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第百六十二話 思案

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――助けて下さい。アスラ様!!!
私は、心の中で叫んでいました。

「…………様……」

心の中だけで叫んだつもりが、ほんの少しだけ口から声が漏れたようです。
そして、とうとう涙が一粒こぼれました。

「ぐあああああああああーーーー!」

「!?」

バルゼオが叫びました。

「き、きさま、気が狂ったか。リョウキーーー!!」

リョウキ様はバルゼオの背後から剣を刺しました。
剣はバルゼオの脇腹を右から左に貫通しています。
真っ直ぐ刺さなかったのは、私に当たらないように配慮してくれたのでしょうか。
膝を突くバルゼオの腹から大量の血が漏れてきます。
誰の目からも助からない事は明らかです。

「気が狂っているのはあなたの方です。あなたが辱めようとしているお方は、大聖女イルナ様の側近中の側近ライファ様ですよ。わかっているのですか! 今や王国の支配は天帝の勇者様と大聖女様に二分されています。領主バルビロ様も、大聖女様の陣営に参加することを決心された矢先なのですよ」

「くそーー!! お前達! リョウキを殺せーー!!」

バルゼオは苦しみながらも命令しますが、配下の者達は動けないでいます。
このままバルゼオが死んでしまえば、ただの反逆者になってしまうからです。

「シュドウ、全員でアスラバキって下さい!!」

私はシュドウに命令すると、自分でもバルゼオの配下にアスラバキをはじめました。
私の優秀な配下、シュドウとシャドウは、これだけの命令で的確にバルゼオの配下だけを、アスラバキしていきます。知能の高さを感じます。
そして、最速でアスラバキをしているのに、私が三人アスラバキする間に、シュドウとシャドウは五人ずつアスラバキしています。

この事から、シュドウとシャドウは私よりもはるかに強いことがわかります。
普通の人は何が起きているのか、目では追えないでしょう。
三百人以上はいるのでしょうか、バルゼオの配下は、あっという間に行動不能になりました。

私は倒れているバルゼオの前に仁王立ちになります。
だんだん呼吸が弱くなるバルゼオを見下ろして、私は迷っています。

――助けるべきか、見殺しにするべきか。

感情的には助けたく有りません。
でも、イルナ様なら。
そして、天神の勇者アスラ様なら。
……大魔王アスラ様なら。
考えれば考えるほど、答えはひとつになります。

「良かったです。腕とか足とかを切り飛ばされていなくて。私は未熟なので失った体までは元に戻せません。――治癒!」

「!?」

私の治癒を受けてバルゼオは座り込みました。
ふしぎそうな顔をして腹を見ています。

「助かったのか……?」

バルゼオが小さくつぶやいた。
しばらく無言で座り込んでいると、目から涙があふれ出した。

「すまなかった。ライファ様!! このバルゼオ心を入れ替えてライファ様にお仕えいたします!!!」

「はあーーーーー!!!!」

な、何を言っているのでしょうか。
まさかあれですか。
大けがをおった猛獣が手当をしてもらって、なつくとか言うあれですか。
大粒の涙を流し、目をキラキラさせているバルゼオは、心からそう言っているようにしか見えません。

「いやーー、いさましいですなーー。下着姿の聖騎士ライファ様」

ニヤニヤしながらリョウキ様が言います。
バルゼオは、鼻水を垂らして、恥ずかしそうに下を向きました。

「……!? いやーーー!! 見ないでーー!!!!!」

私は顔が真っ赤になり、しゃがみ込んで体を隠しました。
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