、言いたい事はだいたい分かりますけどね。

「ダイエットですね」

 決めつけるなー。

「少しボクシングをならいたくて、パンチとか」

「ひひひ、俺が相手をしてやろうか」

 リングの上から、人相の悪い奴らが、馬鹿にして言ってくる。
 良く見ると、ガチ勢はみんな、俺を招かざる客と思っている様だ。
 まあ、美しい女性と、本気の男以外はお断りなんだろうと思う。
 柳川が、嬉しそうに笑っている。
 こうしてみると、柳川の方がリングの上の奴らよりも恐い。

「こちらへどうぞ」

 お姉さんが、リングの上をにらみ付けると、俺を案内してくれた。
 さすがに最初からリングの上は、無いのだろう。
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