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第三十六話 ヤマト商会

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道路を走り小さくなっていくイサちゃんは、先頭集団から遅れて、段々と最後尾になり、そこからも遅れそうです。

「レイカ様、行かせてしまってよろしかったのですか?」

ゾングさんが心配そうに聞いてきました。

「そ、そうね。少し鎧が重すぎたようです。騎馬隊に追いつくのがやっとみたいです。鎧がなければ馬より速く走れるのに、鎧の重さが想定以上でした」

「いえ、いえ、そうではありません。私はフト帝国にも店を持つ商人です。ドウカンについても見知っています。敵将ドウカンの強さは異常です。常人ではとても到達出来ないような高みにいます」

ゾングさんはイサちゃんを、まるで自分の肉親のように心配しています。

「ゾングさん、あなたは間違っています。もし、ドウカンがイサちゃんより強いとしても、イサちゃんの装備は世界一です。負けるはずがありません」

チマちゃんが自分の事のように自慢しています。

「おお、そうでしたな。あの剣はすごい、レンカの宝刀を真っ二つに切ってしまう。鎧はきっとレンカの宝刀でも切ることはおろか、傷一つ付けられないはずですね。ならば安心だ!!」

ゾングさんが言うのを聞くと、嬉しそうにチマちゃんがうなずきます。

「チマちゃん、ゾングさん。二人とも間違っています。イサちゃんは、恐らくドウカンより強いですよ。うふふ、安心して吉報を待ちましょう」

私がそう言うと、ゾングさんは黙り込んで私を見ています。

「そうですか。ならば私、ゾングは戦場へ向います」

「えっ!?」

「ああ、娯楽ですよ。娯楽。フト帝国とサイシュトアリ国は軍規が厳しいので民間人は殺されません。そういう軍隊の戦いは、見物する人が多いのです。私もよく娯楽として戦争を見物します。商会の中の物はすべてレイカ様の物です。返却不要! 使用人達は、王都のもう一軒の、私の店に行くように伝えてください。では行ってきます」

そういうと、ゾングさんはいそいそと戦場へ行ってしまいました。
私達はその姿を見送ると、お店に入ってみました。

壊れた玄関を入ると天井が高くて広いロビーです。

「おおおーーっ」

子供達が天井を見上げて思わず声を出しました。
ロビーの天井は、美術品のような彫刻が施されています。

――こ、こんなのもらっていいのでしょうか? とても高そうです。

「探検……、探検してきてもいいですか?」

三人の子供達が、子供の様にキラキラ目を輝かせて私を見つめます。
こんな目で見られたら、返事はこれしかありません。

「仕方が無いですねえ。こころ行くまで行ってきてください!!」

「はーーーーい!!!!」

三人が飛び跳ねるように走って行きました。
私は、護衛がいないと不安なので、お店の武器をいくつかつぶして一つにまとめると鉄人を二体作りました。
鉄人なら、今の私にとっては魔力をほとんど使わずに作れます。
二体程度なら魔力残量は気にしなくても大丈夫です。
銀色に輝く、甲冑を着込んだ大男のような鉄人にしました。
これなら、ゴーレムとはわからないでしょう。

「レイカ姉ーー!!!! お宝を発見しましたーー!!」

チマちゃんが扉から首だけ出して楽しそうに言いました。

「なになに??」

「じゃーーん、金庫ーー!!!!」

「えーーっ、本当におたからじゃないのーー!!」

「開けられますか?」

「どうかなあ」

私は金庫にゴーレム魔法をかけました。
そして、その金庫ゴーレムに命令します。

「開きなさい!!」

「おっ! おおおおおーーーーっ!!!!」

チマちゃんが驚きの声を上げます。

「えええええぇぇぇぇーーーっ!!!!」

私は、驚きで少し目玉が飛び出しました。
何と金庫の中には金貨がぎっしり入っています。
さすがにこれはもらえません。今度返しておきましょう。
他にも子供達はお宝を持って来ましたが、金庫ほどのインパクトのあるものは有りませんでした。

このお店はもともと武器商人ゾングさんのお店です。
さすがは世界一を自慢する武器商人、色々な武器が有り武器の宝箱のようでした。
でも、私は武器商人をやるつもりはありません。
武器は、全部つぶして鉄人にしました。
私が目指す商店は、ヤマト村の特産品のお店ですからね。不要です。
武器をつぶすと、倉庫の中もお店もずいぶん広くなりました。

「うわあー! さすがはレイカ姉様ですね。もう、こんな物まで手に入れたのですか? アーサー様のお屋敷より大きいじゃ無いですかー」

私達がロビーに置いたテーブルでくつろいでいると、イオちゃんが入って来ました。
すでに、私達の事が伝わっているみたいです。

「もう、お耳に入りましたでしょうか?」

「それは、もうしっかり。街の衛兵をぶっ飛ばして、世界一の大商人をひざまずかせましたとか……」

「ひゃあっ!! どうしましょう?」

「どうもしませんわ。この国は既にレイカ姉様無しでは立ちゆきません。思うままになさってください。それでこのお店は、どうするのですか」

「はい。ここでは、ヤマト村の特産物を販売したいと思って居ます」

「それは、すばらしい。冷蔵庫とか、お風呂ですね」

「い、いえ。お肉とか農産品、それとお味噌とか醤油とかです」

「じゃあ、唐揚げとか、とんかつを、試食をしないといけないですね。皆に食べさせれば、きっと売れますよ」

「そ、それは名案ですね」

こうして、この商館はヤマト商会という名前にして、ヤマト村の特産品の試食をしてもらって、商品を買ってもらうというお店にしました。
連日、御貴族様の間では有名になっているのか、訪問客がたえません。
毎日が忙殺されてしまい、あっという間に二週間が過ぎてしまいました。
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