北の魔女

覧都

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第百七十九話 王都占領

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魔王の森の奥深く。
魔王最高幹部第十席ゴルド国。
食事の席にゴルド配下の幹部が招集された。

中央にゴルドが座り、右手にケーシー、そして空席が三つ、続いてキヌ、ゴグマ、ゴラン、ウカクが座っていた。

「ケーシー、あれから一週間だ。国民の移住も終わったのに、何故メイ達が来ていないのだ」

「はっ?」

ケーシーはゴルドの質問の意味が分からなかった。

「もう、メイ達が戻って来ても良い頃だろう」

ゴルドは、メイ、クーカイ、サエの三人が帰ってくると思っていたのだ。

「三人は、ヒガクで降伏をしていると思います」

「な、何だと!!」

「もともと、あの三人はシバ親子を人質としていたために、我が軍に拘束出来ていただけです。シバ親子がいなくなれば、あの者達は元の主人のもとへ帰って行くでしょう。まあ律儀に一週間、ヒガク要塞は守り抜いて下さいましたが」

「では、ケーシー。ゴランとシバ親子の捕虜交換で、こうなることが分かっていたのか」

「はい」

「愚かなことを、そなたはわしを、わしを……」

ゴルドは怒りから、拳を固く握りしめその手が震えていた。
そして怒りをかみ殺しながら、静かに続けた。

「わしを…… その程度の男と思っていたのか。わしは、メイ達三人を失う位ならゴランの命などいらん。息子の命より使える部下の命を大切と考えるのだ……」

ケーシーはゴルドを見誤っていたことに気が付いた。
魔人ケーシーは、捕虜交換を最初に不要だと思っていた。
そう思ったのだが、シバ親子とゴランの捕虜交換を聞いたときのゴルドの表情を見て、ゴルドも普通の人間であったのかと思い、受けてしまったのだ。

「あの時の捕虜交換が、メイ将軍を失うと伝えておけば、よろしかったのですね。すべては私のミスです」

こう言いながら、ケーシーはゴルドという男を見直していた。
(父子の情より、有能な部下の命に重きを置くのか。なるほど組織がでかくなるわけだ。しかも国を惜しげも無く捨てる判断の速さ。これによって、こちらの開発が飛躍的に進む。この男を第十席に加えた魔王様の慧眼に感服するばかりだ)

「うまく行くかどうかは分りませんが、もう一度人質を取り、あの三人を配下に迎えられるよう手配します」

「うむ、この先有能な者の手はいくらあっても足りんからな」

「はっ」

こうして、食事が始まり、魔王の森の国造りが加速して行くのであった。



「メイさん、クーちゃん、サエちゃん、おかえり」

笑顔でまなが三人を迎えた。

「ただいまー」

三人の声がそろった。

メイはヒガク要塞を守り八日目の朝、城門の上に巨大な白旗を上げた。この日、ヒガク要塞は降伏した。
このあとオリ国軍は、ゴルド国王都を目指し行軍を始める。

ゴルドは、国民に家財も家畜も全部まとめて、魔王の森に移動させた。
そのため途中の村も街も、もぬけのからでご丁寧に建物には火をかけ、井戸には毒が放り込まれていた。
オリ軍は戦闘をすることも無く、半月で王都に着いたが、ここも火がつけられ今もなお煙がのぼっていた。

「ふふふ、勝ちはしましたが、何も無い不毛の国土ですね」

シュウが寂しそうに笑っている。

「そんなことはありません。この国を豊かな国に出来る人がいますよ」

シュウに声をかけたのは、オリ国の王マリアであった。
それだけではなかった、ヤパの国王ノル、イナの国王サキもいる。

「三人で話し合った結果、この国はまなちゃんに統治をしてもらうことに決まりました」

「はーー、なんでわたしー」

まなは心底嫌そうな顔をした。
その顔がおかしくて近くにいた者達が、皆で笑い出した。

「オリ国が占領したのだから、ここはオリ国のものです」

まなが助けを求めるような顔でキョロキョロしながら答えた。

「それは違います。オリ軍は国土を奪還した後は、まな総大将の援軍をしていただけです」

マリアが勝ち誇った様な表情で答える。

「ぐはっ、で、でもそれなら、ザン国の王族の生き残りを探して王様になってもらうのが筋です。私達は義勇軍なのですから」

まなが今度は、勝ったという表情になった。

「では、ザン王家の血筋が絶えていた場合は受けて頂けるのですね」

マリアがまなに真剣な顔で、その顔をグイッと近づけた。
マリアの顔が美しくて、良い匂いがして、まなはぽわーんとなってしまい。

「はい」

そう答えてしまった。

「よーーし、言質取りましたからね」

三人の王様の声がそろった。
そして、腰のあたりで拳を握りしめた。
三人はすでにザンの王族の血筋が絶えているのを知っていたのだ。
たとえ知っていなくとも、ゴルドが生かしておくわけが無かった。

「ちゃ、ちゃんと探して下さいよ」

少し不安になり、まなは三人に念押しした。

「では、皆さんこの国の王族が見つかるまで、暫定責任者を、まなちゃんにやって頂きます」

マリアが大きな声で宣言すると、集まっていた義勇軍から歓声が上がり、オリ軍からは拍手が起った。

その夜は場外で宴が執り行われ、皆大いに酒を飲み食事を楽しんだ。
まなは胸をほっとなで下ろしていた。
心に引っかかっていたシバ親子の件、メイとサエの事が解決したからだ。

「まーなちゃん、誰か忘れてやしませんかー」

まなに声をかけたのは、眉毛が垂直に吊り上がったレイだった。

「あっ、レイさん。お疲れ様―」

まなは最上級の笑顔を作った。

「お疲れ様―じゃ、ないですよー。王都は火の海になるし、シバ親子の事が心配で動けないし、大変だったのですからね!」

まなは、すっかり忘れていたことは口に出せないでいた。
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